児童相談所の財源をめぐり東京都と23区が対立 区の児相設置で税収配分は?「子どもの命の問題」と議論求める声
江戸川の事件きっかけに「区営」可能に
児童相談所は元来、都道府県に設置義務があったが、2016年の児童福祉法改正で特別区での設置も可能になった。きっかけは、江戸川区で2010年に起きた児童虐待死事件。当時、学校や区、都の児相のいずれも虐待の情報を把握しながら、連携不足で事件を防げなかった。
江戸川区は事件を教訓に、区営の児相開設を要求。2020年4月、江戸川、世田谷両区が開設し、現在は7区が運営中で、新年度、葛飾区も加わり8区となる。
財政調整協議 「役割変更」で見解対立
都は2020年1月、固定資産税などの税収の区側分を55%から55.1%に引き上げることに同意。「児相運営に関する都区の連携・協力を一層円滑に進めていく」ための「特例的な対応」とし、3年後に改めて協議するとした。
今回、2兆1102億円の税収を巡る財政調整協議で、都は3年前に引き上げた0.1%(約20億円)を元に戻し、区側55%、都側45%を主張した。担当者は、配分率変更の原則は「都と区の事務配分または役割分担に大幅な変更があった場合」と強調。「大半の児相は都の管轄のままで、大幅な役割変更には当たらない。7区が少ないとは言っていないが、何区ならいいかという定義はないので区側と協議したい」と話す。
これに対し、特別区長会事務局の担当者は「8区の児相の運営費は計125億円。税収の配分は0.5%を足した55.6%が適切だ」と説明する。
世田谷区長「明らかに紛糾する材料を…」
児相を運営する世田谷区の保坂展人区長は東京新聞の取材に「区の児相設置は大幅な役割変更だ。3年前の0.1%を返せというのは区の児相がなかったかのような主張で話にならない。都と区が子どもの命を守るため本格的に連携しようという時、明らかに紛糾する材料をわざわざ持ってくる都の意図は全く測りかねる」と憤る。
2023年度予算案を審議する都議会第1回定例会は15日開会だが、財政調整を巡る関連条例案の提出のめどは立っていない。
識者の声「都の主張は説明がつかない」
◇大杉覚・東京都立大教授(行政学)の話 子どもの命に関わる領域だけに、協議の焦点が財源争いに終始してしまうのは残念だ。児相体制の強化という法改正の趣旨を踏まえれば、都区間の役割分担の変更と考えるのが自然。実際に児相を新設した特別区で財源が必要となる実情を考慮すると、0.1%を戻そうとする都の主張は説明がつかない。清掃事業のような一律移管ではないので、関わる区の分だけ配分率を上げるなど経過措置を講じたらどうか。大都市部ならではの児相の役割分担、都区の連携の強化など本質に踏み込んだ検討をすべきだ。
都区財政調整制度とは
東京都と23区は他の市町村とは異なり、上下水道や消防など一部事務を都が実施。このため、都が23区に代わり、調整税と呼ばれる市町村民税法人分、固定資産税、特別土地保有税などを徴収し、一定割合を区側に特別区財政調整交付金として渡している。算定方法は毎年の財調協議で都と区が話し合い、都議会第1回定例会で条例案として提出。2022年度の協議では調整税など1兆9797億円のうち55.1%が区側の割り当てだった。
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