公共トイレ、みんなが気持ちよく使うには? 全国の小中学生らがプロの清掃員に学び、映画「PERFECT DAYS」を見て考えた

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清掃員の江田雄司さん(右)からトイレ清掃のこつを学ぶこども記者たち

 映画鑑賞を軸に子どもたちがその世界を体験して学ぶ「TOHO CINEMAS BOAT」が2024年2月24日、東京都渋谷区の恵比寿公園トイレとその周辺で開かれました。トイレ清掃員が主役の映画「PERFECT DAYS」の関連イベント。北海道、東北、首都圏、中国地方、九州から小中学生11人が参加し、プロの清掃員に清掃のこつを学んだり、映画製作者に取材したりして壁新聞にまとめました。

PERFECT DAYS

 建築家らが渋谷区内17カ所の公共トイレを改修したアートプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環として製作された映画。監督は「ベルリン・天使の詩」などで知られるヴィム・ヴェンダース氏。主役の清掃員を役所広司さんが演じ、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。

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映画「PERFECT DAYS」より

TOHO CINEMAS BOAT

 東宝グループが立ち上げた、子どもたちの映画体験による「思考形成」プログラム。子どもたち、学校、自治体と映画製作者らが連携し、みんなで映画をみて、その舞台設定を体験し、話し合うことで考える力を育成する。BOAT(舟)には映画館にとどまらず、学校や地域にこぎ出していくという意味を込めた。

鏡は毎日掃除を 手ごわい水あか

 参加したこども記者はまず、同公園のトイレ清掃などを手がける東京サニテイション(東京都中野区)のスタッフにトイレで汚れやすいところ、設備の素材や汚れの種類にあった洗剤や落とし方などを学びました。子どもたちは、洗面、便器、床などの汚れやすいポイントをチェック。清掃員が実際に汚れを落とすのを間近で見学しました。

 一番重要なのは鏡の水あかや洗面台の汚れだそうです。同社専務の渡辺晴彦さんは、利用したホテルなどでもついついチェックしちゃうとのこと。水あかはほうっておくとでこぼこになり、そこにほこりや汚れがたまります。

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渡辺晴彦さんの説明を聞くこども記者たち

 渡辺さんは「水にはガラス成分やカルシウムが含まれています。水が蒸発するとそれらの部分が残り、白くうろこ汚れになります。ガラス成分なのですごく硬くなる。落としにくくなるので、まず鏡は毎日清掃することが大切です」と解説しました。

 拭き方にもポイントがあり、丸く拭くのが定石。横に拭かないのは、すみにごみが残ってしまうからだそうです。さらに汚れのもととなる水分を残さないため、目の細かい布で拭き取ります。

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洗面台の汚れをチェック

 参加者の一人が実際に清掃済みの洗面台と水あかが残る洗面台を触って比べました。水あかが残っていると「ざらざらする」。新しい発見でした。

陶器には中性洗剤 消毒は塩素系

 そのほか、鏡の上、洗面台の裏側や大便器のふちなど、上からは見えないところも重要な清掃ポイントです。

 大便器や洗面器など陶器製の部分は素材を傷つけないように中性洗剤を使います。壁などとの隙間を埋めるために使われる充填材、コーキングのシリコンも黒くかびやすく、注意が必要です。渡辺さんは「カビは植物。柔らかい部分に根っ子を生やしていて、黒くなってしまう」と説明しました。

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ブラシについた尿石を見る

 便座を外すと赤い汚れが見えるところがあります。それは赤カビです。またノロウイルスなど細菌がいる可能性が高い洗浄ノズルは塩素系の洗剤で掃除します。消毒を兼ねているからです。

 男子トイレでは、小便器をブラシで掃除した後に残った黄色い尿石を見ました。プロは掃除する場所によって道具を使い分けています。

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江田雄司さん(右)の話を聞くこども記者たち

 清掃を担当した一人は、江田(こうだ)雄司さんです。江田さんは役所さんが演じた役のモデルで、役所さんは2日ほど江田さんについて清掃を学んだそうです。

 こども記者は「なぜこの仕事を選んだんですか」と聞きました。江田さんは「面白くて楽しいからです」ときっぱり。清掃業務がいろいろある中でもトイレを選んだのは「どんなに偉い人でも、家や会社、学校で必ず利用するから。掃除しても汚れるのは現実だが、きれいな方が気持ちがいい」と説明しました。

映画鑑賞後に取材 脚本にも質問

 その後、こども記者は移動して映画「PERFECT DAYS」を鑑賞しました。その後は場所を移して取材会となりました。

 こども記者は2グループに分かれ、「どうしたらトイレをきれいに保てるか」について取材し、模造紙に壁新聞としてまとめました。公共トイレのあり方については、渡辺さんが引き続き、インタビューに答えました。

写真 取材するこども記者

 小学6年生の渡辺和生さん=埼玉県入間市=は「トイレを利用するときに気を付けてほしいことはありますか?」と質問しました。渡辺晴彦さんは「次の人のことを想像して使ってもらいたい」と話しました。「トイレは何回も清掃しても汚れてしまう。きれいのバトンをつないでいくのがすごく大事」と強調していました。

 映画製作者の高崎卓馬さん(共同脚本・株式会社電通グループ グロースオフィサー/クリエイティブディレクター)にも取材しました。子ども向けの映画ではありませんでしたが、こども記者たちは配役、登場人物の意義、脚本の中身と幅広い質問を投げかけました。

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取材に答える高崎卓馬さん

 小学6年生の寺岡真由莉さん=東京都港区=が「音楽はどう選んだんですか」と聞くと、高崎さんは「(主人公の)平山さんは若い頃に好きだった音楽をずっと聴き続けていると考えました。脚本を書きながら、その時代の曲の中から、この日の帰りはこの曲を聴いているんじゃないか、と選んでいった」と説明しました。

壁新聞の見出し「きれいのバトン」

 取材終了後、いよいよ壁新聞をまとめます。東京新聞の記者2人がアドバイス役を務めました。

 こども記者に与えられた時間は約1時間。両グループともに清掃体験のときの写真を選んだり、盛り込む内容や見出しを決めて、模造紙に書き込んでいました。文章を書く、イラストを描くなどそれぞれが得意なことを生かして、まとめていきました。

 ともにメイン見出しは、渡辺さんが言っていた「きれいのバトンをつなぐ」でした。発表では「そのバトンを落としてしまったとき、清掃する方がリセットしてくれるというのが分かった」との思いが語られました。

 最後に渡辺さん、高崎さんが講評しました。

 渡辺さんは「人の気持ちを考えましょう、とよく言われると思いますが、一番大事なのは、自分がどういうことをしてもらったらうれしいのか考えることだと思います。それがきれいなトイレだけではない、バトンをつなぐことになると思います」と話しました。

 高崎さんは「この映画は世界80カ国で公開されていて、いろんな国の記者に取材を受けました。その記者たちと比べて、みなさんの質問はキレがよかったです。時間が経つと、また変わった印象を持つと思うので大人になったらまた見てください」と呼びかけました。

 そして「映画を見たり人に話を聞いた後、今日の新聞づくりのようにその内容を誰かに伝えるための作業をすることは、自分が感じたことを再度、なんでそう思ったんだろうと考えるきっかけになる。そういうのを習慣にしてもらえるといいなと思う」と話しました。

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イベントに参加したこども記者たち=東京都渋谷区で

 

主催:TOHOシネマズ/東宝
協力:THE TOKYO TOILET/映画『PERFECT DAYS』
   東京新聞(東京すくすく)/朝日小学生新聞/北海道新聞/ 河北新報/中国新聞/西日本新聞

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