杉並区の小2男子いじめ発覚から4年 母親が感じた「第三者委員会」の限界 区内で「重大事態」の調査9件が滞留

X(旧ツイッター)で杉並区の第三者委員会の問題点を指摘する悠真さん(仮名)の母(上段)
1日1日命をつなぐ思いの子どもがいる
「杉並区では、いじめ重大事態調査が9件滞留しており、未来を選ぶどころか1日1日命をつなぐ思いで過ごしている子どもがいます」
弁護士でもある悠真さんの母は今年に入り、X(旧ツイッター)で、わが子の苦境やいじめ対策の課題を積極的に発信するようになった。中でも繰り返し訴えてきたのが、多くの案件を抱える杉並区の第三者委の現状だ。
いじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」は、いじめによって児童の生命や心身などに重大な被害が生じた疑い、または不登校を余儀なくされた疑いがある場合に、学校や自治体が認定する。
認定後は、調査組織を設置し、事実関係を明らかにする調査の義務が生じる。
悠真さんは殴る蹴るなどの暴行を受けて不登校に追い込まれ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断も受けた。
要件を満たすのは明らかだったが、学校の初動対応が鈍く、児童への聞き取りが不十分だったことから事実確認が遅れ、発覚から1年たってようやく重大事態に認定された。

杉並区が作成する「区子どもの権利に関する条例」のパンフレット。いじめなどから守られる子どもの権利が紹介されている
複雑ないじめを調べる人が足りない
第三者委の調査が終われば、学校は調査結果に基づいて加害児童に指導できるようになり、学校の責任も明確になる。悠真さん家族の期待は高まったが、その後も解決に向けた動きは加速しなかった。
第三者委は2023年12月末、悠真さん家族に調査報告書の原案を示したが、一部の暴行が含まれていないなど不備が多く、母は調査再開を求める意見書を提出。そこからは何の進展もなく、いじめの発覚から間もなく4年になろうとしてる。
なぜ、第三者委は十分な調査を行えなかったのか。
悠真さんの母は「複雑な事態を調べるにはマンパワーが足りてない」と指摘する。
委員も複数の調査は「負担感じる」
杉並区の第三者委は弁護士や医療、心理の専門家などで構成され、定員は7人。2024年5月に弁護士2人が増員されたが、それまでは5人で調査を担っていた。追加の2人も含めて、いずれもフルタイムの仕事を持っており、悠真さんの母は「委員だけで調査をするのは無理があるのではないか」と懸念する。
区教委によると、現在調査中の重大事態は9件。少ない委員が多数の調査をこなす厳しい状況は、区議会でもたびたび取り上げられてきた。
2024年2月には、一般質問に立った区議が「委員は現役の立場で、第一線で活躍している。仮に重大事態が発生した際、集中的に多くの時間を捻出し、スピード感を持って調査できるのか」と指摘。
区教委は「複数の重大事態の調査と報告書作成を並行して行う現状で、委員から負担を感じているという声も出ている」と認めた。

杉並区教育委員会の第三者委員会が示した調査報告書の原案。学校の対応の遅れや不備に言及している
第三者委の下で調査を担う調査員を
日本弁護士連合会は、2018年に公表したいじめ重大事態の第三者委に関するガイドラインの中で、実際の活動事例を紹介している。延べ50人超の聞き取り調査が終わった後も、報告書の作成に100~500時間を要したという。
区教委は悠真さん家族の働きかけなどを受け、昨年4月から、第三者委の下で事前調査を担う専門調査員を委嘱したが、依然として一人一人にかかる負担は大きい。
母は、「今新たに重大事態が認定されると、調査が滞留したところからスタートすることになる。つらい思いをする子がこれ以上増えてほしくない」と話し、抜本的な体制強化を求めている。

ここからは、悠真さんのいじめが発覚してからの学校や区の対応を振り返る。2022年の春に受けたいじめが法律で定める「重大事態」に認定されながら、なぜ区の調査は完了しないのか。
小学6年生になった悠真さんはこの4年近く、先の見えない不登校の日々を過ごしている。

