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【ニュースがわかるAtoZ】組み体操「高層化」で事故多発

(2016年5月9日付 東京新聞朝刊)
 春の運動会シーズンを控え、花形種目の組み体操がどうあるべきなのか議論が進んでいる。年間8000件以上の事故が起きているとして国が2016年3月に注意喚起を促し、専門家は高さを競うのはやめて安全優先の組み体操を行うように提案する。組み体操の原点を探り、いま一度教育的意義についても考えたい。

ルーツはドイツ兵捕虜 日体大で発展

 組み体操がいつごろから日本で行われたのか定かではない。かつての捕虜収容所跡地に立つ徳島県の鳴門市ドイツ館には、大正時代初期に、日本軍の捕虜になったドイツ兵の高難易度組み体操の写真が残る。

 ドイツ兵捕虜たちは第一次世界大戦(1914~18年)中に中国の青島で日本軍に投降。約1000人が四国3カ所の収容所に連れてこられた。同館資料アドバイザーの川上三郎さん(72)によると当時ドイツでは組み体操が盛んで、捕虜たちはスポーツの一環として収容所で取り組んでいたとみられる。

 その後は、日本体育大(東京都世田谷区)が組み体操普及の中心を担っていく。1931(昭和6)年には、日体大の前身校の学生たちが体育祭で組み体操を披露。四つんばいになって積み上がる5段の「ピラミッド」、肩を組んだ上に立つ3段の「タワー」を実施する映像が日体大に残る。国体などでも実施され、学校現場にも広まった。

図解 組み体操の歴史

2010年以降に「高さ」競う風潮、動画で過熱

 組み体操はかつては学習指導要領に記載されていたが、小学校は53(昭和28)年、中学校は69(昭和44)年に削除された。だが学習指導要領から消えた後も、組み体操は国による教育的意義の位置付けやルール整備がないまま運動会や体育祭の花形種目として伝統的に続いてきた。

 その結果2010年以降、高さを競う傾向が顕著になる。ネット上の動画投稿サイトの普及で、教師らが他の学校の投稿を参考に、高く組む方法をまねするようになったのが一因だ。

 最も高い10段ピラミッドは約150人で組み、高さは約7メートル。組み体操事故に詳しい名古屋大の内田良准教授によると、最下段の子どもには最大約200キロの負荷がかかる。昨年9月には、大阪府八尾市の中学校で10段ピラミッドが崩れ6人が重軽傷を負った。最も事故が多いタワーも高さ約4メートルの5段までと「巨大化」している。

背景に高層化と「子どもの体力低下」

 組み体操事故は2011年度以降、4年連続で小中高校で8000件以上が発生し、うち約4分の1を骨折が占める。14年度に日本スポーツ振興センター(JSC)が医療費を給付した8592件の内訳では、タワーが原因だったのは1241件(約14%)、ピラミッドが1133件(約13%)。負傷部位は、頭と首を合わせた割合がタワーで25.6%、ピラミッド10.9%と、学校での運動事故全体の平均5.5%よりはるかに高い。

グラフ 組み体操の事故件数

 事故多発の一因には組み体操の高層化が指摘されている。14年度の小中学校でのJSCの医療費の給付件数が862件と全国の約1割を占める兵庫県では、昨年度中学校3校が10段ピラミッドを実施し2人が負傷。5段タワーを実施した中学校22校のうち、7人がけがを負っている。

 一方で、14年度に全国で起きた事故の内訳では、「倒立」や「肩車」など、2人組で行う高さの低い技でもけがが多いことが分かった。

 専門家は子どもの体力が低下していると指摘。埼玉県整形外科医会会長の林承弘(しょうひろ)医師らが10~13年に幼稚園から中学までの約1300人を独自調査したところ約15%は片足立ちや、しゃがみ込みができず、約8%は手を真っすぐ上げられなかった。「体が硬く、とっさの時に身を守るための行動を取れない子どもが増えている」と林医師はいう。

 JSCのデータによると、災害共済給付制度に加入する小中高校生は1983年度の約2200万人から、2014年度は約1350万人まで減少。その一方で体育やクラブ活動中の事故は14年度が約53万2000件と1983年度から1.4倍に増えている。日体大総合研究所の武藤芳照所長は「体力低下は子どもの外遊びが減った影響が大きい」と指摘。「組み体操も時間をかけて練習し、徐々に難易度を上げていくことが大切」だと話す。

原点「相手を思う安全教育」に戻るべき 

 国は3月、組み体操の事故が多発しているとして注意喚起を促し、確実に安全を確認できない場合は実施を見合わせるよう全国の教育委員会に通知。各学校に、組み体操を実施する狙いを明確にするように求めた。

 そもそも組み体操の教育的意義とは何か。日体大体操研究室の荒木達雄教授は「互いの力を貸したり借りたりしながら、相手を安定させる方法を学ぶ安全教育」だと話す。荒木教授は高さを競う傾向に歯止めをかけ、段数が低い技を丁寧に指導する原点に戻るべきだと強調する。

 だが最大の問題は、現場の教師は組み体操の教え方を学ぶ機会がなく、市販の解説本やネットの情報を基に見よう見まねで指導していることだ。体操の専門家を招いて指導を受ける学校や自治体はごく少ない。

 荒木教授は特に事故が多いタワーは、間違った指導法が広がっていると指摘。市販の解説本やネットには背中を丸めて前かがみで肩を組む写真やイラストが散見されるが、背中を真っすぐに伸ばした方が安定する。下段の子どもはお互いの腕をくっつけ合うように肩を組み、上に乗る子の足の甲とかかとを固定。背中に手を回して組むと上段の子の足を固定できないため危険だという。

 荒木教授が取り組みやすくて見栄えもいいと勧めるのは、5人で組む「やぐら」と呼ばれる技だ。左右対称の形で最下段2人が四つんばい、中段2人が1段目の腰に手を置いて中腰になり、3段目の子どもがその上に乗って正面を向く。下段は負荷がかからず、安定感もある。

 3人で横一列に手をつないで広がる技「扇」もおすすめだ。手を握り合うよりも、手首をつかんだ方が安定するなど、バランス感覚を学ぶことができ、見た目も美しい。