教員の残業代訴訟、請求棄却も裁判長が指摘「もはや教育現場の実情に合っていない」 さいたま地裁判決

杉原雄介、寺本康弘、小松田健一 (2021年10月2日付 東京新聞朝刊)
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判決後に記者会見する原告弁護団 =1日午後、東京都千代田区で

 埼玉県内の公立小学校で時間外労働をしたのに、労働基準法が定める残業代が支払われないのは違法だとして、男性教諭(62)が県に242万円の支払いを求めた訴訟で、さいたま地裁は1日、請求を棄却した。石垣陽介裁判長は主文の言い渡し後、現在の教育現場について「多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況」と指摘。公立学校の教員に時間外勤務手当を支給しないと定めた教職員給与特別措置法(給特法)は「もはや教育現場の実情に適合していない」と述べた。

1971年制定の給特法 4項目以外認めず

 1971年制定の給特法は、公立学校の教員には校外実習と学校行事、職員会議、災害対応の「超勤4項目」以外の時間外労働は命じられないと規定。基本給に一律4%を上乗せする代わりに、時間外勤務手当は支給しないとしている。

 教諭は、2017年9月~2018年7月に月平均60時間の時間外労働をし、大半は超勤四項目以外だったと主張。労基法上の労働に当たるとし、残業代を求めて2018年9月に提訴した。

 判決は、教諭の時間外労働を認定したが、給特法により、労基法に基づく残業代の請求権は認められないと指摘。残業時間は社会通念上の限度を超えるほどではなく、国賠法に基づく損害賠償請求の対象にもならないと判断した。

「問題提起には意義。勤務環境の改善を」

 一方、校長らが労基法違反の状態を認識しながら長時間勤務を続けさせたりした場合は、国賠法に基づく損害賠償責任を負うとの見解を示し、「原告の問題提起には意義がある。勤務時間の管理システムの整備や給特法を含めた給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善を切に望む」と付言した。

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判決後に記者会見する原告男性(右)=1日午後、東京都千代田区で

 判決後、東京都内での記者会見で、弁護団は損害賠償が認められる可能性を明確に示したとして「画期的な判決」と評価。教諭は「無賃残業の状態を国が認めてはいけない」と控訴する意向を示した。

 埼玉県教育局は「主張が認められたと考えている」とコメント。文部科学省の担当者は「訴訟の当事者ではないのでコメントは差し控える」とした上で「教員の業務が、給特法制定当時は想定しなかった高度化や細分化が進んだ実態は直視する必要がある」とした。

原告の男性教諭は失望「1日3時間の無賃労働が当たり前なのはおかしい」

 教員の多忙化が問題となる中、公立小学校の教員の時間外勤務に残業代が支払われるべきか争われた裁判。さいたま地裁で1日、訴えを退けられた原告の男性教諭(62)は、判決後の記者会見で「ぼくたちは1日3時間も無賃労働している。それが当たり前に通用するのはおかしい」と怒りをあらわにした。

弁護団「評価できる点もある」 登校指導などは労働時間に認定

 近年の教員の業務について、男性教諭はタブレット端末の導入や英語の必修化、さらに新型コロナウイルス対応などで「増えるばかりで減ることは考えられない」と説明。司法に期待していただけに「明日からの希望が見えてきません」と失望を口にした。

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「教員に人間らしい働き方を」「画期的な判決」と書かれた旗を掲げる支援者たち=さいたま地裁で

 一方、さいたま地裁前では判決後、教員や大学生ら支援者が「教員に人間らしい働き方を」と書かれた紙を広げるなどして状況の改善を訴えた。男性教諭は「多くの人が教員の無賃残業を知るきっかけになった」と述べ、支援に感謝した。

 また、原告弁護団は、判決には評価できる点もあると指摘。公立学校の教員が残業代を求めたこれまでの裁判では、教員の時間外勤務は本人が自主的に行っているとみなされてきたという。今回の判決は、男性教諭が行っていた朝の登校指導などは労働時間に当たると認めており、「今後に生かせる裁判だ」とした。(寺本康弘)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年10月2日

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