卒園・卒業記念DVDに楽曲を使いたい…JASRACの許諾申請の手順は? 費用は? 自力でクリアした記者が経験を伝えます

北條香子
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完成したDVDの盤面。JASRACのロゴと「V-」で始まる許諾番号を表示する、という規定があります(画像を一部加工しています)

「著作権などの問題で、毎年作ってきた卒業記念のDVDを今年から作らないって学校から連絡があって。思い出を記録するのが難しくなっていて残念」。東京すくすく編集チーム内で、先月の卒業・卒園シーズン、こんな声が上がりました。

確かにこうした記念DVDを作る場合でも、BGMに使った曲の著作権を管理する「日本音楽著作権協会」(JASRAC)に利用許諾申請をする必要があります。

著作権使用料って高額なのでは?と思う方も多いかもしれませんが、実は卒業や卒園記念のDVDで使うのであれば減額が適用され、金銭的には思いのほか安く済みます。

ただ、実際に手続きをしてみると、なかなかに骨の折れる作業…。この春、わが子の保育園卒園に合わせ、DVD作りを担当した記者の体験を伝えます。

まずはアカウント登録「FAXか郵送!?」

私が担当したのは、在園中の写真や動画を編集した卒園記念映像の作成。BGMには運動会のバルーンで使われた思い出のある「できっこないをやらなくちゃ」(サンボマスター)など3曲を、子どもたちの歌と保育士の先生のピアノ伴奏で録音することに。

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DVDの一場面。思い出たっぷりの運動会(ぼかし加工しています)

これから別々の小学校に進む子どもたちが、一緒に過ごす在園中だからこそ生み出せるハーモニーを記録に残したいと思いました。伴奏用の楽譜を購入し、5歳児でも読めるよう大きなひらがなで書いた歌詞を掲示用に用意しました。

自宅でいつでも見返して園生活の思い出に浸ってもらえるようにと、卒園映像を収めたDVDを複製し、担任の保育士の先生や各家庭に配ることに。複製したDVDの盤面にJASRACの許諾番号を表示するため、BGMに使った歌の利用許諾申請もあらかじめ済ませなくてはなりません。

まずは、JASRAC管理楽曲のオンラインライセンス窓口「J-RAPP」のアカウント登録。JASRACから届いたメールには、IDとパスワードの発行作業を行うため、利用登録完了の際に印刷した「J-RAPP利用申込書」に捺印してFAXか郵送で協会まで提出するように、と書かれていました。

「FAXまたは郵送!?」(思わずぼやき)。このところほとんど出番がなく、ほこりをかぶっていた我が家のFAXですが、「あって良かった」と久しぶりに思いました。

簡易書留を待っていたら…「メール!?」

メールを読み進めると、申込書到着から最短3日で、IDとパスワードが簡易書留郵便で届くとのこと。FAXで利用申込書を送信後、簡易書留が届くのを待ち続けていましたが、1週間たっても届きません。

申し込みから8日後、不安になり最初にきたメールを確認しようとして、メールボックスをチェックしたところ、FAX送信の翌日にすでに「J-RAPP利用申込窓口開設の手続完了のお知らせ」というタイトルのメールが。

あわててメール本文を開くと、

通常、ID・パスワードのご案内は郵送にてお届けしておりますが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため一部在宅勤務体制となっており、現状はメールでのご案内とさせていただいております。

簡易書留を待っていた私はいったい…とここでも、文句を言いたくはなりました。

自前の録音 約13分で1600円程度に

ところで著作権使用料というと、高額のイメージがありませんか。ですが、卒業・卒園記念のDVDの作製目的の場合、配布数が50個までなら、

1分あたり110円×累計利用時間(1曲ごとに秒単位を切り上げ、合算した分数)+消費税相当額

となります。私が制作した卒園映像の場合、13分弱のほぼ全編にわたってBGMが流れており、JASRACからの請求書はまだ来ていませんが1600円未満になる見込み。クラスの全家庭で割り勘すれば、大した負担にはなりません。

ただ、これは子どもや先生が歌ったり演奏したりした曲をBGMにする場合の使用料。アーティストの歌やカラオケ音源を使う場合は別に「著作隣接権」というものの許諾が必要で、1曲あたり万単位の金額になるようです。