悠真さん(仮名)のランドセル。これを背負って学校に戻る見通しは立っていない(母親提供)
区が「一生懸命取り組んでないから」
「一生懸命取り組んでないから、こうなってるんでしょ。一生懸命取り組んでたら、(いじめは)3年間放置されないよ」。昨年11月。いじめ防止に関するパネル展が開かれていた杉並区役所ロビーで、悠真さんは居合わせた岸本聡子区長にこう苦境を訴えたという。
岸本区長からの「一生懸命、みんなで(いじめ対策に)取り組んでいくしかない」という言葉に対し、やり場のない思いが一気にあふれ出たのだった。
区が悠真さんの母に開示した資料などによると、いじめが始まったのは2年生だった2022年5月18日。クラスの男子グループが女子の腕を引っ張るのを見かけ、悠真さんが止めに入ったのがきっかけだった。男子6人は悠真さんの顔を殴る、体当たりをするなどの暴力を振るった。
その日の夕方。学童の迎えに来た母に、悠真さんは打ち明けた。「ぼく、6対1で殴られた」。翌朝、登校に付き添った父から前日の様子を聞いた校長は「対応します」と言ったが、その後の動きは鈍かった。
腹を殴られる、膝蹴りされる暴行
校長は加害児童6人を呼び出し、「女の子をいじめるのは良くない」などと諭したものの、悠真さんへの具体的な暴行内容を個々に聴き取ることはせず、悠真さんへの謝罪も本人たちに委ねたという。
悠真さんは5月24、25日にも腹を殴られる、股間近くの内ももを膝蹴りされるといった暴行を受け、25日夕には学童に迎えに来た母の顔を見るなり、叫んだ。「決めた! 不登校!」。母がすぐ学校に連絡すると、校長は意外そうに言った。「担任は『解決した』と言っています」

杉並区教育委員会事務局が入る杉並区役所
クラス全員に「謝罪の手紙」を書かせ
苦しむわが子をよそに、危機感のない学校。産休の担任に代わってクラスを受け持った教員が、暴行に関わっていない児童も含めてクラス全員に「謝罪の手紙」を書かせ、悠真さんの母に渡そうとするなど、早々に幕引きを図ろうとするような姿勢も目立った。
母の請求で区が開示した校内資料からは、配慮を欠いた場当たり的な対応も発覚した。学校が実施した教職員アンケートに、副校長は「悠真さんはこの日も教室後方入り口の廊下にある机の所に座り教室の様子をうかがっていました」と回答。いじめで教室に入れなくなった悠真さんの机は廊下に出されており、それを父母に伝えていなかった。
暴行から3カ月でやっと聞き取り
発生から1カ月後、ようやく校長が区教育委員会に書面で事案を報告し、事態が動き出す。悠真さんが不登校になり、弁護士である母がいじめ防止対策推進法を確認。校長に「いじめの定義に当たらないか」と指摘をしたからだった。校長はのちに区教委に対し、母に指摘されるまでいじめと認識していなかったと認め、「学級が落ち着かない状況による児童同士のトラブルだと思った」との趣旨を述べている。
最初の暴行から3カ月たった8月。区教委主導の調査で加害児童らの聞き取りが始まったが、子どもたちの記憶はすでに薄れ、事実確認は思うように進まなかった。

学校の対応や第三者委員会の調査の不備を指摘する悠真さん(仮名)の母(画像一部加工)
睡眠障害続き、今も登校できず
区教委は2023年5月、悠真さんの件が「児童の生命、身体、財産に重大な被害が生じた疑いがある」などの要件を満たしたとして、推進法に基づく「重大事態」に認定。外部専門家の第三者委員会が調査を始めた。
だが、第三者委の調査は学校側の不十分な聞き取りに依存する部分が多く、2023年12月末に示した報告書の原案は、一部の暴行やいじめに当たる暴言が抜け落ちるなど不備が目立った。その後、悠真さん家族には何の見通しも示されていない。
悠真さんは極度の食欲不振や睡眠障害などで心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受け、今も不登校が続く。悠真さんの母は言う。「学校が適切な対応を取っていれば、状況は全く違っていたかもしれない」。区教委は本紙の取材に、「個別事案については回答できない」としている。
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