学習支援教室休止、乏しいオンライン環境…「貧困家庭の子、会えなくても支えたい」 埼玉の団体、学力格差拡大防止に心砕く
生活保護世帯など280人の子に「自己紹介カード」郵送
「かわいいですよね。たくさん書いてくれた項目を中心に話を聞いています」
さいたま市や川越市の委託で教室を開くNPO法人「さいたまユースサポートネット」(さいたま市浦和区)の山本香苗さん(33)が取り出したのは、子どもが返送してきた「自己紹介カード」。4月下旬、同ネットが生活保護受給世帯など両市合わせて約280人の子どもたちへ、教室案内や保護者への手紙に加えて送ったものだ。
ある生徒は、好きなものを「ボカロP」とし、動画サイトで創作を公開する音楽製作者の名をあふれるほど列挙した。このカードを基に、スタッフは一度も会ったことのない子どもたちとの会話の糸口をつかもうとしている。
自宅への電話だけでは見えぬ実情…もどかしさ募る
子どもたちが抱える問題はさまざま。例年、年度スタートの4〜5月はイベントやゲームを取り入れ、「来ると楽しい」と印象づけてスタッフとの信頼関係を築き、個々の状態を把握する。学習面ではマンツーマンで教えながら過去のつまずきをチェックし、指導方針を立てる。
それができない今年、代わりに行う子どもとの接触は、保護者に電話し、子どもに代わってもらう形。既に何度も話し、電話での授業を試みる段階に進んだ子もいる一方、20人の保護者と5月下旬になっても連絡が取れていない。
スタッフが子どもと話している途中で、母親が「もっとちゃんとしゃべりなさいよ!」と子どもをたたいてしまったケースも見つかった。見えない電話の向こうで何が起きているのか。行政と連携し支援を進めているが、各家庭の状況をもっと詳しく知る手だてがないか、もどかしさが募る。
オンライン授業、端末ないなどで「視聴できず」45%
同ネットの調査では、さいたま市で連絡が取れた163人の児童・生徒のうち、臨時休校中に市教委が行っているオンライン授業について、端末がないなど45%が視聴できる環境になかった。「おそらく一般的な水準より(所持率が)低いだろう」と山本さんはみる。
県内45市町村で教室を実施する一般社団法人「彩の国子ども・若者支援ネットワーク」(同)の「アスポート事業」も休止になった。代わりに、週に1度は電話をかけて様子をたずねたり、困っている家庭には、レトルトカレーや缶詰などを配っている。事業をまとめる土屋匠宇三(しょうぞう)さん(35)は「いつもは、そっけない子や親も、電話をかけると喜んでくれる。再開を楽しみにしていて、外出自粛で家庭の中で相当たまっているのがわかる」と話す。
活動11年目の団体、今春は高校進学率100%を達成
「貧困の連鎖を食い止めるための学習支援」と位置付けるアスポートは、今年で11年目。今春には教室に通う生徒の高校進学率100%を達成した。昨年、利用する子どもにアンケートしたところ、73%が「教室に通うようになって、自分で勉強するようになった」と答えた。「笑うことが増えた」「自信を持てるようになった」との声もあり、必要な居場所になっている。
緊急事態宣言は解除されたが、コロナ禍の影響は続くと見られ、土屋さんは「できるだけ支援をしていきたい」と話す。山本さんも「突発的に貧困になる家庭も出る。子どもに不都合が降り掛かるのを何とかしなければ」。子どもの微妙な感情の動き、SOSに気付くには直接会いたい。早く教室を始めたい、と願っている。
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