「留守番禁止」海外では当たり前? 子どもの安全を巡る各国事情を特派員に聞いてみた

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【後編】子育ての現実からかけ離れているとして、埼玉県議会で可決直前に撤回された虐待禁止条例の改正案。昨年10月に報道が加熱した当時、「諸外国では子どもを1人にするのを禁止する国もある」「ただ、それは治安や子育てインフラなど日本とは背景が違うからだ」といった議論が盛んに起こりました。前編でインタビューした山中龍宏さんも「海外には子どもを社会で育てようという意識が根付き、システムもある」と指摘しています。実際はどうなのでしょうか。東京新聞(中日新聞)の海外駐在員に、各国の子どもの安全を巡る事情を聞きました。

フランス 必ず大人が見守るのが習慣化

2023年9月までパリに駐在していた谷悠己記者〈中学2年の長男(13)と小学4年の長女(10)の父〉のリポートです。

「留守番禁止」条例 海外の子育て事情

パリ市内のボウリング場でお誕生日会

お迎えで退勤は当然 シッターも普及 

 小学生は親が必ず送り迎えをします。だいたい16時半ごろに授業が終わると、親もしくはベビーシッターのお迎えで帰宅する組と学校で18時ごろまで居残る組とに分かれます。わが子は妻が16時半に迎えに行けていたので詳しくは分かりませんが、学校では宿題をしたり、遊んだりして過ごすようです。

 18時のお迎えはだいたい母親かベビーシッターさん。日本と比べると終業が早いと思いますが、企業には「お迎えの時間なので帰ります」と上司や同僚に言えるような風土が根付いているようです。迎えに行けなくても、ベビーシッターは公的支援として収入に応じた一部払戻制度があるため、利用率は高いです。2019年のデータで、一度は預けたことのある家庭は63%に上りました。

 別の調査なので単純比較はできませんが、同じ2019年のデータでベビーシッターを定期的に利用していると答えた家庭は、アメリカで52%、ドイツで16%、日本は7%という報告もあります。

 パリ市民は、子どもに対してとても寛容で、子育てはしやすかったように感じます。ただ、公園で子どもたちだけで遊んでいる姿はあまり見かけませんでした。必ず誰か大人が見守る習慣が根付いているようです。

 留守番も、祖父母やベビーシッターを頼って、できるだけ大人が見守るようにしていると思います。2018年に4歳の移民の子どもが1人で留守番し、バルコニーから落ちて隣人に助けられたという事故がありました。親は刑事罰となりました。そのニュースで、識者が「8~9歳(小学3年生)だと自分で身を守れる能力はあるが、極力子どもは1人にしないこと」と注意喚起していました。

中国 各地で「1人にしない」条例制定

2023年12月まで北京に駐在していた白山泉記者のリポートです。

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小学校前に孫を迎えに来た祖父母ら。中国では祖父母を頼るケースが多いという=北京で

共働きで祖父母が関わるケースが多い

 中国も共働きは多く、子ども中心の働き方ができない人も多いです。こうした場合、祖父母と一緒に住んだり、近くに住んだりして、面倒をみてもらっているケースが多いようです。下校時間帯になると、祖父母が電動バイクで学校の前に集まって、乗せて帰る光景をよく見ました。

 一方で訴訟になったケースもありました。感情のもつれからだとは思いますが、5年半にわたり孫の面倒をみるために必要だった経費19万2000元(約400万円)を娘夫婦に求めた民事訴訟です。審理では、「両親には子どもを育て、教育し、守る権利と義務があり、その能力を兼ね備えている。祖母に孫を面倒見る法的な義務はない」と指摘し、最終的に170万円程度の支払いを命じました。いかに祖父母が孫育てに貢献しているかが伝わってくるようです。

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下校を待つ祖父母らの前に、さすまたを持った警備員の姿も

 学童のような有料の民間サービスもあります。学校の近くにある施設へ車や徒歩などでの送迎もあり、仕事を終えた親が迎えに行くというシステムのようです。

 大人の目が離れているときに起きる事故が全国的に注目されていて、首掛けストラップで首が絞まって窒息死した例などが2015年ごろから地方メディアで取り上げられています。南京市では2015年に6歳以下の子どもを1人にしてはいけないという内容の条例が施行されるなど、2018年ごろにかけてさまざまな地方都市で未成年者の保護条例が制定されているようです。

