外遊び主体、縦割り保育…個性派幼児教育がピンチ 幼保無償化の対象外となり来年度の入会ゼロ 救済を求める声

岩岡千景 (2019年12月8日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 型にはめない自由な子育てを提唱した小児科医の故・毛利子来(たねき)さんらがつくり、外遊び主体の保育で知られる東京都世田谷区の保育グループ「あそびの会」が、今年10月に始まった幼保無償化のあおりで運営の危機に陥っている。保育園でも幼稚園でもないため制度の対象外となり、来年度は兄や姉が通っている数人を除き、新規入会児がゼロに。個性的な幼児教育をする各地のグループなどが同様の状況になっており、保護者らから救済を求める声が上がっている。
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公園で縄跳びを楽しむ「あそびの会」の子どもたち=11月26日、東京都世田谷区で(淡路久喜撮影)

世田谷「あそびの会」 雨でなければ毎日お出かけ

 「まだ雨降ってないから、外に出ようか」。世田谷区三宿の住宅街にある「あそびの会」の保育室。午前9時。やってきた子どもたちに同会代表の石川由喜夫さん(70)が声を掛けると、男児が「イエーイ!」と手を上げて喜んだ。目の前にある公園に出ると、子どもたちは縄跳びをして元気に遊び始めた。

 その様子を見守っていた父母の会会長の西田ひとみさん(45)は、5歳男児を預け「ここでは子どもの目の輝きが違います」と話す。

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 あそびの会は1973年3月、「遊びきっていない子が多すぎる。もっと外で遊ぶ保育を」と、毛利さんやソーシャルワーカーの石川さんらを中心に、渋谷区の原宿で外遊び主体の保育グループ「おひさまの会」をつくったのが始まり。87年3月から現在の場所で2~5歳児を預かっている。雨でなければ毎日外へ出かけ、世田谷公園や駒沢公園、羽根木公園や多摩川など区内の自然豊かな場所でヨモギ摘みや虫捕りなどをして遊ぶ。渋谷区長の長谷部健さんも「おひさまの会」出身だ。

 6歳男児を預けている塩島紀子さん(45)は「外遊びで育つものは多くて、子どもは世界を五感で受け止め、地面の色を晴れと雨の日で描き分けています。縦割り保育で障害がある子も受け入れるので、年下や障害がある子への気配りも自然に学ぶ」と、会の教育の良さを語る。

保育料4万2000円と0円では「全く勝負にならない」

 現在、通っている子は21人。新年度に入る子は毎年、前年11月からの区の幼稚園入園申込時に10人近く入会していた。ところが今年は兄や姉が通っている数人以外、新たな入会児はいない。

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 「問い合わせはたくさんあって『無償化はどうなってますか?』と聞かれ、『対象じゃない』と言うと申し込みに来ない。去年までは私立幼稚園と月額1万円程度の差だったが、今年はうちの保育料4万2000円かゼロかだから、全く勝負にならない」と石川さんは嘆く。幼保無償化制度では、認可外の保育施設等が対象になるには「保育の必要性の認定」が必要なため、幼児教育をするこうした施設は対象から外れる。「40年以上も続いてきたのに」と、保護者らは救済を求める。

 世田谷区保育認定・調整課は「国の方針が出ないと区では対応できない」と説明。同区議会は5日、幼児教育の質を確保する施設も無償化の対象にするよう要望する意見書を、衆参両院議長や首相、文部科学相ら宛てに提出した。文科省幼児教育課は「認可外でも地域で重要な施設は、自治体と協力した支援の在り方を検討している」と話している。

各地で同じ現象…専門家「心配していた事態」 「森のようちえん」保護者が署名活動

 幼保無償化の対象外とされた影響で東京都世田谷区の保育グループ「あそびの会」の新規入会児が大幅に減少したが、同様の現象は各地で起きている。

 東京都小金井市で野遊びを楽しませる「野外保育りんごっこ」でも、毎年この時期に幼稚園部門で5人はいる新年度の入園の申し込みが、現段階でゼロという。

 教育学者の汐見稔幸さんは「予想され、心配されていた事態だ」と話す。「外国の子を預かる施設も幼保無償化の対象外。本来なら差別が生じない制度にすべきだったが、議論が不十分なまま始まり、弊害が出ている」と指摘。さらに「欧州では幼保無償化は幼児教育の一環だが、日本では少子化対策。幼児教育とセットで考え、すべての子どもの育成のための公平な制度にすべきだ」と提言する。

 「りんごっこ」を含め、一日の多くを自然の中で活動している幼児教育や保育施設を「森のようちえん」と呼び、約200団体が加盟する全国ネットもある。東京都などの「森のようちえん」に子どもを通わせる保護者たちは「どの子どもも平等に幼児教育・保育の無償化制度の対象にしてください」と都や国に要望する署名活動を、紙とネットで始めた。活動は全国に広げていく。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年12月8日

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