<記者の視点>女性アスリートの月経調整、男性コーチこそ学ぶべき 「聞きづらい」では済まされない!

兼村優希 (2019年12月16日付 東京新聞朝刊)
 もし、自分の指導する女性アスリートが月経に伴う心身の不調で苦しんでいたら、手を差し伸べられますか-。今、スポーツの世界ではそんな男性指導者の意識改善が求められている。
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兼村優希記者

女子トップ選手9割「月経とコンディションは関連ある」

 国立スポーツ科学センターの調査によると、女性のトップ選手の9割が月経とコンディションは関連があると回答した。中には月経が近づくと心身が不安定になる「月経前症候群」に悩まされたり、月経中も痛みが強い「月経困難症」に苦しむ人がいる。

 選手の最良のパフォーマンスを引き出すには生理現象への理解が不可欠なはず。だが、指導者の多くを男性が占める現場では、月経など女性の諸問題に関して見過ごされがちだった。悩みを一人で抱え込む選手のため、医師や研究者らが声をあげ始めた。

低用量ピル使用率、欧米で8割超 偏見強い日本は27%

 日本スポーツ協会は10月に開いた公認スポーツ指導者の研修会で、初めて女子選手への指導をテーマに据えた。多くの男性受講者の前で東京大病院女性診療科・産科の能瀬さやか医師は、女性なら身をもって知っている月経の基礎知識から、エネルギー不足による無月経の問題まで詳しく説明。「月経後はコンディションが良いと感じる選手が多い」と、月経周期などを考慮したトレーニング計画の重要性を訴えた。

 特に力を入れて紹介したのが、低用量ピルなどで排卵を抑制し、月経周期をコントロールする方法だ。ピルを服用中は月経がなく、飲むのをやめた2、3日後に月経が来るという特徴がある。「月経後の好調な時期に試合を合わせたい」「体重が減りにくい月経前などは減量期からずらしたい」といった希望に合わせて調整でき、月経による症状の緩和も期待できるという。

 女性アスリートの低用量ピル使用率は、欧米では2008年で83%に上るが、日本では12年ロンドン五輪に出場した選手で7%、16年リオデジャネイロ五輪でも27.4%にとどまる。いまだ、避妊薬のイメージも根強く、ドーピングと混同する指導者もいる。能瀬医師は「日本のアスリートは情報を知らなすぎる」と警鐘を鳴らす。

男性指導者も、研修会に参加して「必要だった」と実感

 研修に参加した男性はどう感じたのか。都内で中高生のボート部員を指導する会社員の菊地竜起さん(31)は「男である自分から(月経などについて)聞くのはどうなんだろうという思いがあり、踏み込んでこなかった。体調管理をある程度見て、配慮することが必要だった」と納得の表情を浮かべていた。

 もう、生理の話は恥ずかしいとか、男性には関係ないとか、目を背けている場合ではない。アスリートと同様、もしくはそれ以上にコーチが「知らなすぎる」現状は是正されるべきだ。コントロールできることをできないままで終わらせ、選手の可能性を狭めないために、男性指導者にこそ女性の生理現象を積極的に学んでほしい。

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