コロナ禍の保育士賃金カット問題 国は「運営委託費で給与保障を」と言うけれど… 都内の保育園経営者が訴える実情「現場は混乱」
国基準より多く職員を配置 委託費だけではまかなえない
訴えを寄せてくれたのは、東京都北区などで認可保育園を運営する社会福祉法人「てつなぎの会」の臼坂弘子理事長。国からの保育園運営の委託費は、園児数に基づいて支払われる。国が定める保育士配置の最低基準は、0歳児は3人に1人、1歳児は6人に1人などと園児数に応じて定められている。
臼坂さんが理事長を務める北区の保育園に通う子どもは0~5歳児の74人(定員)。その人数の保育に最低限必要な保育士は14人だが、「国の基準通りでは十分に安全な保育ができない」と臼坂さん。夜間の延長保育や休日保育のほか、地域の子育て支援事業として在園児以外を預かる一時保育も実施しており、国基準より常勤・非常勤合わせて20人以上多く職員を雇って運営している。
そのため、2019年度のこの園の収支報告書では、国や自治体が支払う委託費収入が1億1654万8840円だったのに対し、人件費支出は1億5389万9233円と、人件費が委託費を上回っていた。東京都や北区からは保育士を手厚く置いた場合の補助金も出ているが、このほか保育士の処遇改善や一時保育などの地域の子育て支援事業、延長保育など実績に応じて支払われる補助金収入に頼る部分が大きく、全体で9383万1623円の補助金収入があることで、運営が成り立っているという。
補助金が出るかわからず「良心的な保育園ほど困ってしまうのでは」
コロナによる緊急事態宣言中は、午後9時15分の閉園時間を約3時間早めたほか、延長保育や一時保育の受け入れも見合わせたため、「これらに対する補助金が現時点で保障されるか分からない」と臼坂さん。「日ごろ、地域の子育て支援事業に積極的に取り組んだり、職員を多く配置したりして保育環境を良くしようとしている良心的な保育園ほど困ってしまうのではないか」
コロナ禍によって運営形態を変えざるを得なかった保育園に対して、自治体はどう対応するつもりなのか。
東京都は、保育士の処遇改善のための「保育士等キャリアアップ補助金」は通常通り支給するが、地域の子育て支援事業などに支給する「保育サービス推進事業補助金」は、一部でオンライン保育などの代替措置を取った場合にのみ支給を認める方針を示している。
北区保育課の担当者も、延長保育や一時保育などについて「(コロナ禍で)実績がないものに対してどう対応するか悩ましい」と話し、他自治体の動向を見ながら方針を慎重に検討するという。
不当な賃金カットに対する国の通知「趣旨は分かるけれど、現実は…」
内閣府などが通知を出した背景には、事業者が運営委託費を人件費以外に使うことができるために、コロナ禍に乗じた不当な賃金カットが相次ぎ、保育士らから労働組合や行政に多くの相談が寄せられたことがある。通知では、各園の貯金にあたる「人件費等積立金」の活用も検討するよう求め、委託費以外の収入が減収した場合も「できる限り、通常どおりの賃金を支払うことが望ましい」と書かれている。
臼坂さんは「通知自体の趣旨は分かるが、委託費だけでは足りないという現実も知ってほしい。自治体の補助金をどうすべきかも示されておらず丸投げの印象だ」と話す。この保育園では、緊急事態宣言中に休んでもらった短時間のパート職員にも当初、100%の休業補償をしていたが、先行きが見えず、5月半ばからは通常の6割に減らした。
コロナ禍で「より丁寧な保育」が必要 保育士の配置基準を見直すべき
臼坂さんは「国の(委託費の根拠となる)保育士の人員配置基準が低すぎることも問題だ」とあらためて感じている。「職員の労働条件を考え、子ども一人一人の成長を保障していこうとすると、国の基準では足りない」と強調する。
取材で訪れた日も、感染防止策として、1歳児クラスの14人を2つに分散。国基準なら園児14人は3人の保育士で担当できることになるが、それぞれのクラスに保育士を2人ずつ配置していた。臼坂さんは「コロナ禍で社会や家庭が不安定になりがちな中、より丁寧に子どもたちに接する保育が求められる。国は現場の実情を知り、保育士の配置基準そのものも見直してほしい」と訴えた。
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