「デジタル教育格差」コロナ禍で浮き彫りに 所得や地域で大きな差、教職員も負担増…解消するには?

(2020年11月8日付 東京新聞朝刊サンデー版「大図解」)

コロナ禍で浮彫 デジタル教育格差

 コロナ禍による休校などで学習の遅れが懸念されています。とくにオンライン授業をはじめ、ICT(情報通信技術)教育の遅れとそれにともなうデジタル格差が明らかになりました。そのうえ、非正規を中心に雇用情勢が悪化、所得格差が子どもの教育にも影響すると指摘されています。教職員の負担も増すなか、「公正な機会を失い、教育格差に見舞われるコロナ世代」を生み出さないためには何が必要でしょうか?

教職員の87%が学力格差を危惧

子どもたちの様子についてどう思うか? 教職員アンケートの「まあまあそう思う」と「とてもそう思う」の合計。 86.5%が「学力格差が拡大する可能性が高い」 69.3%が「学習の遅れがある子が増えている」 88.7%が「今後いじめが増える」

 教職員を中心にしたアンケートでは、コロナ禍の休校などの影響で生徒に「学力格差が拡大する可能性が高い」と86.5%が危惧し「学習の遅れのある子が増えている」との答えも69.3%もあった。(調査対象者は小・中学、高校、特別支援学校の教職員。7月10~26日実施)

 65%の学生が「学習量が減少した」。勉学や訓練を続けようとの努力にもかかわらず、半数は勉学の遅れを感じている。

 オンライン授業は高所得国では65%が実施。しかし、低所得国では18%にすぎない。(※1)

 ICTなどデジタル格差・所得格差が教育にも表れている。

所得で広がる格差 地域で対応に隔たり

 日本では以前からパソコンやタブレット、電子黒板(大型提示装置)などを使ったICT教育の整備が遅れ、世界と日本の格差があった。さらに、家庭でもパソコンやインターネット環境が整っているかどうかというICT格差も指摘されている。

学校でのICT整備状況 指導者用デジタル教科書整備率は56.4%、学習者用デジタル教科書整備率は8.2%、教育用コンビューター1台あたりの児童生徒数は4.9人、普通教室の大型提示装置整備率は59.2%
整備が進まないので…教師は授業に生かせない
1週間のうち教室の授業でデジタル機器を利用した割合 授業利用はOECD最下位 
生徒は勉強に使わない
学校外での平日のデジタル機器の利用状況 宿題活用はわずか3%
デジタル出題で読解力がダウン。OECD PISA調査における日本の成績(読解力)は15位。

 

自治体間で大きい格差

都道府県別の電子黒板等の整備率。ワーストは秋田県でわずか17.2%。
都道府県別のPC整備率は、千葉・埼玉・愛知県がワーストで1台あたり6.6人。
政府は2020年に「端末1人1台」と決めたが…

コロナ禍で経済が悪化し、非正規の解雇や雇い止めが増えている。

 コロナ禍の経済悪化により、非正規労働者を中心に多くの人が職を失った。また、経済の停滞で自営業者を含め収入が大幅に減少している。

 もともと、ICTの世帯普及率は収入に比例する。例えばパソコンでは収入1000万円から1500万円未満では91.5%の普及率に対し、200万円未満では33.3%に過ぎない。タブレット、スマートフォンも収入の高い世帯ほど普及率も高くなる。

 塾や参考書などの教育支出でも同様で、コロナ禍によって収入格差がさらなる教育格差を生み出す恐れが高まっている。一方で家庭への支援は不透明のままだ。

家庭のICTは収入に比例している。年収200万円未満はPC普及率わずか3割。自治体のICT支援は「いまだに検討中」が66%。中学生のマイPC保有率はわずか7.7%。

教師の負担も増えている

 オンライン授業などコロナ禍で一変した学びに携わる教職員の疲労感も大きい。長時間労働のなか、生徒の学習遅れや格差是正、いじめの懸念に対応している。政府のGIGAスクール構想でICT教育が推進されるなか、機材の整備、ICT教育のソフト面など教職員への多様な支援が欠かせない。

「学校再開後の下記の業務について負担を感じているか?」との質問に対する教職員の回答。「学力格差の解消」は77.8%、「学習の遅れを取り戻す」は79.7%、「オンライン授業」は54.8%。

ILO、ユニセフ、ユネスコなどの共同声明

 すべての教師が、リモート、オンライン、ハイブリッドラーニングで教えるためのデジタルおよび教育スキルを備えている必要がある。コロナ禍では、政府に対し、教師の安全、健康、福祉、そして彼らの雇用を保護するよう呼びかける。(要約)

格差解消は政治課題 「共育の杜」理事長・藤川伸治さん

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藤川伸治さん

 私たちの調査では、教職員の過酷な労働環境が明らかになった。また、いじめ、学力格差拡大に対して強い懸念を持っていることが明らかとなった。

 自由記述では、経済的に厳しい家庭が多くなり、それが子どもに対する虐待やネグレクトなどを増やし、対応に追われているという声があがっている。

 教育委員会に対して、オンライン授業ができる環境整備を早急に行ってほしいという要望をあげても予算を理由になかなか進まないこと、インターネット環境が整わない家庭があることへの配慮も必要という指摘もあった。

 神戸市内の校長は、ネット環境が整わない子どもたちには、きめ細かなサポートが必要と話している。以前から学校のICT環境の整備の遅れ、教職員がICT教育を学ぶ機会が確保されていないことが指摘されていたが、その改善を図ってこなかったことが、コロナ禍において膿のように噴き出ている。

 調査によるとコロナ禍による休校中、世帯年収が低い家庭の子どもほど、オンライン授業を受ける機会が少なかったという。

 以前から積極的にICT教育の環境改善を進めてきた一部の私立学校、教育委員会もある。地域間の格差も拡大しているのだ。

 さらに、オンライン授業、学校再開後の授業も教科書の遅れを取り戻すため、知識を教え込むものになってしまう、という教職員の声も聞く。

 新型コロナ感染症とインフルエンザの流行に備え、オンライン教育の実施に向けて準備を急ぐ必要があるが、教え込む授業から、子ども自身が学び取るという授業への転換も必要である。

 教職員の約6割が過労死ラインを越え、疲労度を強く感じる教職員は一般労働者の4倍近いという深刻な状態にある。疲労度が高い教職員の3割は「子どもの声がしっかりと聞けない」と回答しており、過酷な労働が子どもへ影響を与えている。教育格差の解消、教職員の勤務環境の改善は、重要な政治課題として取り組む必要がある。


◇制作:サンデー版編集部 亀岡秀人 デザイン課 伊藤潤
◇取材協力:文部科学省、国際労働機関(ILO)ほか
◇出典・参考文献
(※1)「Youth and COVID-19: Impacts on jobs, education, rights and mental well-being」(ILOほか)
(※2)「Programme for International Student Assessment 2018」「Teaching and Learning International Survey 2018」(OECD)
(※3)「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果 2019年度速報値」「GIGAスクール構想」(文部科学省)
(※4)「労働力調査」(総務省)
(※5)「通信利用動向調査」(総務省)
(※6)「教職員勤務実態調査」(共育の杜) ほか

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