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〈アディショナルタイム〉駅伝×料理男子 小説「タスキメシ」で食育を考える

谷野哲郎  
 食育という言葉をよく聞くようになった。だが、あらためて意味を問われると、きちんと説明できる人は少ないかもしれない。気になる人はこの『タスキメシ』(額賀澪著、小学館)を読むと良い。「駅伝×料理男子」のキャッチコピーが似合う食育本だ。

 高校3年生の眞家早馬(まいえ・そうま)は優れた駅伝走者だったが、膝を骨折し、走ることをやめようかどうか迷っている。そんな中、同じ陸上部の弟・春馬の偏食を直すため、同級生で料理研究部の井坂都(いさか・みやこ)に料理を習い始める。

 困るのは、出てくる料理すべてがおいしそうなこと。アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め、豆乳麺、肉いっぱい甘口カレー、カブと手羽元の煮物など。読むと、おなかが鳴る。丁寧に調理すること、誰かと一緒に食べることの大切さを再確認させられた。

 春馬のために始めた料理だが、早馬は調理をしながら、弟、友人、そして自分と向き合っていく。自分より優秀な弟への複雑な感情、伸びないタイム、けがとの戦い。悩み抜いた末に早馬が出した「諦めないこと」と「諦めること」がうれし悲しい。ラスト約20ページは何度読んでも涙が出てしまう。

 内閣府によると、食育とは「さまざまな経験を通じて、食に関する知識とバランスの良い食を選択する力を身に付け、健全な食生活を実践できる力を育むこと」とある。目指すのは「心もおなかも満たされる料理」なのだろうが、一人で食べる孤食、好き嫌いの偏食、食事を抜く欠食と課題は多い。

 本書は読者感想文全国コンクールの高校生向けの課題図書(2016年度)だが、中学生から読めるはず。物語の終盤、早馬が走りながら自分に言い聞かせるシーンが心に残る。「自分は腹が減っている。そして今、食べるのを楽しみにしている。よし、大丈夫だ。ご飯が楽しみなら、俺は大丈夫だ」。食べることは生きること。テーマがしっかりと根を張った良書である。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半に設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。