医学部の不正入試「女性排除は男性の命も削る」過労自殺医師の遺族が警告

文:柏崎智子、原尚子、写真:河口貞史 (2018年8月22日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 医学部入試で女子受験生の点数を一律に低くし、合格しにくくしていた東京医科大の問題では、出産や子育てで働けない時期のある女性医師を敬遠する医療界の差別的な体質が浮かび上がった。「女性の排除は、働き方改革を妨げ、男性の命にもかかわる」。19年前に小児科医の夫を過労自殺で亡くし、現在は講演活動などに取り組む中原のり子さん(62)=東京都中央区=は警告する。

勤務医として働いていた中原利郎さん

「100%」で働けない女性医師に「辞めてほしい」

 中原さんの夫、利郎さんは1999年8月、勤務する都内の病院の屋上から飛び降りた。44歳だった。遺書には、人手不足のため30時間以上連続勤務となる当直を月に数回こなす疲労の蓄積や、女性医師が増える中で、結婚・出産の際に他の医師にかかる負担が放置されている状況への苦悩がつづられていた。

 6人の小児科常勤医のうち、男性は利郎さん1人だった。部長代理になった同年2月、前部長の60代の女性が定年退職。3月には50代で当直もこなしていた女性医師が、両親の介護と両立できず病院を去った。

 追い打ちを掛けたのは、半年の育児休業から戻る予定だった若い女性医師の退職だった。乳飲み子がいるのに、病院から「月4回以上の当直をこなせない医者は辞めてほしい」と迫られ、退職せざるを得なくなった。現在、都内で開業するこの医師は「100パーセントを要求されなければ働き続けたかった。辞めて10数年はパートしかできなかった」と振り返る。

女性が働き続けられない職場では、男性は馬車馬

 利郎さんはこの医師が子育てと両立できるよう当直を2回にする提案書を書いたが、病院へ出せなかった。中原さんは「そんな雰囲気ではなかったのでしょう。日中だけでも働いてもらえたら、もう少し楽だったはず」と思いやる。

 6人から3人となり、利郎さんの当直は月8回に。心身の状態が悪化し8月、「仕事を辞めたい」と家族に漏らした。「退職を病院へ伝える」と約束し出勤した10時間後、身を投げた。

 中原さんは「女性医師が働き続けられない職場では、男性医師も馬車馬のように働かされている。入試で女子受験生を排除したのは、医師の働かせ方を変える気がない証拠」と話す。

「女性を排除する職場は危険」と訴える中原のり子さん=東京都千代田区で

「女医は迷惑を掛けるから、3倍働け」という暴言

 さらに「東京医科大だけの問題ではない」と指摘。利郎さんの死後、医師になった長女の智子さん(36)は「女医は妊娠・出産で迷惑をかけるから、3倍働け」という暴言にさらされた。のり子さんも「東京過労死を考える家族の会」共同代表として各地で講演する中で、女性医師の悲鳴のような声を聞く。埼玉県のある30代の小児科医は「人の子どもの命を預かるが、私は子どもを持つどころか結婚さえ許されない労働環境」と打ち明けた。

 のり子さんは訴える。

 「入試不正の問題が明らかになったのを機に、男性も女性も使い倒す働かせ方を本当に改善してほしい。それが夫の願ったことです」

あきらめ? 医師アンケート「減点に理解」65%

 東京医科大が入試で女子受験生を一律減点していた問題で、医師の人材紹介会社「エムステージ」(東京都品川区)が医師を対象にアンケートをしたところ、65%が一定の理解を示した。ただ、周囲に負担をかけているために仕方がないとのあきらめの声もあり、同社は「医療業界には根本的な働き方改革が必要だ」と分析している。

 調査は、問題発覚後の今月3日から6日までインターネット上で実施し、男女103人が回答。一律減点に「理解できる」が18.4%、「ある程度は理解できる」が46.6%で、「あまり理解できない」は3.9%、「理解できない」は31.1%だった。

 アンケートの自由記述では、得点操作に理解を示した人が「男性医師が深夜まで働いたり当直の肩代わりをするなど、現実の負担増を考えると必要悪として気持ちは分かる」(放射線治療男性)「家事育児をするために仕事を調整しているので大きなことは言えない」(小児科女性)といった理由を挙げており、男性や未婚女性医師に負担が集中する現実と、それに対する遠慮から女性医師自身がやむを得ないと感じている状況が明らかになった。

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