親子でゆったりごはん、友だちもできる 川崎市宮前区の「ホッとスペース・和」 利用者を選別せず無償提供する理由は

渡部穣、竹谷直子 (2023年10月24日付 東京新聞朝刊)
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食事を楽しむ親子=いずれも川崎市宮前区で

 【つながる子育て@川崎】「こんにちはー!」「おなかすいた。きょうのごはんはなに?」。今月12日、夕闇が迫る午後4時半過ぎ、川崎市宮前区の「蔵敷自治会館」に、子どもたちが続々と集まってきた。会館の中は、食事を待ちながら遊ぶ子どもたちの声で、あっという間ににぎやかになった。

来てくれてうれしいから「ありがとう」

 ここは、ボランティア団体「ホッとスペース・和」が開く近所の親子向けの食事の場。団体は2年前から、子どもたちに無償で食事を提供している。

 「もうちょっと待ってね」。ボランティアの女性たちと一緒に食事の用意をする山田千鶴代表(62)は、一人ひとりの名前を呼びながら声を掛けていく。「よく来たね。来てくれてありがとう」。山田さんが「ありがとう」と言うのは、「ここに来たいって思ってもらえたことが何よりうれしい」と感じているからだ。

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「来てくれてありがとう」と声をかけながら、利用者に食事を手渡す山田代表

 この日のメニューは、ハンバーグとマカロニサラダ、ナスとピーマンの素揚げにご飯とおみそ汁。デザートには栗のロールケーキが出た。大人と希望する子には空心菜の炒め物と栗の渋皮煮も。野菜や果物はすべて、地域の人たちからの寄付だという。テイクアウトしたい人の分も含め、90食分を用意した。

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食事の準備をするボランティア

 宮前区こども文化センター(児童館)の職員で学童保育のリーダーを務めていた山田さんが、こうした食事付きの居場所をつくろうと思い立ったのは、2021年の初め。新型コロナの感染拡大のただ中だったが、「だからこそ、家族の孤立化を避けるための場所が必要だと思った」。今は宮前区内の2つの自治会館で月1回ずつ開いている。

孤立を防ぐコミュニティーづくりも目的

 各地に定着している子ども食堂の多くは、経済的に苦しい家庭の子どもたちの食を支える目的で始まった。だが、山田さんたちは利用者の線引きはしない。「大勢の中にたまたま経済的に困っている子どもが1人でも2人でもいてくれたらそれでいい」。多様な家庭環境の子どもたちに参加してもらい、同じ年頃の仲間同士のコミュニケーションの場として、大人が口出しせず見守ることも大切にする。

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食後に談笑する利用者と山田代表(左)。何気ない交流や会話が息抜きになるという

 「ここの目的は、子ども支援のほか、子育て支援、地域のコミュニティーづくりの3つがある」と山田さん。大人の利用料は200円とし、保護者も顔を出しやすい雰囲気をつくっている。

 東京都内から引っ越してきたばかりといい、小学2年生と5歳の男児と訪れた母親は「ここに来て友だちができた。母親同士で話ができて楽しい」。小学1年生の男児を育てる母親も「ゲームをするよりも、ここに来たいと子どもが言ってくれる。嫌いな食べ物も食べるようになってくれた」と笑顔を見せた。

 「月にたった1、2回でも、食事の用意や片づけのことを考えなくてもいい、保護者がリフレッシュできる日になってほしい」。山田さんたちスタッフは、保護者同士が楽しそうに会話する様子を見守った。(渡部穣)

子ども食堂の意味「ごはんを作らなくていい日なら、子どもに向き合う時間が増える」

 川崎市内の子ども食堂の数は年々増えており、子ども食堂をサポートする中間支援団体「かわさきこども食堂ネットワーク」によると、今年10月には83カ所と2018年の25カ所から3倍以上に増えた。同ネットワークの佐藤由加里代表(58)は、「子ども食堂が身近になったことで、利用する家庭が増えている」と話す。

コロナ禍で利用者増加 運営資金が課題

 佐藤さんも高津区で子ども食堂「菜の花ダイニング」を運営している。コロナの感染拡大で、テイクアウトに切り替えた時期は、それまで食べに来られなかった父親や、部活動をしている中学生など新たな利用者が増えたという。コロナ前は、多いときでも1回の開催で出す食事は80食ほどだったが、今は120食で高止まりしているという。

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「子ども食堂は広い意味での子育て支援」と語る佐藤さん=川崎市中原区で

 核家族で両親だけで、またはひとり親で子どもを育てている家庭が多く、「周りに頼れる大人が少なくなっている」と佐藤さん。子ども食堂はそんな家庭のよりどころになっているが、運営は寄付金や補助金頼みで、財政状況はほとんどの食堂で厳しい。「働いている人も完全無給のボランティア。運営資金はどこも困っている」

 一方、川崎市内では、スポーツチームや企業などから食品や場所の提供などの支援が広がっており、佐藤さんは「恵まれている」と感謝する。

 「子ども食堂をしている人は、困っている人を助けたいという方向性が一緒。『また来るね』と言ってくれるのがうれしい」と佐藤さん。「ごはんを作らなくてもいい日があると、それだけ子どもに向き合える時間が増え、子どもの笑顔が見られる。広い意味での子育て支援として、子ども食堂が安定して運営していけるようにできれば」と話した。(竹谷直子)

【つながる子育て@川崎】少子化の中、子育てをどう支えるか、子どもたちをどう育むかは大きな社会課題となっています。誰とどのようにつながっていけばいいのでしょうか。大都市としては出生率が高い川崎市で子ども・子育てに関わる人たちの思いや取り組みを取り上げていきます。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年10月24日

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