【中学受験と親の役割】他の子と比べるのはなぜ良くない? 「翼の翼」の朝比奈あすかさんに聞く

中学受験への親の関わり方 小説「翼の翼」著者・朝比奈あすかさんへの10の質問・2

 中学受験をテーマにした小説「翼の翼」(光文社)の作者、朝比奈あすかさん(46)をゲストに招き、読者からの質問を一緒に考えるすくすくオンライン講座「中学受験、親の関わり方は?」。【1・志望校はどう選ぶ? 伸び悩んだ時の声かけは?】に続く今回は、「ついつい偏差値や順位で他の子とわが子を比較してしまう」「勉強しない子に怒ってしまう。子どものやる気を出すには?」「共働きでも子どもをサポートできるのか不安」という3つの質問を考えます。

質問5:偏差値や順位で他の子とわが子を比較してしまいます

 受験では、他人の子とわが子を比較してしまいがちだと思います。気を付けていたことがあれば教えてください。(都内、30代女性)

【質問詳細】 受験は、偏差値や模試の順位などで相対評価されてしまい、他人の子どもとわが子を比較しがちになると思います。そのときに気を付けていたことがあれば教えてほしいです。

比較して言葉にしてもいいことはない

朝比奈あすかさん すごくよく分かります。私もそうですし、おそらくすべての人が比較する心を持っています。比較して考えるのは、いい方向に働けばよいのですが、比較していることを口に出してその人に知らせても、いいことって何もないと思うんです。自分がされたらどういう気持ちになるか考えれば、分かりますよね。

 家事の仕方や容姿、仕事の出来不出来…。大人も比べられたくないことはいっぱいあって、それをもし子どもに指摘されたり、親しい人に言われたりしたら、絶対にむかっとするし、やる気がなくなると思うんですよね。

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質問に答える朝比奈あすかさん(右)

 誰かと比較するようなことを子どもに言うのは、自分がスカッとしたいため。自分がストレスを発散したいだけで、言われた側はやる気がなくなったり、いじけたり、悲しい気持ちになったり、一つもいいことがありません。比較する気持ちはわき上がるものですが、私たち親にはそれを言わないことが課せられていると思いますね。

東京すくすく編集長・今川綾音 同じ学年で受験をする仲間同士も比較されますし、きょうだい間や、親子間でもありますよね。お父さんはこうだったけど、子どもは、と。「翼の翼」の中でも、お父さんと翼君を比べているシーンがありましたが、親だけではなく、おじいちゃんおばあちゃんまで絡んできていたのがすごくリアルだなと思いました。親だけではなくて、祖父母を含めた周囲にも「比較するようなことを言わない」と意識してもらえるといいですね。

朝比奈さん この小説は、誰に読んでもらいたいというのはなく書きましたが、おじいちゃんおばあちゃん世代の人にも読んでもらってもいいかなと、出版してから思うようになりました。というのは、孫の受験に口を出す祖父母が結構多い、と聞くんです。首都圏だと、自分も子どもを受験させた経験があることから、「この学校はどうのこうの」と批評家みたいに学校選びに影響を及ぼす祖父母もいて、「ちょっと黙って見守った方がいいんじゃないかな」と思いますね。

今川 親も祖父母も、なるべく口を出さずに見守ってあげるというのが鍵なんですね。

朝比奈さん 口は出したくなりますよね。ただ、厳しい言い方かもしれませんが、子どもの道を支配し、コントロールして行く道を決められるほどの力が自分にあるのかといったら、そんなことができる人間はあまりいないと思うんですよね。受験の専門家や先生方も、自分のお子さんをベストな道に導けるのかというと、なかなか難しいとおっしゃっていました。やはりそこは、口を出すより、子どもの力を信じて見守ることが大事だと思います。

今川 子どもの力を信じたい、子どもが自分でやらないと、というところで多くの親御さんも悩んでいるようです。こんな質問もありました。

質問6:勉強しない子に怒ってしまう。子どもがやる気を出すには?

 勉強しない子どもに怒ってしまい、親子関係が悪くなる一方です。どうしたら子どもは自分からやる気を出してくれるのでしょうか。(3じのまま、40代女性

【質問詳細】 (【中学受験で「毒親」にならないために】のインタビュー記事にあった)「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」とは、まさにその通りです! 子どもの首ねっこつかんで机に向かわせても全然勉強しません。怒ってしまい、逆ギレされて親子関係が悪くなる一方。こっちだって怒りたくないのに…。どうしたらお互い穏やかに、子どもは自分からやる気を出してくれるのでしょうか?

