「妊婦が働かなければ…」 コロナ休業指示を産婦人科医が”拒否” 5月からの特例制度、理解進まず

岸本拓也 (2020年6月20日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 妊娠中の働く女性を新型コロナウイルスの感染から守るため、休業や在宅勤務などの対応を企業に義務付ける制度が5月上旬にスタートして1カ月余りが過ぎた。感染不安にさらされる妊婦を精神的にも守る狙いだが、病院や企業への周知不足から十分に制度が機能していない面が目立つ。

図解 新型コロナの感染から妊婦の労働者を守る国の措置

「切迫早産などの症状がないので、書けない」

「妊婦が全員働かなかったら社会はどうなるの」

 大阪府内の公立学校で働く30代の女性は5月、診察に訪れた産婦人科で主治医にこう言われ、言葉を失った。体調がすぐれず、勤務先への休業指示を「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)に書いてもらおうと求めたときのことだ。医師は「切迫早産などの症状がないので書けない」と記入を拒んだ。

 男女雇用機会均等法は、重いつわりや切迫流産の恐れがある場合、医師の指導に基づき、勤務の軽減措置を取るよう雇用主に求めている。新型コロナ感染拡大を受けて厚生労働省は先月7日に措置の対象を拡大。感染への不安が妊婦に影響すると医師が判断すれば、在宅勤務や休業などの対策をするよう企業に義務付けた。

「医師が記入拒否」9.7% 会社が応じぬ例も

 来年1月までの特例措置で、妊婦は医師が会社への指導内容を書いたカードを職場に提示することで休業などの措置を受けられる。しかし、カードを書くかは医師の判断次第だ。

 妊婦に関する調査をする「ニンプスラボ」が5月に約1260人の働く妊婦を対象にしたアンケートでは、職場に勤務軽減を求めた妊婦のうち、9.7%が「医師がカードを書いてくれなかった」と回答。「妊婦をコロナの不安から守る」という制度の趣旨が医師側に周知徹底されていない可能性がある。

 医師の指示を企業側が守らないことも。東京都内で働く30代の妊婦は5月末に「在宅勤務が必要」と主治医が記載したカードを勤務先に出したが、会社は在宅勤務をさせてくれなかった。女性は「会社は義務を果たしていない」と憤る。

 措置を取らず、行政の是正指導にも応じない場合は企業名が公表される。厚労省の担当者は「制度の周知を徹底していく」と話す。

「職場に相談せず」4割 理由は「言いにくい」

 妊婦側の申し出を前提とする制度が現実として使いにくいとの声もある。都内の救急病院に勤める妊娠中の20代の女性医師は「医療現場は人手不足が深刻。『妊婦だから配慮して』とは言いにくい」と話す。

 ニンプスラボの調査でも、休職や在宅勤務を望んでいても職場に相談していない人は約4割に上る。その理由の7割超が「言い出しにくい」だった。

 日本労働弁護団の新村響子弁護士は「制度で妊婦の権利が保障されていても雰囲気的に使えない状況がある。雇用主側にさらなる配慮を義務付けないと、本当の保障にならない」と指摘する。

新型コロナを巡る妊婦への支援措置

 妊婦は肺炎になると重症化しやすく、コロナに感染した場合のリスクが高い。政府は「感染への不安」だけでも医師の指導を受けて勤務軽減するよう企業に配慮を義務付ける今回の措置のほか、妊婦を有給で休業させた企業への助成金を支給したりするなど、支援策を打ち出している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年6月20日

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