学童保育の待機児童1万人…広がる「放課後格差」 公設は不足、 民間は高額
公設は入れないかも…早く決まる民間へ
午後5時。東京都足立区の北千住駅から10分ほどの住宅街のマンション1階にある民設学童「Mo-ne(モーネ) 千住寿町」では、保護者の迎えを待つ小学生たちが、思い思いに過ごしている。元気が有り余って駆け回る子、工作やお絵描きに励む子、おしゃべりを楽しむ子と、さまざまだ。
「退勤時間だから帰ります、とはいかない。仕事が長引いて遅くなることもあるので、息子を1人にできない。大人の目がある所で過ごさせたい」と小2の息子を迎えにきた40代の会社員の母親。保育所探しで苦慮し、「落ちたら仕事を辞めるしかない」と覚悟もした。何とか入れてほっとしたのもつかの間、次は学童。あちこちの説明会を巡り、親同士で情報交換して、申込先を絞った。「公設は入れるか決まるのが2月末。新年度ギリギリまで分からない。落ちたら職場に迷惑がかかるので、もっと早く決まる民間学童にも申し込み、入会金を払っておいた。でないと心配で…」
月5万円超 高額になる「習い事学童」
「Mo-ne」を運営するのは、9つの保育所と2つの学童を展開する企業「キッズホーム欒(らん)」。足立区の民設学童の設置促進補助事業で、昨年4月に開設した。公設と同じく児童福祉法や国の指針に沿って営む。開所時間や料金も公設に準じており、施設整備や運営費に対し補助金が出ている。足立区の担当者は「区内は待機児童が増加傾向。公設は学校内につくっているが、空き教室がなくて難しい地域もある。そういうエリアでは校外で運営してもらう民設を募っている」と説明する。
学童は保護者の勤務状況や子どもの学年など選考基準があり、入れないこともある。その受け皿として、ピアノや水泳などの教室や、学習塾も手掛ける民間学童、通称「習い事学童」が活況だ。ただ、利用料は高い。「公設は月6000円ほど。民間は週5日預けると月5万円半ばぐらい。夏休み期間は増額になるし、送迎バス代もかかる。民間を利用している友人は『私の給料はすべて学童に流れていく…』とため息をついていた」と母親が苦笑する。
低学年に偏り 高学年は諦めるケースも
厚生労働省によると、昨年5月時点の学童の待機児童は1万3416人で、2019年をピークに2年連続で減少。同省担当者は「新たに開設した学童の増加に加え、新型コロナウイルス禍で在宅勤務になった保護者が増えたのも要因」と分析する。それでも、待機児童はなお1万人超。さらに、小1~3は増えているのに、小4以上は減っている。「高学年になると、申し込んでも入れないと諦めるケースがあるようだ」(同省担当者)
定員40人に対し、55人が申し込んだ「Mo-ne」でも、本年度の利用者は小1~3。施設長の角田祐身さんは「規定では6年生も入れるし、高学年の利用ニーズも高い。でも、基準に沿って選考すると、低学年に偏ってしまう」と語る。
前出の母親も不安が尽きない。「うちも来年以降は厳しいかな。先輩ママにも『早めに塾も調べておいたほうがいい』とアドバイスを受けた。共働きの多い都市部で塾通いや中学受験が多いのは、必ずしも教育熱心だからじゃない。学童に入れないからだと思う」
40人超「大規模学童」は子どもに負担
小学生の預け先には他に、学校内で展開する「放課後子供教室」もある。学びや体験の場の位置付けで、共働き家庭でない子も対象。ただ、利用時間は短い。
学童を担当する厚労省と、放課後子供教室を所管する文部科学省は、2018年にまとめた「新・放課後子ども総合プラン」で、2023年度末までに受け皿を30万人増やし、152万人にする目標を掲げた。学校内で両事業を一体的に行うことも盛り込んだ。昨年10月の岸田文雄首相の所信表明演説でも学童保育制度の拡充に言及し、待機児童解消への取り組みは続いている。
しかし、保護者や学童の指導員でつくる「全国学童保育連絡協議会」の佐藤愛子事務局次長は「数だけでなく、質も豊かにしなくては解決にならない」と訴える。佐藤さんの気掛かりの1つは、表向きは待機児童が解消されたように見える、大規模学童だ。