 こうした流れを受けて、2020年に中国未成年保護法が改正され、未成年の子どもを持つ父母または見守りをする人は、8歳(小学3年生)未満の子どもを目を離した状態で1人にしてはいけないこと、16歳未満の未成年が1人で生活を営んではいけないことなどが新たに加わりました。最近でも高い建物から5歳の子が落ちて亡くなった事故がニュースで伝えられ、引き続き関心が高いテーマです。

埼玉「留守番禁止」条例

祖父母らの迎えで帰路につく小学生

韓国 公的支援が不足…日本に似ている

ソウルに駐在中の上野実輝彦記者のリポートです。

やむを得ず「子どもだけで留守番」も

 登下校は、校門や学校周辺の横断歩道で、学校や自治体教育庁が採用した見守り担当職員(警察OBなど)が見守るようです。あくまで学校周辺のみなので、日本とあまり変わらないかもしれません。

 放課後の過ごし方で、共働き世帯に多いのは、「親が迎えに行くまで習い事を転々とする」ケースのようです。塾や習い事が運営するバスでの送迎付きです。塾などが徒歩圏内にある場合は、高学年であれば友人同士で集まって歩いて回ることもあります。こうした過ごし方は高所得層に多いです。

 最近では、塾に通わせすぎることへの社会的な批判が高まっており、ベビーシッターに見守りを託す動きもあるそうです。公的な支援は整っておらず、全て私費。いわゆるお手伝いさんとして常駐してもらい、給与は月額300万~400万ウォン(日本円で30万~40万円)だそうで、いずれにせよ相応の所得がないとできないことです。

 学童のような学校での放課後預かり制度もあり、17時ごろまでは預かってもらえますが、その後は祖父母らに面倒をみてもらうか、やむを得ず子どもだけでの留守番というケースも少なくないようです。子どもだけで留守番させるリスクは「不審者に襲われかねない」「子ども同士で悪さをする」「不健全なネットの使い方をする」などさまざま考えられますが、承知の上で仕方なくそうせざるを得ないようです。

 これらの事情を教えてくれた支局スタッフの言葉を紹介します。「子どもだけで留守番させたいわけがない。社会が助けてくれないから仕方なく子どもを留守番させて働いている。日本と同じように、社会の発展やマンション暮らしの増加にともなって昔はあった地域とつながる意識が失われている。地域の人々の生活水準が同じくらいだった時代は、助け合って子育てしていたけれど、価値観が多様化し、生活様式も異なる現代では、地域で子どもを育てることは理想論になっている

 埼玉県議会の虐待禁止条例改正案は撤回されましたが、撤回の経緯を説明した自民党の田村琢実団長は、改正案の中身について「瑕疵(かし)がなかったと思う」「私どもが考えていた方向性ではないところに世論が動いてしまったところがある」と話しており、今後も何かしらの動きがあるかもしれません。保護者だけに責任を押しつけることなく、子どもの安全を守る社会をつくるためにはどんな視点が必要なのか、考える取材を続けていきます。

 

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  • あああ says:

    フランスの事例はいわゆる時短を取りやすい社会ということだと思いますが、そのフランスでも仕事を切り上げて対応しているのは女性が8割、男性が2割という記事もありました。
    https://madamefigaro.jp/society-business/220118-morgane-miel-viviane-chocas.html

    シッターの利用についても費用面の負担は軽くないでしょう。

    中国や韓国の事例については、高額のシッターを利用するか、無償で祖父母にお願いするかという状況とあります。その祖父母も呼び寄せているのではないでしょうか?

    東京に住む私の身の回りでも、祖父母が身近にいて頼れる方はわずかです。地域の中に子ども達を見守る公的なサービスは足りていません。

    この記事で紹介されている3カ国の様子を見てもそこは変わらないと感じます。海外に「正解」を求めるのではなく、子育てする私達を見つめる目が必要ではないでしょうか?

    あああ 男性 40代

日本と各国の違いについて、あなたはどう思いますか? 海外でのエピソードをお持ちの方も、ぜひお聞かせください。

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