<記者の視点>保育所は増えた、待機児童は減ったーでいいのか 不正受給問題は”氷山の一角” 保育の「質」確保に本腰を

(2022年9月10日付 東京新聞朝刊)
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不正受給が分かったグローバルキッズの本社=東京都千代田区で

 「氷山の一角ですよ」。そんな声を、保育所経営者や識者らから聞いた。7月に明らかになった、保育事業大手の株式会社「グローバルキッズ」(東京都千代田区)による公金の不正受給問題だ。同社は2015~2019年、保育士数を水増しして都内8区に報告し、違約加算金を含めて少なくとも計約3400万円の返還を求められた。

 大手が5年にわたり、本部関与の下、不正をしていたことに驚いたが、あらためて保育士不足の深刻さや、不正を監視すべき行政の問題も浮き彫りになったと思う。

奥野斐記者

人件費削減で故意に人を置かない例も

 都内の認可保育所では、子どもの定員に合わせて保育士を配置しなければならないが、支給される運営費は在籍する園児数に基づく。つまり人件費と収入がバランスを欠くこともある。保育関係者の話では、必要な保育士を人手不足で確保できないケースや、人件費削減のため故意に人を置かない例もあるそうだ。

 同社も、不正の背景を「保育士の採用難や、実際の児童数に応じた職員配置をすればよいという誤った認識があった」と説明した。同社を巡っては、世田谷区の保育所で2019年に今回と同様に計約900万円の返還を求められている。その後、豊島区の保育所に同区が実施した監査を端緒に都が監査対象を広げ、今回の不正受給が発覚。計約2500万円の返還が生じた。

施設は急増 追い付かない行政の監査

 保育事業に株式会社が参入できるようになったのは2000年。保育の受け皿整備を進める行政と、営利を求める株式会社の思惑が一致した部分もあるだろう。都によると都内では2018年度以降、1000を超す認可保育所が新設され、うち約7割が株式会社の運営。2017年に8500人を超えていた都内の待機児童は、今年4月1日時点で300人と過去最少にまで減った。

 一方で、行政の監査は施設の急増に全く追い付いていない。法令で自治体職員は年1回以上、認可保育所などを実地検査することが義務付けられている。だが、都の検査実施率は全施設の5.2%(2020年度)にとどまっており、他の自治体に比べても特に低い。その上、厚生労働省はコロナ禍を理由に、施設に入らなくてもいいよう実地検査の規定を緩めようとしている

保育の「量」を優先 広がった格差 

 これまで国や都は保育の「量」の増加を優先してきた。その陰で子どもの福祉より、利益を追求する事業者も参入した。保育所運営のコンサルティングを行う男性は「保育がもうかると思って始める事業者は今もいる。不正が起きやすい状況がある」と話す。

 保育所は増えた、待機児童は減った-と、数字で見れば問題は解消に向かうが、希望する保育所に入れない人はまだ多い上、保育士の配置の手厚さや園庭の有無など保育環境の格差は広がっている。待機児童が減った今こそ、保育の「質」を担保する監査の強化や、不正が起きない制度への改善に本腰を入れる時だ。

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