国は1カ所あたりの預かり人数を「おおむね40人以下」としている。しかし、同協議会の昨年5月時点の調査では、35.8%が基準を超え、70人超も3.3%あった。「大規模学童は騒々しく、子どもに負担がかかる。成長にも影響する。『生活の場』としての学童の視点、子どもの成長に大人が伴走する関わり方を、大切にしてほしい。子ども一人ひとりの性格や保護者の働き方などで、放課後を過ごす場は異なる。図書館や公民館、子ども食堂なども活用し、さまざまな場を考えなくては」
隠れ待機児童は30~40万 家でゲーム
放課後を活用し、体験型の学びを広めるNPO法人「放課後NPOアフタースクール」の平岩国泰代表理事は「学童は高学年が事実上入れず、隠れ待機児童が30万~40万人いるとされる。居場所づくりは急務だ」と指摘。小学生の居場所が乏しいがために、「放課後格差」が生じると憂う。「高学年になって公設学童に入れないと、塾や習い事に流れる。しかし、経済的に苦しい家庭の子には難しい。遊び相手もなく取り残され、家でゲームや動画で時間をつぶすようになる。これは、子どもの放課後格差に結び付く問題だ」
放課後格差を思わせるデータがある。文科省によると、塾や家庭教師など学校以外の学習と、英会話やスポーツなど習い事の費用の合計額は、2018年度に公立小に通う子の場合、年収400万円未満世帯が年平均12万8000円なのに対し、1200万円以上世帯はおよそ3.4倍の43万3000円。私立小で1200万円以上世帯だと、6.2倍近い79万円に上る。
平岩さんは「ただ、学童を増やせばいいわけでもない。放課後は時間割に縛られない、自由な時間。子ども自身がやりたいことを考え、決められるよう、居場所の選択肢をそろえることが欠かせない」と説く。
子どもの目線で、多様な居場所づくりを
保育政策に詳しい日本総研の池本美香上席主任研究員は「国の整備目標は、学童へのニーズを踏まえて設定している。しかし、そもそもニーズ自体を抑える視点が欠けている。保護者の長時間労働の見直しや在宅勤務の浸透を進め、柔軟な働き方を広げる取り組みも必要だ」と語る。
その上で池本さんは「乳幼児と違い、小学生は性格や好みがはっきり分かれる。放課後の居場所のあり方を一律に固められない」とし、子どもが望む居場所を多様に設けるよう唱える。「地域での預かり合い。保育所などで小学生を一時的に預かり、小学生が保育所の幼い子の面倒を見る。そんな試みも各地で始まっている。大人が小学生に関して考えると、学校でのことが中心になりがちで、放課後には関心が寄せられにくい。子どもの目線で学校と放課後の時間をトータルでとらえ、過ごしやすい居場所づくりの議論が必要だ」
デスクメモ
日本の人口が減る中、首都圏は東京一極集中で次々にマンションが建つ。少子化でも、待機児童は都市の重要課題。施設を増やしても、どんどん成長する、今困っている子供たちは使えるのか。政策担当者はただちに現場で声を聞き、長期的対策に加え、すぐ可能な手も打ってほしい。(本)
なるほど!
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知りたい
結婚し、子供を考えていますが、夫婦フルタイムで共働き、親は県外で頼れない環境なので、子供をどうするか考える意味でも、学童保育の受け皿の充実は非常に関心を持っています。
自分自身が小学生のときは学童に馴染めず親には苦労をかけたので、子供とは放課後できるたけ過ごしてあげたいと思いますが、生活のため、キャリアのためにも仕事をセーブしたくないですし、非常に悩ましいです。
学童保育 学年の違う子供を預かるのって
たいへんだなぁと思います。また、学童保育で、楽しく生活できる子供も、すごいと思う。ある程度積極的で、自立していないと
その場所を楽しめないから。
学童で働いて6年経ちます。60人の児童を預かっています。
ただ働き手がいない中の運営となっています。子どもを預かりたいと思ってはいても人手が足りない現状です。
素晴らしい記事です!
小学生の放課後の問題を子どもの心にも目を向けて考えている記事は初めて見ました。