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外国人6割超、最高齢は86歳 4月開校の川口市の公立夜間中学 学びの手応えと課題と

森雅貴 (2019年5月31日付 東京新聞朝刊)
 県内初の公立夜間中学として4月に開校した埼玉県川口市立芝西中学校陽春分校。10~80代の新入生78人は、13カ国の外国人が6割以上を占めるなど年齢も国籍もさまざまだ。5月中旬から本格的に授業が始まり、生徒らが手応えを感じている一方、課題も浮き彫りになってきた。
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英語の授業で発音を練習する公立夜間中学の生徒=川口市立芝西中学校陽春分校で

スマホも駆使 日本語の授業に食らい付くパキスタン人生徒  

 「朝ご飯に何を食べますか」。29日の日本語の授業で、竹内まゆみ教諭(60)に日本語で問われたパキスタン人のカーン・ムジャヘッドさん(17)=羽生市=は、朝ご飯の意味を用意された資料で確かめ「コーヒーを飲みます」と答えた。

 昨年10月に来日したばかり。資料には日常生活に必要な単語が日本語とローマ字、英語で記されている。それでも分からない場合は、スマートフォンの通訳機能を使ったり、英語が分かる同級生に通訳してもらったりして食らい付く。「日本語が分からないと他の授業にも支障を来すから、一生懸命学んでいる」とカーンさん。

学び直す77歳女性「解けなかった問題が、できるように」

 生徒は3クラスに分かれ、それぞれ担任教諭が付く。平日午後5時半から1日4時限で、教科は一般の中学と同じだが、国籍や習熟度などによって異なる授業を受けることもある。

 「今まで解けなかった問題が、できるようになってきた。学びへの喜びを感じる」と話すのは菊地ハルミさん(77)=川口市。中学時代は、大人数での集団教育になじめず、卒業後「もっと勉強しておけばよかった」と後悔する日々だった。

 夜間中学では数学の分数や小数点の計算に熱心に取り組む。分からない問題があれば、同級生に聞いたり、学校に早く来て教員に質問したり。「先生たちも熱心に対応してくれる」

求められるニーズは多岐「先生の人数増やしてほしい」

 担任の小池千栄子教諭は「生徒は授業中に分からないことがあると積極的に手を挙げて質問してくれる。学びたい意欲をすごく感じ、期待に応えないといけない」と気を引き締める。

 ただ、年齢層や国籍が幅広く、各教科の習熟度も異なる生徒を集団で教えるため、授業に求められるニーズは多岐にわたり、教員への負担も大きい。

 6割以上を占める外国籍の生徒には、まずは日本語教育が重要となる。教科として日本語を学ぶ生徒は24人。半数ずつ2クラスを担当する竹内教諭は「理解度に差がある生徒12人に同時に教えるため、きめ細やかな指導が必要。他の先生に手伝ってもらっても、手が足らない。もう少し先生の人数を増やしてほしい」と漏らす。

 夜間中学に詳しい京都教育大の岡田敏之教授は「外国籍の生徒が増えているため、日本語指導の方法や教職員の体制や増員などをどうするかが行政の課題」と指摘する。

 設備面での課題もある。現在の校舎は3階建てで廃校となった高校の再利用。普通教室は2階で、階段を使うことが多い。高齢の生徒の中にはつえをついて上り下りする姿も。最高齢の堀川しず子さん(86)は「授業間の移動で急がないといけない時があるから少し大変」と話す。

 川口市は2021年に専用の新校舎を建設する方針だが、バリアフリー面での配慮が求められる。

自主夜間中学、今後も継続 「多様なニーズに応えたい」

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最近のニュースを題材に日本語や歴史などを学び合う自主夜間中学の生徒ら=川口市の川口自主夜間中学で

 「『くだらない』ってどういう意味」「布団が吹っ飛んだみたいな話だよ」。中国籍の生徒と日本人の先生役がテーブルで話し合う。川口市で1985年からボランティアが運営する「自主夜間中学」。これまでに2000人以上が学び、公立夜間中学が開校した今も通う生徒が絶えない。

 当初は、日本人向けの学び直しの場だったが、90年代から日本語習得を目指す外国人が増加。現在は生徒約70人のうち、中国人を中心とした外国人が7割を占める。

 運営の中心メンバーで、公立夜間中学設立を求めてきた野川義秋さん(70)は「自主的な学びでは中学の卒業資格が得られないことが外国人生徒の課題だった」と指摘。公立夜間中学の開校の意義は大きいとする一方、自主夜間中学は今後も続ける方針だ。

 川口市で店員として働くベトナム国籍の女性(24)は仕事の都合で毎日は公立夜間中学に通えないため、入学を断念。自主夜間中学で日本語を学んでいる。

 こうした事情のほか、「不登校だった人が毎日通うことが前提の公立学校に入るのは簡単なことではない」と野川さん。「公立」にはない「自主」の利点を生かし、多様なニーズに応えたいとしている。

入学した生徒たちに意気込みを聞きました

 「学び直したい」「日本語を習いたい」。夜間中学に通う生徒の思いはさまざまだ。川口市の公立夜間中学に入学した3人に意気込みを聞いた。

日本語学び直す ナベダ・セバスチャンさん(18)=久喜市

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ナベダ・セバスチャンさん(18)=久喜市

 幼少時にペルーから来日して小中学校に通ったが、日本語がよく分からないままで授業についていけなかった。中学1年で挫折し、不登校に。夜間中学では日本語を学び直し、卒業後は日本料理を学べる調理の専門学校に通いたい。大好きな数学の勉強にも力を入れたい。

自信持ちたい 磯まいこさん(27)=さいたま市

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磯まいこさん(27)=さいたま市

 小学校の先生と合わず、学校に通わなくなった。買い物の時に釣り銭がいくらか分からず「バカにされた」と感じたこともある。勉強すれば自分に自信が持てるかも、と夜間中学への入学を決めた。気さくで学びへの意欲が強い生徒ばかりなので、ここなら自分のペースで通えそう。

ニュース理解したい 吉田龍雄さん(79)=蕨市

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吉田龍雄さん(79)=蕨市

 中学時代から、勉強があまり好きではなかった。ただ、タクシー運転手の仕事を勤め上げた後、テレビのニュースを見ても内容がよく分からないことが悔しくなった。地元の公民館で公立夜間中学のチラシを見つけ、学び直しを決意した。幅広い科目を学び、社会のことに詳しくなりたい。

公立夜間中学

 自治体が設置する中学校で、夜間に授業をする学級。文部科学省によると、戦後に主に昼間働かざるを得なかった人が学ぶ場として設立され、ピーク時の1950年代には全国に80校以上あった。現在は、訪日外国人や不登校のまま形式的に中学を卒業した人も含めて全国の約1700人が通う。2016年の教育機会確保法成立を受け、文科省は各都道府県に少なくとも1校の設立を要請。今年4月に川口市と千葉県松戸市に22年ぶりに開校し、9都府県に計33校となった。20年に茨城、21年に徳島と高知県でも開校予定。近年は外国人のニーズが増え、全国の生徒の8割以上が外国籍となっている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年5月31日