埼玉県が医療的ケア児の支援を強化 2種類のセンターを開設 支援員の育成や相談業務を充実

浅野有紀 ( 2023年3月29日付 東京新聞朝刊)
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深夜に及ぶこともある栄養剤注入=朝霞市で(岩沢さん提供)

 埼玉県は今年1月、恒常的な医療的ケアを必要とする子ども(医療的ケア児=医ケア児)の増加を受け、2種類の支援センターを新たに設置した。さいたま市の新都心地区に置く県直営施設では支援に関わるすべての人の技量向上を目指し研修などを実施。各地域に置く施設では家族の相談や市町村支援を行い、1カ所目を川越市内に開設した。

支援法が定める「自治体の責務」

 医ケア児は、新生児集中治療室(NICU)等に長期入院し、その後もたんの吸引や胃ろうによる経管栄養などのケアが必要な子どものこと。2021年に施行された支援法では、18歳未満と高校生の子どもを指す。医療の発展で家庭で暮らす医ケア児は年々増え、県内では18歳未満が702人(昨年4月)、全国では2万人程度とされる。

 埼玉県の2つのセンターは、支援法が自治体の責務を定めたのに従い設立。役割に沿って直営の県センターと委託運営の地域センターに分けたのが埼玉の特徴で、新年度予算に運営費約3400万円を計上した。

直営の県センターで職員を育成

 県センターは、市町村などで支援を担うコーディネーターや学校、放課後等デイサービスなどの職員向け研修、機関間調整などを担う。県の計画ではコーディネーターは各市町村に置くとされるが、昨年3月段階で41市町・95人にとどまっている。医療知識と調整能力が必要で、対象児童が少ない地域で経験を積むことは難しく、県センターでの育成を目指す。

 地域センターは、家族の相談窓口として、民間の医療型障害児入所施設内に「かけはし」として設置。社会福祉士や看護師らが県内全域からの相談に応じる。新年度中に増設を目指す。

9歳の娘育てるシングルマザー 支援員の質向上に期待

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「知識豊富な支援員が増えてほしい」と語る岩沢さん=朝霞市で

福祉サービスを調べる余裕もなく

 朝霞市で医ケア児の長女(9つ)を育てるシングルマザーの岩沢茉利奈さん(34)は、適切な支援が受けられなかった経験から「子どもの支援情報を集約する存在であってほしい」と関係職員のスキルアップに期待する。

 現在小学4年生の長女は、妊娠8カ月で生まれ、肺機能が未熟なため1年間NICUに入院。現在は1日4回、胃ろうで栄養剤を注入するケアが必要だ。

 岩沢さんは、出産直後を「生きて帰れるか不安な中、福祉サービスを調べる余裕はなかった」と振り返る。退院支援に当たった訪問看護師からサービスの存在を聞いたのは、退院後3年たったころだった。

経験豊富な支援員と出会って一変

 4歳から民間施設に通い、初めて担当支援員がついたが、不安は解消されなかった。長女の支援計画は発達に応じて逐次作られるが、聞き取り調査の内容が反映されず、新たな計画書は前回の丸写し。学齢に達し、特別支援学校に入学して放課後等デイサービスを利用したいと相談すると、近隣自治体にある施設の一覧表を渡された。長女の健康状態で受け入れ可能か、個々の施設に問い合わせて見学する必要があったが、仕事と長女のケアで下調べもできず、利用も諦めた。

 翌年、別の施設に移り、状況は一変。新たな担当支援員に再び相談すると、長女が利用できる放課後デイ施設を複数挙げ、見学調整や他施設の下調べを買って出てくれた。この支援員は医ケア児コーディネーターの研修を受講済みだったといい、岩沢さんは「こんなに知識豊富な人もいるんだ」と驚いたという。

 岩沢さんは「NICUの退院時に支援員が入り、子どもの健康状態に応じた支援が始まるのが理想」と話し、県センターの開設が支援員のスキルアップにつながることを期待する。

赤字運営…報酬体系見直しも必要

 関係者によると、大人の障害者の支援に当たる職員などが医ケア児のサポートを兼務することもある。医ケア児の支援に詳しいNPO法人「地域ケアさぽーと研究所」(東京)の下川和洋理事によると「豊富な知識を要する医療的ケア児の支援に苦手意識を持つ人は多い」が、研修により支援員の質の向上は期待できるとする。

 相談支援事業は赤字運営が多いといい、支援員が多くを兼務しなくてよい報酬体系の見直しが必要だと指摘。「自治体が医ケア児支援の必要性を把握し、専門知識のあるコーディネーターを生かした支援体制づくりの要になっていくべきだ」と話した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月29日

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