小泉大臣は取得するのか? 進まぬ男性育休、民間わずか6% 政府目標「2020年度までに13%」の成否は
国家公務員は21% ただ72%が「1カ月以内」
人事院は先月30日、昨年度に育休を取った男性の国家公務員は1350人だったと発表した。初めて対象職員の2割を超え、21.6%になった。
人事院の村山大介・職員福祉課長補佐は「省庁は組織の規模が比較的大きく、業務分担の変更でカバーできることが大きい」と分析する。
子どもが生まれる予定や育休取得の意向などを管理職が男性職員に確認するよう、内閣人事局が各省庁に推奨しているのもプラス材料。状況を書き込んだ面談シートは人事担当部署に伝わり、実際に育休を取得した際の業務分担や人員配置の準備に活用される。
ただ、男性の育休取得期間は「1カ月以内」が72.1%で最多。平均は1.8カ月と、女性の16.4カ月と比べ隔たりが大きい。調査対象も常勤の一般職のみで、自衛官などの特別職を含めると、一昨年度の男性の取得率は10%になる。
育休制度は、1992年施行の育児休業法に基づく。育児・介護休業法への改正を経て、現在は子が1歳になるまで取得可能で、保育所に入れないなどの事情があると最長2歳まで延長できる。休業中は、雇用保険から休業前賃金の最大67%(上限は月額約30万4000円)が給付される。
国連児童基金(ユニセフ)が6月に出した報告書によれば、給付金などの制度がある先進41カ国のうち、男性が取得できる育休期間の長さで日本は1位だった。ただし「実際に取得した父親はわずか」とも指摘された。
取得しづらい中小企業 国が「両立支援助成金」
上司が部下の育児や介護を後押しする「イクボス宣言」の広がりなど、意識改革に取り組む自治体や企業も増えている。国は2016年に「両立支援等助成金」を創設。社員の育休取得に積極的と認められる企業に、中小の場合、1人目は原則57万円、最大10人まで取得日数に応じて助成している。来年度予算の概算要求には前年度を29億円上回る65億円を計上した。
とはいえ男性の育休取得率は、国の目標である13%には程遠い。女性の取得率が2007年度以降、80%以上で推移しているのに対し、男性は1996年度の0.12%から徐々に増えているものの、昨年度で6.16%。厚生労働省職業生活両立課の福田有香氏は「従業員の少ない企業ほど代わりの人がおらず、男性の育休取得のハードルは高い。助成制度が、取得しやすい風土づくりのきっかけになれば」と話す。
昨年5月、当時自民党の幹事長代行だった萩生田光一文部科学相が乳児期の育児について「ママがいいに決まっている」と言って物議を醸したように、女性に育児を求める意識は日本に根強い。ニュージーランドの国会の男性議長が今年8月、別の議員が連れてきた生後6週間の赤ちゃんにミルクを与えながら議事を進行した一幕とは対照的だ。
「職場に取りづらい雰囲気」男性の思い込みでは?
男性の多くが育休を取ろうとしない理由はどこにあるのか。
厚生労働省の委託を受けた三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2017年、末子の育休を取らなかった約1600人の男性正社員に調査。複数回答で、「業務が繁忙・人手不足」が27.8%、「会社に育児休業制度が整備されていなかった」が27.5%、「取得しづらい雰囲気だった」が25.4%に上った。
ただ、育休を取りづらい雰囲気があると感じるのは本人の思い込みだとする研究結果がある。九州大大学院の山口裕幸教授(社会心理学)らのグループは16年、20~40代の男性約300人にアンケート。育休に肯定的な人が7割超を占めた半面、うち半数超が「他者は育休に悪い印象を持っている」と捉えていたことが判明。育休を取るつもりがあるか尋ねると「どちらかというと取らない」と答える傾向が強かった。
山口氏は「職場で確認すれば育休に肯定的な人が少なくないと分かるのに、否定的な人が多いと思い込んでいる。育休は自分に不利になると考えて控える傾向がうかがえる」と解説。こうした現象を社会心理学の世界で「多元的無知」と呼ぶといい、山口氏は「働くことを重んじる風潮が強く、職場で普段から育休についてざっくばらんに話し合う雰囲気がないとも考えられる」と分析する。
管理職にいまだ根強い意識「育児は女性の仕事」
部下の男性に育休取得を促す動きが企業の管理職の間に鈍く「いまだに育児を女性の仕事とみる価値観が残っている人が少なくない」と唱えるのは、働き方改革などの研究をしている日本総合研究所スペシャリストの小島明子氏。「雇用の継続や収入減に対する不安から、取得に踏み切れない非正規労働者も多いだろう」と主張する。
小島氏は「育休を取りづらい原因は、人手不足や周りにサポートする環境がないなどさまざま。まず課題を把握し、対策を取る必要がある。中小企業などはトップが号令をかけることで取得が進むケースもある」と語る。
そうした中で、男性従業員に積極的に育休を取らせようとする企業も出ている。三菱UFJ銀行は5月から、2歳未満の子どもがいる男性行員に約1カ月の育休を取得するよう強く推奨している。積水ハウスも昨年9月、男性社員は最短でも1カ月の育休を取る制度を導入した。
初取得の実感「見るのとやるのは大違い」
実際に育休を取得中の会社員勝間直行さん(40)=横浜市神奈川区=は、昨年9月に生まれた三男の頭をなでながら「この子と一緒に過ごす時間が増えた」と話した。長男(6つ)と次男(4つ)の時は妻(41)にほぼ任せっきりだった経験から「今回こそは」と考え、来年4月まで育休を取る予定だ。
家事は同様に育休中の妻と分担し、食事は勝間さんが担当。長男と次男の保育所の送り迎えをしたり、三男の離乳食を作ったりしていると、あっという間に夜になっているといい、「ただ見ているのと、自分でやるのは大違いだった」と笑う。それでも「妻と話をする時間が増えたし、子どもの成長も日々確認できる。収入は減るかもしれないけど、全く後悔していない」と強調する。
父親の育児を支援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也代表理事は、性別を問わず企業の管理職を対象に、部下の育児と仕事の両立を支援する手法を教えるセミナーを開いている。「管理職の意識を変えれば、15~20年後には男性の育休取得が当たり前になるはずだ」
見込める効果は、それだけではないという。「50代の管理職は、年齢的に親の介護に直面している人が少なくない。育児で当たり前に休める企業は介護休業も取りやすくなる。介護離職の防止にもつながる」
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