J-RAPPのIDを無事に入手した私は、この減額措置を受けるため、卒業記念用の利用許諾契約の手続きへ。オンラインの申し込みフォームには、フォームに必要事項を入力して送信すると、内容確認後、JASRACから契約書類等が送られてくると説明されていました。

ここで浮かんだ疑問は「お送りしますって、何で送ってくれるの?」でした。メールならすぐ届くだろうけど、郵送だったら時間がかかりそうだな…。前回の反省を踏まえ、こまめにメールの受信箱を確認する日々が続きました。

17種ものファイル 私は途方に暮れた

1週間たち、しびれを切らして問い合わせようかと思った矢先、JASRACから「卒業記念及びコンクール製品に係る契約書についてのご案内」というメールを受信。本文中のURLからZIPファイルをダウンロードし展開すると、契約書のほか、契約締結に当たっての重要な注意点等を記載した手引など計17ものファイルが入っていました。

メールには次のように書かれていました。

契約を締結される場合は以下の書類をご提出ください。

9、10の契約書(署名・捺印済のものを各2部)
(できましたらA4サイズの両面コピーで2か所ホチキス留めにてご提出ください)

11又は12の過去の製品についての書面
(過去の製作状況に合わせてどちらか一方をご提出ください)

13の製作予定一覧
(契約締結後、予定されている製品一覧についてはその都度ご報告ください)

14の確認書
(当協会のホームページに事業者名、所在の地方区分を掲載することについて確認する書面となりますので、ご記入ご捺印の上ご提出ください)

メールと送られてきたファイルを一通り確認した私は途方に暮れました。「何をどうやってどこに送ればいいのか分からない…」

「A4サイズの両面コピーでホチキス留め」と書かれている契約書は、おそらく郵送で提出すれば良いのでしょう。でもメール本文にも、ダウンロードした17のファイルにも、送付先の住所は書かれていませんでした。

GoogleでJASRACのウェブサイトを検索し、「会社概要」の項目にあった本部所在地を封筒に書き写し、続いてGoogleで渋谷区上原の郵便番号を調べました。

封筒には「卒業記念用録音・録画物に係る音楽著作物利用許諾契約書」のほか、12の過去の製品についての書面と14の確認書を同封。13の製作予定一覧については、「卒業記念用・コンクール手続きのながれ」というファイルの末尾に「♪一覧表などの送付先はこちらへ♪」とメールアドレスが書かれていたため、別にメールで送ることにしました。

苦労した末に歓喜…許諾番号が発行♪

並行してJ-RAPPを通じて楽曲使用を申請したところ、翌日には許諾番号を通知するメールが届きました。DVDの頒布予定日である卒園式の日が迫る中での申請だったため、急いで許諾番号を発行してくれたのかもしれません。

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許諾申請の手続きが完了したことを伝えるJASRACのメール(一部加工しています)

卒園映像の編集作業自体は休日などを使って早めに進めていましたが、子どもたちの歌の録音時期が遅くなってしまったことや、簡易書留の到着を待っていた時間のロスなどから、DVD完成が卒園式当日に間に合わなければ小学校入学後に渡すことも検討していました。

ただ多くの手間暇をかけた卒園映像だけに、できれば新生活が始まってからではなく、卒園式の余韻が色濃く残る時期に見てほしいと考えていたので、その願いがかなう時期に許諾番号が発行されたことはとてもうれしく、これまでの苦労が報われた思いでした。

とはいえこの喜びをゆっくりかみしめている暇はありません。DVD複製業者への発注やコピー元のマスターDVDの郵送など、配布に向けた作業はまだ残っていたからです。JASRACからは複製したDVD盤面などへのJASRACマークと許諾番号の表示についても指示がありました。

最後にあった落とし穴「コンクール!?」

さて卒園式の少し前、東京都内の見知らぬ電話番号から着信がありました。検索するとJASRACの電話番号で、かけ直しましたが「複製部への問い合わせはメールで承っております」という音声が流れるばかり。結局この日の夕方に以下のメールが届きました。

このたびは卒業記念の契約書書類をお送りいただきありがとうございました。

中身を拝見したところ、コンクールの契約書類2部がございませんでした。この契約は卒業記念とコンクールが対になって締結されるものですので、お手数ですが、コンクールの契約書2部を追加で送っていただけますでしょうか。

