スプツニ子!さんに高校生が聞く「性別の固定観念から自由になるには」

福沢英里 (2020年11月10日付 東京新聞朝刊)

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 自作の音楽や作品を通じて、テクノロジーがもたらす社会への影響を考察する、東京芸術大准教授でアーティストのスプツニ子!さん(35)。性別の枠にとらわれず、自由に生きるには-。日本社会にはびこる、女性への固定観念に戸惑いを感じ始めた高校生たちが、オンライン取材で悩みをぶつけた。 

「世界は女性が変えてきた」で興味

 東京書籍は8月に「世界は女性が変えてきた 夢をつないだ84人の勇者たち」(ケイト・ホッジス著)を出版。この日本版特別付録に収録されたスプツニ子!さんのインタビューに中日新聞の紙面制作に協力する高校生スタッフが関心を持ち、今回の取材が実現した。

 同書はアートや科学、政治や医療など各分野の女性先駆者が登場する。事前に読んで臨んだ名古屋市の高校1年、山地美潤(みうる)さんは英国初の女性医師エリザベス・ギャレットアンダーソンの名を挙げた。他分野で活躍する女性たちと協力して女性の地位向上に尽くした点に共感したからだ。

 スプツニ子!さんは、全米各地でデモが起き、大統領選の争点にもなった人種差別の問題などを例に「一人でできることには限界がある。世の中の仕組みを変えるには、連帯することがプラスに働く」と応じた。

「女のくせに、には耳を貸さないで」

 ジェンダーへの問題意識はどこから生まれたの? 話題が生い立ちに移ると、数学者の英国人の母親から「女だからできないとか、女のくせに、といった言葉には耳を貸さないで」と背中を押されたことを紹介。自身も数学とプログラミングが好きで、高校3年を飛び級して英国の理系名門大学で学んだ。

 一方、生まれ育った日本で見たバラエティー番組では「結婚できない女性は負け犬」などと、まるで女性は自立してはいけないかのように描かれていた。このギャップに違和感は深まるばかり。

低容量ピル、欧米より30年以上の遅れ

 日英の違いで一例として挙げたのが、生理痛治療などに使われる低用量ピル承認の歴史。欧米では1960年代に承認された一方、日本は国連加盟国では最も遅い1999年だった。その結果、国内のピル普及率は3%と低く、「女性だから痛いのは当たり前。ピルに頼っちゃいけない」と考える人はいまだにいる。

 高校時代、「人は宇宙に行き、人工知能もつくり、ゲノム(全遺伝情報)を編集している時代なのに、なぜ私は毎月、生理になっているのか」と考えていた。調べてみると、研究や政策決定の場に女性が少ないと気付き、「テクノロジーや科学を通じて女性が生きやすい社会を実現したい」と思うようになったという。

異文化に身を置けば、物差しは変わる

 名古屋市の高校2年、堀詩(うた)さんが生理痛があっても「1日ぐらい我慢しなよ」と周囲に言われた経験を明かすと、最近では日本でも「フェムテック」が注目されていることを紹介。女性が抱える健康上の課題や悩みをテクノロジーで解決しようとする製品やサービスのことだ。

 「女性はこうあるべきだ」と周囲に言われる固定観念をどう壊していくのか。同市の高校1年、早稲田彩乃さんの問いにスプツニ子!さんが勧めたのは、海外旅行や外国語を学ぶこと。「異文化に身を置けば、予想もしない違いや違和感に気付く。変えられる余地や他の方法があるのではと物差しが変わり、自分の固定観念がなくなっていく」とエールを送った。

スプツニ子!(すぷつにこ)

1985年、東京生まれ。母が英国人、父が日本人。本名は尾崎優美(ひろみ)。中高はインターナショナルスクールへ。英国の大学を卒業後、英国王立芸術学院でデザインを学ぶ。卒業制作「生理マシーン」がニューヨーク近代美術館に展示されるなど話題に。2013年、マサチューセッツ工科大のメディアラボ助教に就任。東京大生産技術研究所特任准教授を経て、現職。2017年、世界経済フォーラムが選ぶ若手リーダー代表に。著書に「はみだす力」。

元記事:中日新聞Web 2020年11月4日

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