憲法で一番大切な条文は? 「子どもの生き方」とも深く関係します〈子どもと学ぶ日本国憲法②〉伊藤真弁護士に聞く

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「日本国憲法の中で一番大切な条文は何だと思いますか?」と問いかける弁護士の伊藤真さん(右)。左は聞き手の今川綾音・東京すくすく編集長=いずれも東京都渋谷区で、木戸佑撮影

 小学校でも習う「日本国憲法」。でも、実は子どもも大人も憲法のことをよく知らないのでは―。5月3日の憲法記念日、そして5月5日のこどもの日を前に、憲法に詳しい弁護士・伊藤真さん(65)に、小学校高学年くらいの子どもにも分かるように「日本国憲法」についての解説をお願いしました。2回目の今回は、伊藤さんが「日本国憲法の中で一番大切だ」と考える条文について聞き、憲法に「子どもの生き方」を重ねて考えます。

〈子どもと学ぶ日本国憲法〉
憲法と法律の違いって? 「誰が何のために守るルールか」が異なります
②憲法で一番大切な条文は? 「子どもの生き方」とも深く関係します(このページ)
平和をうたう9条 世界の現実とのズレをどう受け止めればいいの?

13条「国民は、個人として尊重される」

―前文と103条の条文からできている日本国憲法。子どもたちに注目してほしい条文はありますか?

みなさん、日本国憲法の中で一番大切な条文は何だと思いますか?

憲法第13条の前半に、「すべて国民は、個人として尊重される」という大切な条文があります。私はこれが日本国憲法の中で、一番大切な条文だと思っています。

日本国憲法 第13条
すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

子ども一人一人もありのままの存在を認められ、隣の子のことも同じように認められる―。そういう考え方です。

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ここで「すべて国民は」と書かれていますが、この「国民」は日本人だけではありません。「日本で生活するすべての人々は」という意味です。日本の国籍を持った人に限らず、日本で生活する外国人の子どもたちを含めて、すべての人は個人として尊重されるという条文です。

子どもは親の思うとおりにはなりません

―今、子どもたちから「自分が大切にされていない」という声が、私たちのサイト「東京すくすく」にも届きます。自分の思いに寄り添ってもらえず、家や教室で「△△しなさい」「これは△△なんだ」と親や先生、場合によっては友達から押しつけられる、と訴える子もいます。そんな思いをしている子にとって、「個人として尊重される」という考え方は力になるように思います。13条は具体的にどういうことを言っているのでしょうか?

二つのことを言っています。一つは、「一人一人の個性を尊重することの大切さ」です。外見も心の中も、人はそれぞれ違います。それを「みんな違っていいし、違うことが素晴らしい」ととらえ、自分とは違う他者とどう共存していくかを考えていこう、と。周りの友達と同じである必要は全くないし、同じような考えである必要もない。姿形も含めて、みんな違って当たり前どころか、 むしろみんなと違うことは素晴らしい、と言っています。

親と子も別の人間なので、子どもは親の思うとおりにはなりません。子どもは親に保護してもらう客体(対象)ではなく、子ども自身が生きる主体です。親子なのだから当然分かり合えるはずだということを前提にしてしまうと、親は「どうして私の子なのに分かってくれないの?」、子どもは「どうしてお母さん・お父さんは私のことを分かってくれないの?」と苦しむことがあります。

「親子や友達であっても、違うのが当たり前。分かり合えないことが当然」。そこをスタートにして話し合ってみると、もっと人間関係が面白くなるし、楽になります。

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せんせいだって、おとうさんだって、「これが、きみのしあわせだよ」なんて、きめることはできない。ー伊藤真さんの著書「けんぽうのえほん あなたこそたからもの」(大月書店)より

もう一つは、「一人一人の尊厳を尊重することの大切さ」です。自分以外の人にも、自分と同じように価値があると考えて大事にしよう、ということ。人は何かの役に立つから価値があるのではなく、存在するだけで価値がある。

豊かな人も貧しい人も、健康な人もハンディキャップを負っている人も、人種も宗教も性別も一切関係なく、人間として生まれた以上はかけがえのない価値がある。「尊厳を尊重する」というのは、人を何かの道具にしない、何かの目的のための手段にしない、そして、取り換えることができるような道具として扱わないということです。

社会に貢献しているから、会社の役に立っているから価値があるんだと考えてしまいがちですが、そうじゃない。命を持ってそこに存在するだけで、奇跡的な素晴らしいことなんです。生まれてこなくてもよかった子どもなんて一人もいません。

福祉、教育、人権…多様な「ものさし」

―そう思えるようになるためには、どうしたらよいのでしょうか? 能力や立場、持っているもので人の価値を判断する傾向や、その人自身が「自分には価値がないんだ」と考えてしまうような社会の状況が、いま非常に強くなっているように感じます。

世の中の価値を測るものさしが単純化されてしまっています。お金が稼げる・便利だ、といった効率性だけではなく、一人一人の「生きやすさ」につながるような福祉や教育、人権といった多様なものさしを持ってください。

早く移動できる新幹線は素晴らしい。でも、各駅停車に乗って、ゆっくり周りの景色を楽しみながらする旅もいいものです。一見むだに見えるようなものにも、実は価値があるんじゃないかと考えるものさしです。

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日本国憲法について説明する弁護士の伊藤真さん(右)。左は聞き手の今川綾音・東京すくすく編集長=東京都渋谷区で、木戸佑撮影

例えば、駅などにスロープをつくることがあります。そのスロープが必要な人は、全人口の中ではわずかな割合です。経済的には非効率かもしれないが、一人一人を大切にする「違って当たり前」という視点から考えると、そこにスロープをつくることに価値がある。福祉という観点で意味があるんです。

地震で被災したり、病気になったり。今、多数派・強い側にいたとしても、いつ少数派・弱い側に回るか分かりません。「おたがいさま」「いつか自分も同じ立場になるかもしれない」と考え、少数派・弱い側にいる人への共感や想像力を高めてほしいと思います。

世界の各地でいろいろな紛争、戦争が起こっています。そのことに思いを寄せながら、今の自分の状態に感謝するとともに、つらい状況にある人たちに対しての想像力や共感力を忘れないようにすることは、とても大切です。

―自分と違う誰かを尊重することは、自分が尊重されることと裏返しの関係なのですね。

5月3日公開予定の〈子どもと学ぶ日本国憲法③〉では、「13条の考え方は世界の平和とつながっている」と話す伊藤さんと、日本国憲法の大きな特徴でもある「平和主義」について考えます。

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伊藤真(いとう・まこと)

1958年生まれ。弁護士。法律資格の受験指導校「伊藤塾」塾長。法学館憲法研究所所長。講演・執筆活動を通して日本国憲法の理念を伝える。憲法についての主な著書に「憲法の力」「けんぽうのえほん あなたこそたからもの」など。

〈子どもと学ぶ日本国憲法〉
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  • みーちゃん says:

    5月3日
    日本憲法を、あらためて、認識した。
    子供や、孫との関係を、自分の接し方を考える事を、考える事、大切にしたい。
    今日、この記事を読んで、もっと勉強したい。

    みーちゃん 女性 70代以上

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