RSウイルスワクチン、6月から販売へ 妊婦への接種で乳児の重症化を防ぐ 妊娠28〜36週の接種を推奨

佐橋大 (2024年3月19日付 東京新聞朝刊)
 RSウイルス(RSV)は、せきやくしゃみの飛沫(ひまつ)を吸い込むなどしてうつる、ありふれた風邪のウイルス。ただ、初めて感染する乳児では、重症化しやすいことが知られている。乳児の発症、重症化を防ぐワクチンが6月から販売される見通しになった。妊婦に接種し、母親から子どもに移行した免疫で、出生後の子を守るのが特徴だ。
図解 RSウイルスによって重い下気道疾患を発症した場合

入院が必要なケースや、死亡例も

 「RSV感染症は軽い疾患ではない。乳幼児にとってインフルエンザや新型コロナのウイルスより重症度は高い」。日本大医学部小児科学分野の森岡一朗主任教授は、こう表現する。

 大人の場合、RSVに感染しても、鼻風邪で済むことが多い。乳幼児では2歳までにほとんどがかかり、約7割は喉、鼻の症状だけで治る。一方で、肺炎や細気管支炎などが起き、入院が必要になる子もいて、毎年死亡例も出ている。3歳未満の入院の7%がRSVが原因とのデータや、RSVで入院した子の約1割で人工呼吸器を使ったとの報告もある。月齢が低いほど重症化しやすい。 慢性肺疾患や先天性心疾患などの基礎疾患のある子も症状が重くなりやすい。こうした子には、流行期の定期注射で重症化を防ぐ抗体製剤「パリビズマブ」がある。森岡主任教授は「逆に言えば、基礎疾患のない子たちはRSVに無防備。今やRSVで入院する子どもの95%は、基礎疾患がない」という。

図解 妊婦が接種し、乳児の重症化などを防ぐRSウイルスワクチンのイメージ

母親の体内で抗体を増やし、胎児へ

 6月発売予定のワクチンは、ファイザー社製「アブリスボ筋注用」。妊娠24~36週の妊婦に1回接種する。ウイルスの感染力をなくした不活化ワクチンで、主成分は、RSVが人に感染する過程で重要な役割を果たすタンパク質。これを母親の体内に入れることで、RSVへの抗体を増やし、胎児に移行させる。

 日本や米国など18カ国の妊婦約7400人を対象にした臨床試験では、ワクチンを接種した人が産んだ赤ちゃんと、偽薬を接種した人が産んだ赤ちゃんについて、肺炎などの下気道感染症の発症頻度を比較した。ワクチン接種した人の生後90日までの赤ちゃんは、偽薬の場合に比べ、重い下気道疾患の発症率が82%減り、生後180日までの場合でも69%減った。

 また、妊娠28週以降に接種した方が、効果が高い傾向も確認。同社は「妊娠28~36週に接種することが望ましい」とする。接種後2週間以内の出産では、赤ちゃんへの抗体の移行が不十分となる可能性がある。

「赤ちゃんと保護者の負担考え検討を」

 安全性については、ワクチンで4割、偽薬で1割が注射した部位の一時的な痛みを訴えた。疲労、頭痛を訴える人も多かったが、偽薬でも多く、差が認められなかった。早産、低出生体重など、乳児の有害事象の情報も集めたが、差は認められなかった。

 森岡主任教授は「基礎疾患のない子の重症化を防ぐ手段ができたことは非常に大きい。重い症状に陥る赤ちゃんの身体的な負担、看病する保護者の心理的負担も考慮し、接種を考えてみては」と話す。

 接種の費用は未定。薬全般の使用に慎重になる傾向が強い妊婦が、どの程度接種を望むかなどは未知数だが、横浜市立大病院の倉沢健太郎周産期医療センター長は「正しい知識を定着させていくことが大事。『知らなかったから打てなかった』ということは避けたい」と話した。

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