教員の労働時間を年間で調整 給特法改正案を閣議決定 現場から実効性に疑問の声

(2019年10月19日付 東京新聞朝刊)
 政府は18日、公立小中高校などの教職員の勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を、自治体の判断で導入できるようにする「教職員給与特別措置法」(給特法)改正案を閣議決定した。過労死ライン超えの長時間労働が常態化している教員の働き方改革の一環だが、現場からは実効性に疑問の声も上がる。

過労死ライン超えが常態化

 変形労働時間制では、卒業・入学式や運動会シーズンなど忙しい期間はあらかじめ教員の勤務時間を長く設定し、通常より多く働いた時間分を児童生徒が夏休みの8月などに休日として付け替えることができる。

 文部科学省は1月、時間外労働の上限目標を月45時間、年360時間以内とするガイドラインを策定。これを「指針」に格上げし、法的拘束力を持たせることも法案に盛り込んだ。変形労働時間制を採用する場合は、この上限を超えないことを条件にする。また、介護や子育て中の人などは対象から外す。

 文科省が2016年10、11月に実施した勤務実態調査では、小学校教員の33.5%、中学校教員は57.7%が過労死ラインといわれる月80時間以上の残業をしていた。長時間労働が常態化した背景には、給与の4%を一律に上乗せ支給する代わりに、勤務時間外や休日に何時間働いても残業代が出ない給特法があると指摘される。3年後をめどに労働時間の調査などを行い、見直しも検討する。

 文科省は21年4月の開始を目指すが、現状の長すぎる労働時間の削減が前提とし、部活動の外部指導員や、書類作成などを手伝う「スクール・サポート・スタッフ」の導入、教職員定数の増加などを進めるとする。残業を減らし、まとまった休みが取れる環境を整備して仕事の魅力を高めたいとしている。

4月に働いた疲れを8月の休みで癒やせるのか? 現場からは危ぶむ声

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 残業を減らし、まとまった休みを取れるようにする-。文部科学省は、変形労働時間制の導入をそのための一里塚とするが、現場の教職員からは「統計上の勤務時間が減るだけだ」と危ぶむ声が上がる。

 「家族が学校現場で過労した。4月に労働した分(の疲れ)を8月に休暇を取って処理できるのか? 次の日に休まないと成り立たないはず」

 8日、参院議員会館で高校教員の西村祐二さん(40)らが開いた「学校の長時間労働と給特法のこれからを考える集い」。参加者の男性が、会場後方から怒気を込めて発言した。

 西村さんらが9月中旬から変形労働時間制の撤回を求める署名活動を始めたところ、約1カ月で3万2000人以上の賛同が集まった。今月下旬に文科省へ届ける。西村さんは「業務を減らし、早く帰れる環境をつくるのが先。変形労働時間制を導入すれば、実際の残業時間は変わらないのに統計上は減り、働き方改革が進まなくなることは容易に想像できる」と指摘する。

 学校現場に詳しい内田良・名古屋大大学院准教授は、実際に教員が何時間働いているのかをきちんと把握していない自治体が多く、文科省にも年間を通したデータがないことを指摘。その上で「実態を把握し、変形労働時間制が成り立つというエビデンス(根拠)が必要。今の段階で導入するのは時期尚早で、現場の理解は得られない。繁忙期に勤務時間が長く設定されれば、負担感が増すだけだ」と話している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年10月19日

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