共同親権に8割が否定的 子連れ離婚したひとり親調査 DVや虐待から「本当に逃げられなくなる」被害者の不安

出田阿生、小林由比 (2022年8月27日付 東京新聞朝刊)
 離婚後も父母双方が子どもへの親権を持ち続ける「共同親権」について、民間団体がひとり親を対象に行ったインターネット調査では、導入されても「選択しない」「どちらかというと選択しない」と答えた人が8割に上った。回答者の多くは離婚の背景にDV被害を挙げ、協力関係は難しいと考えていた。(出田阿生)

グラフ 「共同親権制度を選択したいか」のアンケート結果

身体的暴力だけでなく、経済的DVも

 共同親権導入に慎重な立場をとるシングルマザーサポート団体全国協議会(加盟31団体)が6~7月に調査。子連れで離婚した、ひとり親の会員2524人から回答を得た。

 同居当時、暴言などの精神的暴力、物を壊すなどの間接的暴力は7割、家計にお金を入れない経済的DVを受けた人は6割に上り、4割が子どもの虐待があったと回答した。全国の家裁で申し立てられた離婚のうち、女性(妻)側の理由の2~4位が夫からの経済・精神・身体的DVとなっている司法統計(2020年)の現状を裏付けた。

DVを訴えても家裁は「面会交流を」

 法制審議会(法制審)では、DVや虐待を家裁が認定すれば共同親権にはしないという案も出ているが、アンケートでは「DVを訴えたが面会交流を実施された」と回答した人が、調停経験者の2割以上いた。金澄道子弁護士は「家裁ではDVや虐待が過小評価されている。両親が協力できる関係なのかを判断する司法の基盤が不足している」と指摘する。

 法務省委託調査(2011年)では、単独親権制の下でも当事者の7割が面会交流は「行われている」と回答。2012年には面会交流を明記した改正民法が施行され、家裁が原則として実施させる流れは強まっている。

 大阪経済法科大の小川富之教授は「欧米諸国では共同養育を積極的に進める法改正をした結果、子どもが殺されるなどの事件が相次いだ反省から、別居親の権限を抑制する方向へ向かっている」と説明。全国協議会の代表で家族法制部会の委員でもある赤石千衣子さんは「養育費の支払いとの引き換えに共同親権を選ばされる恐れもある。もっと慎重な議論を」と訴えている。

◇DV被害を重視した各国の法制度見直しの動き
オーストラリア 2011年、離婚後の交流に肯定的な親が子の養育を担うのふさわしいという「フレンドリーペアレント」条項を開始5年で廃止。離婚後の父母と子との交流の継続よりも子の安全を優先する法改正
英国 2020年、司法省の専門委員会がDVの可能性がある親と子の交流の危険性を指摘。離婚後も父母が子とのかかわりを継続することが子の健全な成育につながるという推定規定の見直しを勧告
米国 2017年、子との面会交流や監護を検討する際、子の安全を最優先する必要があり、家族間暴力が訴えられている場合の裁判所審理の改善を求める勧告を下院が決議
カナダ 2021年、離婚法が改正され、フレンドリーペアレントの考え方に基づく規定を見直し。子の安全と健全な成育が確保できることを条件に、父母と子との関係の継続について考慮するという考え方に変更

法制審でも割れる賛否「養育費を確保できる」「DV被害が継続する」

 共同親権制度は、離婚後の子の養育を巡る家族法制の見直しの一つとして、2021年3月から法制審家族法制部会で議論されてきたが、委員の中でも賛否は割れている。7月19日に示された中間試案のたたき台では、共同親権を可能とする案と、現行の単独親権を維持する案を併記。部会は近く試案を公表し、パブリックコメントを募る。

 2012年施行の改正民法で、離婚協議の際に面会交流や養育費の分担について取り決めることが明記されているが、「離婚後も父母双方に養育責任があることを明確にすれば、円滑な面会交流や養育費の支払い確保が期待できる」などとして共同親権を求める動きがある。

 一方、「適切な面会交流や養育費支払いの促進は親権制度が原因ではなく、家族内にDVがあった場合、被害を継続させる恐れがある」として反対する意見も強い。(小林由比)

別居4年のシングルマザー 「いい人」の夫が家では暴力、面会のたびに罵倒…「共同親権になったら協力できるわけではない」

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 「共同親権になったら、本当に逃げられなくなる」。小学生の子を育てる30代のシングルマザーは、強い危機感でこう語る。夫のDVから子連れで逃れたが、別居4年の今も離婚が成立せず、面会交流を強いられている。今の住まいの近くには交番があり、「何かあったら駆け込もう」と、張り詰めた日々が続く。(出田阿生)

首を絞められ、鍋の中身を投げつけられ

 夫は周囲にはいい人だと思われ、会社でも出世しているが、家では別だった。結婚後に暴言など精神的暴力が始まり、出産後は身体的暴力も加わった。髪をつかんで引きずられ、首を絞められ、煮えたぎった鍋の中身を投げつけられた。時には子どもの前で暴力をふるわれた。別居すると、夫は調停や裁判を9件起こし、中には妻に6000万円を請求する訴えまであった。

 面会交流の実施について、家裁の調停ではDV被害を伝え、「夫が子どもに物を投げて流血させたこともある」と訴えた。だが調停委員は、面会場所が公園やテーマパークなので「第三者の目があるから大丈夫」と取り合わなかった。

「調停委員はDVや虐待に詳しくない」

 面会交流に子どもを連れて行くと毎回、夫に罵倒される。その様子を子どもに見せるのがつらい。「調停委員はDVや虐待に詳しくない。調査官も、面会交流は実施するのが原則だと言うばかり。被害が軽視されている」と感じている。

 離婚が成立していないため、現在は「共同親権」の状態だが、弁護士を間に入れても話し合いができない。「共同親権になったら父母が協力して子育てできるようになるわけではない。嫌がらせを続ける道具として子どもが使われ、暴力から逃れられなくなるだけです」

親権とは

 進学先などの重要事項決定権や契約などの財産管理権、住まいを定めたり身の回りの世話をする監護権などからなる。日本では婚姻中は父母が共に親権を持つが、離婚に際して父母どちらかを親権者とする単独親権制を採る。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年8月27日

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