こんな親になりたい…世界中で人気のドイツ漫画「おとうさんとぼく」展

中里宏 (2018年10月26日付 東京新聞朝刊)
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「おとうさんとぼく」から「ぼくの家出」(実行委員会提供)

 1930年代、ナチス政権下のドイツで国民的な人気を博した漫画「おとうさんとぼく」。自由な精神の持ち主だった作者エーリッヒ・オーザーは秘密警察に逮捕され、非業の死を遂げたが、ユーモアと親子愛にあふれた作品は戦後も世界中で、愛されている。埼玉県小川町の大橋珠美(たまみ)さん(60)もドイツでの子育て中に癒やされ、励まされた1人だ。「できるだけ多くの人にオーザーを知ってほしい」と実行委員会をつくり、30日から小川町立図書館で「今こそ『おとうさんとぼく』展」を開く。 

10/30から、埼玉県小川町の図書館で開催 

 大橋さんらは今月12~14日、東京都内のギャラリーで同展を開いたのに続き、地元での開催になる。「オーザーの作品に絞った展示会は日本で初めてではないか」という。

 大橋さんは1995~2000年、夫の赴任先のドイツ・フランクフルトで生活。異国で男の子2人の子育てに追われる中、ふと立ち寄った書店で偶然「おとうさん-」に出合った。

 「子どもをしかるたびに作品中のお父さんみたいな母親にならなくちゃと、本を開いていた」と振り返る。子どもの成長後、大橋さんが再び「おとうさん-」を多くの人に知ってほしいと考える出来事があった。

2人の女性の働きかけで、7月に新版発行が実現

 それは11年の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故だった。「それまで原発について学ぶ機会があったのに、立ち止まらず通り過ぎてしまったことがショックだった。これからは自分の考えをきちんと表現していこう、そのときはユーモアを携えていこうと考えたとき、この本を思い出した」と話す。

 ドイツの新聞社の東京支局で勤務経験があり、やはり「おとうさん-」が大好きだった森実(もりざね)真弓さん(68)=埼玉県ときがわ町=を友人から紹介され、二人でドイツにある記念館「エーリッヒ・オーザー・ハウス」に通うなど、展示会の準備を進めた。

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展示会を実現させた大橋さん(左)と森実さん。東京では長野県や大阪府からもファンが駆け付け、メッセージを残したという=埼玉県小川町で

 今年1月には2人で日本での出版元の岩波書店に「おとうさん-」の再版を要請。7月に岩波少年文庫での新版発行が実現した。大橋さんは「新版発行が実現しただけで思いの半分が遂げられた」と力を込めた。

 「おとうさん-」の作者名はオーザーのイニシャルと出身地名を足した「e.o.プラウエン」。オーザーは当時、ナチスを批判する風刺画が問題視されて執筆停止処分を受けており、作品発表の条件が非政治的な内容にすることと変名による執筆だったからだ。

ナチス政権下で非業の死…立ち止まって今の世界を考えよう

 オーザーは1944年3月、ベルリン空襲の避難先でのナチス批判の会話が密告され、ジャーナリストで作詞家だった親友と共に秘密警察ゲシュタポに逮捕された。審理の前日、親友の助命嘆願を書き、妻子を残して留置場で自殺し、親友も同年5月に処刑された。

 展示会では「おとうさん-」のほか、多才な画家だったオーザーのさまざまな作品や、自由な精神を持ちながらナチス政権下のドイツにとどまった親友2人との交友や苦難の人生を紹介する。実行委は「1人の芸術家があの時代をどう生きていったのか。世界中がおかしな方向に向かっている今、通り過ぎるのではなく、立ち止まって考えてほしい」とのメッセージを展示に込めたという。展示は11月4日まで。入場無料。

「おとうさんとぼく」

 いたずら好きな男の子と父親が繰り広げるユーモアあふれる日常を描いたセリフのないコマ漫画。1934年から3年間、ドイツの週刊紙「ベルリングラフ」に連載され、3冊の単行本が出版されるなど国民的な人気となった。子どもをしかった父親が、厳しくしすぎたことを後悔する場面など、子どもの心を失わない温かい父親像が、世界で数百万ともいわれる読者の共感を呼んだ。

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