家族の世話に追われる子ども「ヤングケアラー」に相談窓口や学習支援を 国が報告書

佐藤あい子 (2021年5月18日付 東京新聞朝刊)
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2歳の妹の世話をする小学2年生の沖侑香里さん(左)。妹がかわいくて仕方なかった=1999年、沖さん提供

 きょうだいや家族の世話をする18歳未満の子ども「ヤングケアラー」の支援策を検討した厚生労働省と文部科学省は17日、相談体制の充実や学習支援の促進などを打ち出した報告書をまとめた。国の調査では中学生の17人に1人がヤングケアラーで、誰にも相談できず、社会的に孤立するケースも多い。同じような経験のある人から「今後につながる大きな一歩だ」と評価の声が上がった。

ヤングケアラーとは

 「YOUNG(若い)」と「CARER(世話する人)」を組み合わせた英国発祥の言葉。日本ケアラー連盟によると、大人が担うような責任を引き受け、病気や障害などケアが必要な家族の世話や家事をする18歳未満の子どもを指す。幼いきょうだいの世話や日本語が話せない家族の通訳、アルコール問題を抱える家族の対応など負担は多岐にわたり、子ども自身の権利が守られない状態が懸念されている。1980年代に研究が始まった英国では支援に向けた法整備が進み、2015年にはオーストラリアでも、政府が支援やケアに役立つ情報を発信するウェブサイトを開設している。

難病の妹を介護 不安を抱え込み…

 「ヤングケアラーの気持ちを丁寧にくみ取る支援を」。病気や障害のあるきょうだいのいる人の自助グループ「静岡きょうだい会」(静岡県富士市)を運営する沖侑香里(ゆかり)さん(30)は、報告書に期待を寄せた。

 沖さんは小学生の時から5歳下の難病の妹の面倒をみてきた。食事の世話に入浴の介助。楽しみだったキャンプに家族で出かけ、妹の具合が悪くなって途中で引き返したこともある。

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「同じような境遇の人たちと気持ちを共有して軽くなってほしい」と話す沖さん=神奈川県茅ケ崎市で

 妹も母も必死。誰が悪いわけでもない。だから「私が頑張らないと」と思った。先の見えない介護を思うと、不安に押しつぶされそうになることもあったが、「親を困らせたくない」と気丈に振る舞った。友達に思いを聞いてほしくても、妹に障害があることを話すと「空気が凍ることが多かった」。結局、心の中に抱え込むしかなかった。

「助けを求める発想すらなかった」

 心に閉じ込めた感情と向き合えるようになったのは、大学生の時、同じような境遇の人と経験を分かち合う会に参加してからだ。妹は2017年に亡くなった。ヤングケアラーの定義は18歳未満だが、介護はその後も続いた。沖さんは「長期的な支援も必要。教育や就職など、介護でできなかったことを支援し、社会に出て行けるサポートを」と訴える。

 北海道の専門学校生(20)は子どもの頃から、母親が精神疾患だった。薬物や酒に依存し、自傷行為を繰り帰す母親に寄り添い「つらいんだね」と声をかける一方、10歳以上離れた2人の妹のケアをした。「それが日常。誰かに助けを求めるという発想すらなかった」。孤立から抜け出せたのは、定時制高校の先生とソーシャルワーカーが声をかけ続けてくれたから。相談できる相手がいることの大切さを実感している。

家族を孤立させず、支え合う土壌を

 ヤングケアラーを支えてきた、兵庫県尼崎市のスクールソーシャルワーカー黒光(くろみつ)さおりさんは「世話の対象となる親自身が自分を責め、他人に弱さを見せまいと支援を拒否するケースが多い。家族を孤立させず、地域で支え合う土壌づくりが必要」と指摘。報告書に盛られた教育機関の研修の推進に「ケアラーを早くみつけるためにも学校現場での研修は急務」と話す。

 北海道釧路市で、生きづらさを感じる子どもと親の生活を支援する日置真世さんは「ケアされるべき時期にケアを担った子どもに、福祉サービスや教育の機会の保障を」と訴える。

ヤングケアラー支援報告書に盛り込まれた施策

  • 福祉や教育機関関係者などのヤングケアラーに関する研修の推進
  • 悩み相談を行う地方自治体の事業支援を検討
  • 多機関連携による支援のモデル事業
  • 民間を活用した学習支援事業の促進
  • 幼いきょうだいをケアする子どもがいる家庭に対する支援のあり方を検討
  • ヤングケアラーの認知度向上を図る

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年5月18日

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