朝起きられずに不登校…起立性調節障害(OD)や発達上の特性が背景にある場合も 医療と教育、両面のサポートが必要です

長田真由美
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岐阜県内の小学校で児童に配られたプリント。「来るのが楽しいと思える学校にしたい」と校長

 新学期がスタートした。希望に胸を膨らませる子もいれば、学校に行きたくないと不安に思う子もいるかもしれない。朝に起きられないことがきっかけで不登校になる子は多い。起立性調節障害OD=Orthostatic Dysregulation)などの病気や本人の特性が背景にあると、医療と教育の両面からアプローチすることが大切だ。連携を模索する現場を追った。

頭がフラフラ 立てずにぐったり

 2年前の朝。小学4年生の息子は頭がフラフラして、立っていられなかった。岐阜県内に住む女性(47)は息子を背負って、階段を下りた。学校に行ける状態ではなく休んだが、夕方には元気に。「明日は行く」と言ったものの、翌朝も横になったままぐったり。そんな状態が毎日続き、女性は途方に暮れた。

 小児科を受診したが、原因は分からなかった。症状から、自律神経の調節の乱れで起きるODを疑ったが、ODでよくみられる起立時の血圧の低下はない。医師から「薬も治療法もありません」と言われ、突き放されたように感じた。

血圧は正常で心拍数が上がる型も

 学校に相談したところ、校長(56)のつてで、不登校対応に詳しい岐阜大大学院教授で、小児神経専門医の加藤善一郎さん(57)とつながった。検査の結果、血圧は正常だが、心拍数が大幅に上がる型のODだと判明。また、OD以外にも、息子は周囲を気にするタイプで学校に居心地の悪さを感じていたことを知った。

 女性は「医師とつながれなかったら、どうしたらいいか分からないままだった」と振り返る。6年生になった息子は今、ODは改善傾向にあり、自宅で料理や工作、ゲームをするなど落ち着いて過ごしている。

 小学校のサポートも大きいという。担任、校長、養護教諭が加藤さんの講演や著書で不登校はどういう状態なのかを勉強。加藤さんともメールや電話で連絡を取り、息子の現状を把握してくれている。「学校全体が、息子の居場所をつくって待ってくれている。息子のことを理解してもらっているというだけで安心できる」と言う。

学校側は日課見直し、負担を軽減

 学校側はどう受け止めてきたのか。「最初から体制づくりができていたわけではない」と校長は話す。「もともとは、子どもは学校に来るべきだと思っていた」。ただ、不登校について学ぶうちに、「焦らなくていい。無理して来なくていい。まずは体の調子を整えることが大事ではないか」と思うようになった。

 そのうち、今学校に来ている子どもたちのことも気になった。もしかしたら、学校にストレスを感じているかもしれない。そう思い、負荷がかかりそうな学校の日課を昨年度から見直しているという。

 例えば、朝の健康観察。新型コロナ禍で毎日体温をチェックするが、今までは玄関と朝の会で2度していた。これを玄関だけの1回に変更。また、週に1度、掃除の時間をなくし、1時間弱の昼休み時間を確保した。「遊びの中で、けんかやトラブルを乗り越える力がつく。遊びの時間は大事」と言う。

 「『学校に行きたくない』と子どもが言った時、担任が一人で抱え込まないようにして、複数で対応することが必要」と校長。「子どもたちには、学校に来るのが楽しいと思える活動をさせてあげたい。不必要なものはやめるなど、学校も変わらなければ」と力を込める。

小児神経専門医「私が診る不登校の子の9割以上が、起立性調節障害(OD)の範疇に当てはまる」

 朝、起きられないことがきっかけで始まることの多い不登校。岐阜大大学院教授で小児神経専門医の加藤善一郎さんは、「私が診る不登校の子の9割以上が、起立性調節障害(OD)の範疇(はんちゅう)に当てはまる」と言う。

脳への血流低下 午前中の調子が悪い

 ODは起立した時に脳への血流が低下し、立ちくらみなどの症状になる。特に午前中の調子が悪く、朝起きられないので学校に行くのが難しい。症状に応じて、水分の摂取や睡眠時間の調整といった日常生活の改善、薬物療法が行われる。

 「治療で症状が改善され登校できる子どももいるが、私の印象では非常に少ない」と加藤さん。背景には、ODに加えて知的なバランスや発達などの面で特性を持っていることがあるという。こうした病気など本人側の「内的環境」に対処しても、周囲の理解や配慮などの「外的環境」が改善しないと状況は変わらないと指摘する。

内的環境と外的環境 どちらも整えて

 「内的環境」を診るのは主に医師だが、「外的環境」を整えるためには学校側の協力が欠かせない。

図解 「朝、起きられない…」起立性調節障害(OD)の子どもに、医療機関と学校がどうアプローチするか

 例えば、発達の特性や得手不得手は誰もが持っているが、学校生活が息苦しくなる場合がある。耳から入る情報の理解が苦手な子だと、教師の話を聞きながら板書を写すのが難しく、授業の内容が分からなくなって勉強が遅れることも。学校側がそうした特性に配慮し、板書の要点だけを書くことやタブレットでの撮影を認めるなどすれば、状況が改善する可能性がある。知的能力や記憶・処理能力を測る検査「WISC」(ウィスク)などを受けることは、特性を客観的に知り、学校側に配慮を求める際の手だての一つにもなる。

 「不登校の子の多くは『だいじょうぶ感』が低下している」と加藤さん。だいじょうぶ感とは、家族や先生から見守られていると感じ「何だか自分はOKだ」と思えることだ。内的環境と外的環境を整えることで取り戻せるという。

「面倒だ」学校と医師の連携は不十分 

 学校側では、子どもの特性にどう対応したら良いのか分からないと悩む教師は少なくない。「医師と連携できれば、学校だけで抱え込まずにすむ」との声も。

 ただ、現状は連携が進んでいるとは言い難い。名古屋市内にある小学校の50代校長は、「教育現場のことは教師が一番分かっている。医者に口出ししてほしくないと考える教師が今もいる」と打ち明ける。「仕事が増える」「面倒だ」とこぼす教師もいるという。

 課題は他にもある。加藤さんは、必要に応じて学校に連絡し、担任や管理職と直接話す機会を設けてほしいと依頼するが、親子の診察の場に同席する教師ばかりではない。医師が学校に赴く場合はボランティアとなり、個々の医師や教師の熱意に頼らざるを得ない。

学校は生活の場 子どもの心を守ろう

 2021年度の国の調査で、不登校の小中学生は24万4940人と過去最多を記録した。15歳を対象にした経済協力開発機構(OECD)の2018年の学習到達度調査(PISA)によると、学校に居場所のない子どもたちの生活満足度は、先進国31カ国中、日本が最下位だった。

 児童精神科医で、岐阜市教育委員会教育委員の加藤智美さん(57)は、「子どもたちは起きている時間のほとんどを学校で過ごし、他に居場所が少ないので、当然の結果」と指摘。「学校は生活の場そのもの。子どもの心を守るためにも医療と教育が連携する仕組みが必須ではないか」と話す。

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