「園児宙づり」虐待から1年、あの保育園は今… この声かけは不適切? 悩む保育士、萎縮や不安も

佐野周平 (2023年11月29日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 静岡県裾野市の私立「さくら保育園」で1歳児クラスの園児を暴行したとして女性保育士3人=いずれも退職=が逮捕され、うち1人が罰金20万円の略式命令を受けた事件は、11月29日で虐待行為の発覚から1年となる。同園は再発防止に向け保育のあり方を見直しているが、現場では「適切」か「不適切」かの判断に悩むことも多く、模索は続いている。
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保育の見直しを進める「さくら保育園」=静岡県裾野市で

強く注意したら、問題視されないか

 今月上旬、同園の1歳児クラスの教室。男児がプラスチック製のフライパンのおもちゃで女児をたたき始めた。ベテラン保育士の女性は慌てて駆け寄ると、逃げようとする男児を制止し、抑えた口調で諭すように声をかけた。

 この男児がおもちゃで他の園児をたたくのは、これが初めてではない。優しく諭しても男児は平然としていて「心には響いていないのかな」と感じた。かつてなら反省を促すため厳しく伝えていたが、事件後はふと不安がよぎる。「強く注意したら、威圧的と問題視されないか」

 女性は最近、少しずつ「子どものため」と思い直し、必要な時はしっかり注意するよう心がけている。「自分なりの物差しができつつあるが、今も萎縮はある」と明かす。

「できるだけ完食」の指導も一苦労

 裾野市によると、市内の他の保育施設からも事件後、「適切な保育の範囲」を尋ねる問い合わせが複数寄せられた。状況次第で判断が分かれる事例も多く、ある市立幼稚園の園長は「当たり前にやっていたことでも果たして正しいのかと、疑問を感じるアンテナが高くなった」と変化を語る。

 さくら保育園は昔から食育に力を入れ、給食は「できるだけ完食」を目指してきた。事件後にあった県と市による特別監査では、保育士が時間内に完食させようと無理やり食べさせる不適切行為が確認された。

 さくら保育園は今も「できるだけ完食」の方向性を変えていない。保育士は各園児の月齢や体調、日頃の食べ具合などを考慮し、働きかけをしている。ベテラン保育士の女性は「一口食べてもらうのも一苦労だけど、そこを考えるのが私たちの仕事」と力を込める。

保育士は減ったが…手厚く配置したい

 さくら保育園は事件後、園の風通しを良くするため職員会議を増やすなど、静岡県と裾野市に提出した改善報告書で示した再発防止策に着手。同業者や有識者といった外部の視点を取り入れる活動にも注力する。

 現在の保育士数は35人で、国の配置基準はクリアしているものの、事件前から数人減ったという。事件後、同園を運営する社会福祉法人「桜愛会」の理事長に就いた高村謙二さん(59)は「保育士を手厚く配置するなど、園児も保育士も守れるような保育環境を整えていきたい」と話す。

さくら保育園の園児暴行事件

 昨年11月29日に一部報道で表面化し、翌日に裾野市が会見で15項目(後に16項目に修正)の不適切な行為を公表した。静岡県警は12月4日、園児への暴行容疑で保育士だった女性3人を逮捕し、うち1人が罰金20万円の略式命令を受けた。

表 さくら保育園で確認された園児への16の虐待行為

 静岡県と裾野市は昨年12月~今年2月、児童福祉法などに基づいて特別監査を実施。園児の足をつかんで宙づりにするなど10項目を不適切な行為と認定し、園を運営する「桜愛会」に改善勧告を出した。再発防止策などを盛り込んだ改善報告書は8月に受理された。

表 裾野市 さくら保育園の園児虐待事件の経緯

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年11月29日

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