川口いじめ訴訟 学校の対応に「違法」判断、市に55万円の賠償命令 いじめ防止法「重大事態」めぐり他自治体への警鐘に

( 2021年12月16日付 東京新聞朝刊)
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判決後記者会見した森田志歩さん(右)=15日、埼玉県庁で

 埼玉県川口市立中学校でいじめに遭った元男子生徒(19)が、学校や市教育委員会の不適切な対応で不登校が長期化したとして川口市に550万円の損害賠償を求めた訴訟で、さいたま地裁は15日、学校などにいじめ防止対策推進法違反があったと認め、市に55万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

いじめ防止対策推進法とは

 いじめや重大事態を定義し、国や自治体、学校に組織的な取り組みを求めた法律。学校は教職員や心理の専門家などによる防止の組織を置き、いじめが起きた場合は事実確認し、被害児童生徒や保護者への支援、いじめた児童生徒への指導と保護者への助言を行うほか、犯罪行為の場合は警察と連携することも定めている。

校長らのいじめ否定発言は「法律違反」

 訴訟で元生徒側は、2015年の中学入学直後からサッカー部内でLINEグループから外され、首を絞められるなどの嫌がらせを継続的に受けたと主張。自傷行為に及び、不登校が長期化しても学校や市教委がいじめの重大事態と認めず対応しなかったことが違法だと訴えた。

 川口市側はいじめを否定した上で、いじめ対応は教育現場の裁量に任されており、いじめ防止法に従う義務はなく対応は適切だったと主張した。

 岡部純子裁判長は判決で、元生徒が受けた行為をいじめと認定。学校や市教委が重大事態の調査を怠ったことや、校長らが調査前にいじめを否定する発言をしたことなどはいじめ防止法に反すると結論づけ、「重大事態の発生を認知すべき時に認知しない裁量はない」とした。

「違法と明言 全国の被害者に希望」

 判決後の記者会見で元生徒の母親、森田志歩さんは「認められて大変うれしい。一番傷ついてきた息子は、直接謝ってくれるのを待っている」と語った。代理人の石川賢治弁護士は「いじめ防止法に従わなかったことを司法が違法と明言したのは、知りうる限り初めて。全国の被害者に希望を与える」と評価した。

 川口市は「判決文を精査し対応を検討する」とコメントを出した。(杉原雄介)

元生徒の手紙「助けてくれると思った人たちに助けてもらえず、ウソばかりつかれたのがつらかった」

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会見で判決への受け止めを語る森田志歩さん=埼玉県庁で

母親が会見「市には謝ってもらいたい」

 判決後に埼玉県庁で記者会見した母親の森田志歩さんは「長かった。市には息子に謝ってもらいたい」と静かな声で語った。

 提訴から3年半。自宅で待っていた元生徒に電話で報告すると「泣いていた」という。森田さんは、判決前に元生徒が書いた手紙を読み上げた。

「ぼくはすごくくやしいしつらい

命があるからいいじゃんとか言われるけど 命があるから苦しい

いじめられたことより助けてくれると思った人たちに助けてもらえなくてウソばっかりつかれた方がすごくつらかったです」

PTSD悪化 「元の息子を返してほしい」

 在学中に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。裁判での市側の主張に憤り、関連して起こした個人情報開示の裁判で川口市に勝訴後も謝罪がなく落胆。症状が悪化して今年、障害者手帳を交付された。

 市に伝えたいことを問われ、森田さんは答えた。「心が壊れていく様子をずっとみてきた。元の息子を返してほしい。謝ってくれないと、息子は前に進めない」(柏崎智子)

【解説】いじめ防止法の「重大事態」 認定しないケースが全国で頻発している

 多くの子どもを救えなかった反省から8年前に制定された「いじめ防止対策推進法」。さいたま地裁の判決は、その重さを再確認させた。教育現場が思い込みや無知によって法にのっとった対応を怠ることは許されないことを明確に示した。

 いじめ防止法は大津市の市立中学校でいじめられた男子生徒が自殺した事件をきっかけに、2013年に施行された。見逃しを防ぐため、いじめを、受けた本人が「心身の苦痛を感じているもの」と幅広く定義。さらに命や財産にかかわる事案や、おおむね30日以上の不登校が続いた場合などは「重大事態」と捉え、速やかに調査するよう学校や教育委員会に求めている。