著作権使用料の減額対象となるのは「卒業記念用およびコンクール用録音・録画物に関する取り扱い」とJASRACのウェブサイトにも書かれており、確かに先ほど紹介した「■9、10の契約書(署名・捺印済のものを各2部)」の9、10はそれぞれ卒業記念とコンクール用の書類でした。私の制作するDVDは卒園記念なのでコンクール用の契約書は不要と思ったのですが(ふぅ…)。

素人向けのマニュアルを整えてほしい

卒園映像制作では、ほかの保護者から写真や動画を集めたり、撮影や歌の録音をこなしたり、四十路の目と肩、腰を酷使してパソコンに向き合って編集したりと、一つ一つの作業に労力を割いた実感はありますが、何が一番大変だったかと言えば、やはりJASRACへの著作権使用の許諾申請でした。

一方で、別の保育園だったママ友から「卒園映像をウェブにアップしたら、著作権で引っかかってすぐに削除されちゃったの」と聞いたことがあります。著作権という他者が持つ権利を侵害しないというのはもちろんですが、親として、卒園という我が子たちの節目にけちを付けたくないという思いが強くあります。

JASRACのウェブサイトの「卒業記念用およびコンクール用録音・録画物に関する取り扱い」のページには、

「以下の録音・録画物を製作する事業者の方は、事前にJASRACと利用許諾契約を締結することにより、使用料の減額等を受けることができます」

「学校等の教育機関から依頼を受け学校行事等の様子を収録し、生徒等を対象に配布することを目的として、教育機関に代わってCD・DVD等に複製する場合」

などと書かれています。

申請に慣れたプロの業者であれば、私のように困惑することはないのかもしれませんが、各家庭の金銭的な負担を抑えるため、業者に依頼せず保護者自ら制作する園や学校も少なくないでしょう。

私の家族が仕事でJASRAC関係者と会った際、私が申請に苦労したことを伝えたところ、「きちんと許諾申請する保護者は珍しい」という反応だったそうですが、せっかく利用料減額の対象になっているのですから、慣れない素人の保護者にも分かりやすいマニュアルを整えてもらえればと思います。

いつまでも思い出を再生できるように

完成した映像を上映した卒園式後の謝恩会では、子どもたちは自分を見つけて「あ、いた!」とはしゃいだり、照れて手で顔を隠したり。ハンカチで目頭を押さえる保育士の先生たちや保護者も見られました。子どもたちがBGMに合わせて歌を口ずさむ姿も印象的でした。当日夜にはママ友から「家に帰ってから何度もDVDを見たよ」とうれしい言葉をもらいました。

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DVDの一場面。園で楽しそうに過ごす子どもたち(ぼかし加工しています)

実は今回の卒園映像制作は、長女の卒園時に続いて2回目でした。そのときはJASRACへの申請は別のママにお願いしたのですが、長女が小学3年になったころ、友達のママからこんな話を聞きました。「保育園を卒園する時に作ってもらったDVD、うちの子は今でもしょっちゅう見ているよ」

卒園から2年以上たち充実した小学校生活を送りながらも、DVDを見ることで先生たちに愛されて、みんなで仲良く過ごした保育園時代を懐かしく振り返ってくれているんだなと、制作を担当した身としてとてもうれしく感じました。今回の卒園映像も、我が子や友達が見返したときに温かい気持ちになるものになればと願っています。

関連リンク

◇J-RAPP
https://j-rapp.jasrac.or.jp/
JASRAC管理楽曲を利用するためののオンラインのライセンス窓口。ここからアカウント登録を行います。

卒業生に渡す記念DVDに在学時に流行した音楽を入れる場合、手続きは必要ですか。
https://secure.okbiz.jp/faq-jasrac/faq/show/24
JASRACのFAQページ。「非商用利用」で使用料が減額される場合があることが書かれています。利用したい楽曲がJASRACの管理作品かどうかを調べるデータベースへのリンクもあります。

卒業記念用およびコンクール用 録音・録画物に関する取り扱い
https://www.jasrac.or.jp/users/product/commemoration.html
JASRACの利用者向けページ。卒業・卒園記念の減額措置を受けるための利用許諾契約の手続きは、ここから申し込みを行います。

卒業記念用録音・録画物に関する運用基準 使用料の計算方法(PDF)
https://www.jasrac.or.jp/users/product/commemoration/pdf/calculation-graduation.pdf
「複製する録画物50個までは1分ごとに110円」といった計算式はここに説明があります。

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