子どもに積んでおくべきエンジンとは

朝比奈さん これは本当に難しいですね。塾に入れたり、個別指導や家庭教師のお金を出してあげたり、親がたくさんのお膳立てをしても子どもが怠けることは多々あります。水場に連れて行っても水を飲むのは本人です。勉強をするのが作業のようになっていると何も意味がない。親がいつまでも隣について勉強を見てあげるわけにはいきません。学んで理解して自分のものにするという勉強を可能にするのは、子ども本人の力だけです。

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今川 子どもがその段階に達するのを親は見守るしかないんだな、と思うことがありました。私の娘は受験はせず地域の公立の中学校に進んだんですけれども、テスト前の土日でもずーっと部屋で好きなことをしてるんですよ。明日テストなのに朝から1ページも開いてない、と親としてはやきもきするんですけど、「自分で気づくまで待つしかないよ」と夫に言われて、「『勉強いつするの?』って言ったら負けだ」と思って絶対言わないようにしていたんです。ようやく中学2年生になって、「毎日1時間は勉強することにするんだ」とテスト期間でなくても自分から机に向かうようになったので、「あ、スイッチ入ったんだ」とほっとしたのですが、ここに至るまでがすごく長かったです…。

朝比奈さん いや、でもすばらしいです。自分のスイッチを自分で見つけて押したわけですから。

今川 中学受験は、そのスイッチを押す期限があるというか、早い段階でスイッチが押されていないと難しいのかな、と感じます。そのことで悩まれている方はやはり多いようですね。

朝比奈さん はい、すごく多いです。やる気を出させるというのは本当に難しい。大人だってなかなかやる気が出ないから、やる気を出させるための自己啓発本が山ほどあるくらいなので。「やらなきゃならない」となった時にやれるエンジンを子どもに積んでおくことにフォーカスした方がいいのでは。

今川 やらなきゃならなくなった時に?

朝比奈さん やらなきゃならなくなった時にやれる。ちゃんと自分の力を信じて勉強できる。つまりそれは、どういうエンジンかというと、「自分はできる」「自分は頑張ればできるんだ」という自分への自信とか、自分の存在を親や周りに認めてもらってるんだという揺るぎない基盤です。これがあると、「今、勉強が必要な時なんだ」と気づいた時にちゃんと学べる。「どうせ自分は」という気持ちになってしまう、萎縮するような声かけをずっと親にされていると、やる気自体がなかなか出なくなってしまいます。

 無理やり何かをやらせるより、子どもの気持ちの基盤を作っておくことの方が、特に小学校低学年くらいの時期までは大事だと思います。つまり、今親が水をくんで無理矢理飲ませることよりも、いずれ必要を感じた時に水をちゃんと自分で飲む力がある子に育てることが大切なのです。

今川 水をちゃんと飲むというのは、多分中学受験だけではなくて、人生を通して必要なことですよね。

朝比奈さん そうですね、小6までに間に合う子って本当に少ないとは思うんですけれど、もし小6に間に合わなくても、そのエンジンがあれば自分が必要だと思った時期に自分で努力ができるので、目先の合格より、その力をつけるほうが本当は大事です。とにかく親は心の基盤作りに徹したほうがいいと思います。

質問7:共働きでも子どもをサポートできるのか不安です

 中学受験をさせたいのですが、共働きなので子どもに併走できるか不安です。限られた時間でどうやって子どものサポートをすればよいでしょうか。(都内、30代、5歳息子の母)

【質問詳細】私は中学受験経験者で、5歳の息子もできたら中学受験をさせたいと思っています。ですが、共働きでできるのかかなり不安です。

 中学受験のプログラムは親と子ども一緒になって併走するのが前提で組まれていると感じています。宿題の量やカリキュラムなど、小学生一人が自分で計画性をもってできるとは思いません。また、受験直前になると子どものメンタルが不安定になりがちかと思いますが、そのときに寄り添うだけの時間があるかも不安です。限られた時間でどうやって中学受験と向き合い、子どもをサポートすればよいでしょうか。

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朝比奈あすかさん

人に任せた方が親子関係は悪くならない

朝比奈さん こちらは5歳ということで、これからのことでお悩みなんですね。私は家でする仕事だったので、自分の経験からは答えを出せないのが申し訳ないのですが、周りの友人を見ているとフルタイムで働いている方も結構いて、塾の選び方を工夫していました。自習室があるところを優先的に選んでいたり、個別指導の先生や、勉強的なことをさせてくれる学童保育を探していたり、いろいろと情報を集めていたようです。祖父母の力を借りている方もいました。祖父母の対応力や、自習室のある塾が近くにあるかどうかといった個々の事情で変わってきてしまうので、これがベストですよとは言えず難しいです。

今川 逆に言うと、親が共働きでサポートが完璧にはできない部分を塾や親ではない他の人に任せることができるということですね。

朝比奈さん 任せた方がいいのかな、とも思いますね。親子が受験勉強でガッツリ向き合うと、たいていケンカになります。子どもが自発的に勉強をするというのは非常にまれなこと。「翼の翼」の中でも、お母さんが付箋を貼って「ここをやっておくように」と言ったのに、実は全然やってないという場面も書きました。小学生の子が自分をコントロールしながらしっかり目的に向かって勉強するのはかなり難しいですし、そこはプロの力を借りるところかな、と。そのほうが親子の関係が悪くならないと思います。

 続く【3・夫婦仲の悪化を防ぐには? 中学受験を「降りる」とは?】では、「合格しても入学後のミスマッチが心配です」「中学受験から『降りた』エピソードを教えてください」「中学受験で夫婦仲が悪化しないためには?」という3つの質問を考えます。
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