 しかし、この法律が実際の学校現場で必ず守られているとは言い難い状況だ。元生徒の代理人の石川賢治弁護士は「重大事態を認定しないケースは各地で頻発している」と語る。

 元生徒の母親で全国からいじめ相談を受ける森田志歩さんが全国の教職員に実施したアンケートでも、いじめ防止法のガイドラインなどに「必ず従うべきだ」という回答は6割にとどまり、4割弱は「内容による」と答えた。さいたま地裁の裁判でも、川口市はいじめの定義を巡り「欠陥がある法」と主張し、従わなくてよいとする根拠の一つにした。

 NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の理事で弁護士の小島秀一さんは、今回の判決を「法律どおりに対応するのは当たり前のことだが、それが明確に判決で示され、他の自治体へも警鐘になった」と評価した。

 この「当たり前」を争った裁判は3年半に及び、元生徒は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を悪化させている。市はこれ以上解決を長引かせることがまっとうな教育のあり方なのか、よくよく考えて対応してほしい。(柏崎智子)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年12月16日

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  • たんぽぽ says:

    いじめ被害者家族です。
    いじめで自殺するニュースをみる度、どんなに辛く苦しかったか…どんなにもがいても答えがなく我を忘れて己と戦ったのか…
    そしてそのことを知り命を失った我が子と対面した親御さんの心境。
    私はその度に一生忘れることのない我が家に降り掛かった怒り・光景・感情・喪失感・憎悪を薄れることなく鮮明に思い出します。そして今尚、加害生徒が幼馴染ママ友の子だったことのショックから立ち直っていません。

    【いじめを通し知ったこと 学校の先生に伝えたいこと】
    被害者は声上げたくても書きたくても、言えない書けない事情があることを察して下さい。アンケートに記載無ければそれでいじめゼロ、目の前のことを鵜呑みにして(口裏合わせ)裏でいじめがあっても知らんぷりしないで下さい。加害生徒が信憑性あり、恐怖心でしどろもどろの被害生徒が嘘ついている!証拠がないから指導出来ないと言いつつ証拠を突き付けても「やってない!」と言うからには指導出来ないで簡単に終わらせないで継続観察して下さい。

    やっていけないことを家庭の躾同様共有し小中学校でも言葉で態度で徹底して教えてほしいのです。
    引っ叩かれて顔が腫れていても加害者はやってない!と言っているから(被害者)嘘ついている。終いには、子どもの嘘が見抜けないバカな母親だ‼︎と罵られて。教師の目前で鋏で切り付けられた服も知らんぷり、黙って縫う親の気持ち。いじめを怒鳴りつけたら「リュックが開いていたから閉めてあげようと思っただけ〜」と顔色変えず声のトーンも変えず即答した加害者を庇う教師。
    どうか私に精神安定させる言葉を教えてくださいな。

    担任は異動すればいいし卒業すれば忘れるでしょうけれど、被害者はどうでしょう?
    キズが深ければ深いほど卒業しても荒んだ心のキズを癒す・治す家族のサポートは継続しているのです。そして献身にサポートしている親も被害者であり又誰にも相談出来ないまま苦しみを抱えているのです。

    幸い我が家は担任でもない一切関わりない見ず知らずの一教師が、ボロボロの我が子に歩み寄り寄り添いポッキリ折れた心を全て包み込み全身全霊で守り抜いて下さった…この真の教師がいなければ今はありません。たった一人の努力と誠実さに救われ感謝の気持ちでいっぱいです。今は成人したら〝助けてくれた先生に有難う〟報告に行けるような人になる‼︎と新たな道へ進んでいます。

    たんぽぽ 女性 50代
  • 悩む母 says:

    息子は、高校1年生看護師になり人の支えになりたいのが夢看護師の道を選べる普通科の高校に入学しましたが、すぐ様子がおかしくなり不登校に…いじめ?と聞いても教えてくれず、息子は半年以上4人の同じクラスの男子生徒に虐めを受け続け、つい2日前に話してくれました。学校に、ラインのスクリーンショットをコピーした物を提出しました。息子も嫌だった事を学校に書かされたにも関わらず、昨日電話で虐めていた子が違う内容だと否定すると、真に受けひたすら、反省してますと、早く無かった事にしようとしてる気がします。本当に何が少子化なのでしょうか?これでは、虐めを苦に自殺増えます。

    悩む母 女性 40代

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