答えてもらえなかった質問 助産師・神谷整子さんへのインタビューで

(2023年11月3日付 東京新聞朝刊)

自宅や助産院で出産する女性を支えてきた助産師の神谷整子さん=東京都北区で

 「いつも必ず聞かれるのよ、その質問。でも、私は本当に答えたくないって思う」

 東京都北区の「みづき助産院」で、長年にわたり助産院や自宅で出産する女性を支えてきた助産師・神谷整子さん(72)にインタビューした時のことです。「今まで、何人くらいの赤ちゃんを取り上げてきたのですか?」という私の質問に、神谷さんはキリッとしたまなざしを少し険しくして、こう返しました。

 視線でその意味を問うと、「助産院や自宅での出産では、10カ月間、その人にずっと付き添って1人なんです。病院の分娩(ぶんべん)室で1日5人、6人と取り上げる出産と同じ数で数えられますか?」と言葉を継いでくれました。「妊娠から付き合って、出産後も1年ほど付き合います。全責任を持って、その妊婦さんを見てきました」。強い口調からは、1人の女性のお産と産後を丸ごと支えてきたのだ、という誇りを感じました。

 インタビューの掲載後、社内の先輩(53)から「神谷さんは長男を取り上げてくれた方です」と連絡がありました。話を聞くと、第1子の長女を病院で出産した際は、決められた時間に授乳室に行き、授乳前後に毎回、赤ちゃんを体重計に乗せて計測。「△グラム増えた」と、周りのお母さんと競うように一喜一憂するのがつらかったとのこと。第2子は自宅出産を選択。産後1週間、毎日自宅に通ってくれた神谷さんに、母乳のケアや、洗面台で沐浴(もくよく)をするなど自宅環境をうまく利用して赤ちゃんを育てる方法を教わったそうです。

 「こまやかなサポートで、1人目のようなつらいお産ではなかった。感謝しています」と約14年前の出産の鮮やかな記憶を幸せそうに語る先輩の姿に、「同じ数で数えるの?」という神谷さんの問いをまた思い返しています。

 助産師・神谷整子さんのインタビュー【母の姿を見て温めた自立への思い 「1%の風景」を支えて】は、こちらから読めます。

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