親子でゆったりごはん、友だちもできる 川崎市宮前区の「ホッとスペース・和」 利用者を選別せず無償提供する理由は
来てくれてうれしいから「ありがとう」
ここは、ボランティア団体「ホッとスペース・和」が開く近所の親子向けの食事の場。団体は2年前から、子どもたちに無償で食事を提供している。
「もうちょっと待ってね」。ボランティアの女性たちと一緒に食事の用意をする山田千鶴代表(62)は、一人ひとりの名前を呼びながら声を掛けていく。「よく来たね。来てくれてありがとう」。山田さんが「ありがとう」と言うのは、「ここに来たいって思ってもらえたことが何よりうれしい」と感じているからだ。
この日のメニューは、ハンバーグとマカロニサラダ、ナスとピーマンの素揚げにご飯とおみそ汁。デザートには栗のロールケーキが出た。大人と希望する子には空心菜の炒め物と栗の渋皮煮も。野菜や果物はすべて、地域の人たちからの寄付だという。テイクアウトしたい人の分も含め、90食分を用意した。
宮前区こども文化センター(児童館)の職員で学童保育のリーダーを務めていた山田さんが、こうした食事付きの居場所をつくろうと思い立ったのは、2021年の初め。新型コロナの感染拡大のただ中だったが、「だからこそ、家族の孤立化を避けるための場所が必要だと思った」。今は宮前区内の2つの自治会館で月1回ずつ開いている。
孤立を防ぐコミュニティーづくりも目的
各地に定着している子ども食堂の多くは、経済的に苦しい家庭の子どもたちの食を支える目的で始まった。だが、山田さんたちは利用者の線引きはしない。「大勢の中にたまたま経済的に困っている子どもが1人でも2人でもいてくれたらそれでいい」。多様な家庭環境の子どもたちに参加してもらい、同じ年頃の仲間同士のコミュニケーションの場として、大人が口出しせず見守ることも大切にする。
「ここの目的は、子ども支援のほか、子育て支援、地域のコミュニティーづくりの3つがある」と山田さん。大人の利用料は200円とし、保護者も顔を出しやすい雰囲気をつくっている。
東京都内から引っ越してきたばかりといい、小学2年生と5歳の男児と訪れた母親は「ここに来て友だちができた。母親同士で話ができて楽しい」。小学1年生の男児を育てる母親も「ゲームをするよりも、ここに来たいと子どもが言ってくれる。嫌いな食べ物も食べるようになってくれた」と笑顔を見せた。
「月にたった1、2回でも、食事の用意や片づけのことを考えなくてもいい、保護者がリフレッシュできる日になってほしい」。山田さんたちスタッフは、保護者同士が楽しそうに会話する様子を見守った。(渡部穣)
子ども食堂の意味「ごはんを作らなくていい日なら、子どもに向き合う時間が増える」
コロナ禍で利用者増加 運営資金が課題
佐藤さんも高津区で子ども食堂「菜の花ダイニング」を運営している。コロナの感染拡大で、テイクアウトに切り替えた時期は、それまで食べに来られなかった父親や、部活動をしている中学生など新たな利用者が増えたという。コロナ前は、多いときでも1回の開催で出す食事は80食ほどだったが、今は120食で高止まりしているという。
核家族で両親だけで、またはひとり親で子どもを育てている家庭が多く、「周りに頼れる大人が少なくなっている」と佐藤さん。子ども食堂はそんな家庭のよりどころになっているが、運営は寄付金や補助金頼みで、財政状況はほとんどの食堂で厳しい。「働いている人も完全無給のボランティア。運営資金はどこも困っている」
一方、川崎市内では、スポーツチームや企業などから食品や場所の提供などの支援が広がっており、佐藤さんは「恵まれている」と感謝する。
「子ども食堂をしている人は、困っている人を助けたいという方向性が一緒。『また来るね』と言ってくれるのがうれしい」と佐藤さん。「ごはんを作らなくてもいい日があると、それだけ子どもに向き合える時間が増え、子どもの笑顔が見られる。広い意味での子育て支援として、子ども食堂が安定して運営していけるようにできれば」と話した。(竹谷直子)
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