聴覚障害のある子どもたちが暮らす「金町学園」 閉鎖の危機乗り越え、再出発 手話で会話できる大切な場所

(2020年10月15日付 東京新聞夕刊)
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アレーズ秋桜の完成イメージ=永春会提供

 老朽化などに伴う閉鎖の危機を乗り越え、再出発できる見通しとなった。関東地方で唯一、聴覚障害のある子どもたちが共に暮らす福祉型障害児入所施設「金町学園」(東京都葛飾区)。別の社会福祉法人が運営を引き継ぎ、葛飾区内のほど近い場所で、2022年春に「アレーズ秋桜(コスモス)」として生まれ変わる。浜崎久美子園長(76)は「子どもたちが手話で暮らせる場所を守ることができて良かった」と喜ぶ。

2018年3月に閉鎖方針だったが

 学園には、聴覚障害があり、さまざまな事情で親と暮らせなかったり、進学や就職を目指して上京したりした子どもたちが暮らす。「公用語」は手話。現在は6~19歳の16人がここから学校などに通っている。

 運営する社会福祉法人「東京愛育苑」は、建物の老朽化などを理由に2018年3月に閉鎖する方針だった。しかし、浜崎さんと職員らは「生まれてくる聴覚障害児のためにも施設をなくすわけにいかない」と存続に向けて寄付集めに奔走してきた。

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手話で会話しながら夕食をとる子どもたち。右奥は浜崎久美子園長=東京都葛飾区の金町学園で(2016年12月撮影)

娘が難聴の社会福祉法人理事長が救いの手

 浜崎さんによると、家族に聴覚障害のある人がいない場合、聴覚障害のある子どもは手話が十分に身に付かないことがあるという。「学校で手話を使えても時間は限られる。悩みを打ち明けたりけんかしたり、日常生活も手話で会話できる環境は、子どもが手話という言語を獲得するために欠かせない」

 救いの手を差し伸べたのは、特別養護老人ホームや保育所、障害者の就労施設などを運営する千葉県松戸市の社会福祉法人「永春会」理事長の吉岡俊一さん(50)。娘2人が中等度の難聴で、学園の閉鎖の危機を報じた2016年12月31日付朝刊の東京新聞の記事を読み「娘と同じようなことで困っている子がいるなら手伝いたい」と思ったという。

 葛飾区の協力で2019年2月、移転先の区有地が見つかった。今年8月には都から建設費への補助金を得られる内示が出て、移転計画が固まった。

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定員30人はすべて個室 調理も自前で

 1964年から使われている現在の建物は8人部屋だが、アレーズ秋桜は定員30人がすべて個室で、個室の仕切りを外せば幼い子がきょうだいや職員とも寝られるスペースを確保できる。食事も業者委託ではなく自前で調理するなど、家庭的な環境にするという。

 新施設は2階建て。地域に重度障害者が利用できる施設が少ないことから、1階に生活介護事業所を開設し、2階を聴覚障害児の生活の場にする。2005年から園長を務め、新施設長になる予定の浜崎さんは「職員が手話を教えるなど、地域の人にも役立つ施設にしたい」と意気込みを語る。

 これまで集まった寄付約400万円は新施設の運営に充てる予定。新たな運営法人となる永春会は、一緒に働く職員を募っている。問い合わせは永春会=電話047(703)6111=へ。

福祉型障害児入所施設とは 

 児童福祉法に基づき、身体、知的または精神に障害のある子や学生が、日常生活や自立に必要な知識や技術を教わりながら暮らす施設。福祉型のほか、治療も行う「医療型」がある。厚生労働省によると聴覚障害児を受け入れる福祉型障害児入所施設は全国に7カ所あり、東日本では金町学園のほか北海道と福島県にある。

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