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安全な組み体操「ピラミッドは3段まで」日体大・荒木教授の提案

(2016年3月6日付 東京新聞朝刊)
 小中学校で組み体操の事故が多発し、社会問題化している。春の運動会シーズンに向け、文部科学省や多くの地方自治体は組み体操の指針づくりを急いでいる。どこが危険で、どうすれば事故を防げるのか。日本体育大学体操研究室の荒木達雄教授と一緒に考えてみた。

学生らに、3段ピラミッドの組み方を教える日体大の荒木達雄教授(手前)=名古屋市内で

大阪で事故、高さ7mの10段は「論外」

 「(四つんばいの人間が積み重なり)最下段の中心部に負荷がかかるピラミッドは、日体大の体操部員でも4段までが限界だろう。4段でも高さは3メートル近い。当然、高ければ高いほど落下しやすい」

 荒木教授はこう強調する。周囲に教師を配置しても上段から落下する子どもを受け止めることは難しく、受け止める側の教師もけがをしかねないという。

 組み体操は、協調性や一体感がはぐくまれるなどの理由で、多くの小中学校で実施されている。しかし、学習指導要領に記載はなく、実施は校長の裁量。指導ルールもなく、高さを競う傾向があり、事故につながっている。

 大阪府八尾市の中学校では昨年秋、運動会で高さ約7メートルの10段ピラミッドが崩れ、6人が重軽傷を負った。大阪市教委は先月、ピラミッドと肩の上に立つタワーを禁止した。

 ピラミッドの高さの上限をめぐっては、愛知県教委は「5段」、名古屋市教委は「4段」を目安とするなど対応は分かれる。荒木教授は「小中学生の体力・筋力を考えればピラミッドは3段までが妥当。10段は論外」と話す。

 千葉県柏市では昨年秋、15人で組む5段ピラミッドの下段が揺れ、上段の中3男子が落下。太ももの骨を折り約1カ月入院した。組み体操事故に詳しい名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)によると、平均体重50キロと想定すると、この組み方では最下段中央の子どもにかかる負荷は150キロ以上になる。内田准教授は、3段までが妥当という荒木教授の考えに賛成する。

タワーは2段が妥当 3段の転落事故で開頭手術

 一方、肩の上に立つ「タワー」については、高さの目安を3段とする自治体がある中で、荒木教授は「2段が妥当ではないか」と提言する。昨年春には千葉県松戸市の小6男児が3段目の最上段から落下して頭の骨を折り、開頭手術を受けた事故が起きている。「練習時間を多く取れば3段も可能かもしれないが、準備不足で行うのは危険だ」と警鐘を鳴らす。

 荒木教授はタワーの間違った指導法が広がっていると指摘。ネットや市販の解説本などでは、下段の人が背中を丸めて肩を組むイラストや写真が散見されるが、背中を伸ばして肩を組んだ方が安定するという。

 また、近年は春の運動会が多く、新学期が始まって数週間後に10時間程度の練習で組み体操が実施されている状況を踏まえ「本来は体が鍛えられ、練習にも時間が取れる秋に運動会を実施するのが望ましい」という。

あいまいな定義…「組立体操」と「組体操」

 荒木教授は、組み体操事故多発の原因の一つに教師が運動会の見せ場として難易度の高い技を追求し、保護者も過度な期待を寄せていることがあるとみている。ただ、千葉県流山市など一部の自治体が新年度から組み体操の全廃を決めたことには反対し「組み体操の定義があいまいなのが、根本的に問題」と主張する。

 荒木教授によると、「組み体操」は、専門的には「組立体操」と「組体操」に分けられる。ピラミッドやタワーなど人間が積み上がる技を「組立体操」と呼ぶのに対して、「組体操」はペアによる屈伸など互いの力を利用し合う動きのある技を指す。「安全な技も多いのに、すべて否定されるようで残念だ」と話す。

 文科省は月末までに事故防止に向けた方針を示すとしている。荒木教授は「多くの教師が組み体操の研修を受けたことがなく、指導上の注意点や問題点が共有されていない。体操の専門家を交えた指針づくりが必要だ」と訴えている。

荒木達雄(あらき・たつお)さんのプロフィール 

1954年生まれ。日本体操協会の一般体操委員会委員長。国際体操連盟の役員として、海外でも体操の普及と指導員養成を行っている。共著に「体操教本」(図書出版)がある。