女性活躍を阻む「ガラスの天井」打ち破るには? メンター制度を導入した埼玉県庁の取り組み

浅野有紀 (2022年9月1日付 東京新聞朝刊)
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女性活躍事業について打ち合わせする埼玉県人事課の職員ら=県庁で

 世界経済フォーラムが7月に発表した各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中116位だった。先進国最低レベルから抜け出すには、政界や企業など各界の女性活躍に対する姿勢が問われる。女性活躍推進に取り組む埼玉県庁の現状と課題を探った。

昇任に消極的な理由は「家庭が不安」

 「女性の活躍を妨げる見えない障壁『ガラスの天井』は依然として存在します」。6月、大野元裕知事は全職員に向けてビデオメッセージを発信した。埼玉県庁の女性管理職の割合は現在13.2%。3年後の2025年に20%を目指しており、知事は「女性は優秀な方が多くても、出産して(職場に)戻ると男性との間に(キャリアの)差ができる。女性が諦めなくていい社会をつくりたい」と語る。

 埼玉県が2020年9月に行った職員アンケートでは、女性職員が昇任に消極的なことが浮き彫りになった。「管理職になろうと思うか」との問いに「分からない」「思わない」と答えた女性は71.9%で、男性の53.3%との落差が目立つ。

表 埼玉県内の女性活躍の比率

 回答の理由で男性は「職責に見合ったメリットが分からない」(30.6%)が最多なのに対し、女性は「家庭事情で不安」(30.3%)、「経験や能力に自信がない」(26.6%)と続いた。実際、県庁の「主任」から「主査」への昇任試験の受験率(2021年)は、男性は対象となる男性職員の68.2%、女性は同女性職員の38.1%だった。

女性メンターからの助言で両立に自信

 こうした実態を踏まえ、埼玉県は家庭の事情で仕事を諦めないでもらおうと、先輩職員がメンター(助言者)となり対話を重ねる制度を導入している。昨年この制度を利用した30代の女性主任は、2歳の長男の子育て中。仕事と育児の両立が不安だったが、子育てを経て復帰後も活躍する女性メンターと出会い、昇任試験への挑戦を前向きに考えている。

 仕事面でも助言を基に、自分の業務内容や関係連絡先の一覧表を作り、同僚と共有。引き継ぎがしやすくなり、長男の発熱などによる急な欠勤でもフォローしてもらいやすくなった。

 柔軟な働き方の浸透には、当事者だけでなく全庁的な意識改革が必要だ。性別や年代を問わず支え合いの必要性を理解してもらうため、幹部による「働きやすい職場づくり宣言」を実施。各部局で「子が生まれる男性職員には声掛けをし、取得を希望する職員が100%育児休業を取れる環境を整えます」などの目標を掲げ、取り組んでいる。

「ママファースト」の日があってもいい

 複数の「女性初」管理職を歴任してきた小池要子知事室長(59)も、2人の子育てを経験した。実務の中心的な役割を担う「主幹」のころは残業が多く、帰宅が終電間近になる日も。さらなる昇任は望んでいなかったが、上司が業務を他の職員にも割り振り、仕事と子育てを両立できる環境を整えてくれたという。

 小池さんは当時の配慮に感謝しつつ、個人の裁量に頼らず、組織として柔軟な働き方ができる体制の整備や意識改革が必要だと指摘。その上で後輩たちには「(昇任には)仕事ファーストじゃないと駄目なのではと思うかもしれないが、日によって『今日はママファースト、妻ファースト』の日があってもいい。頑張り過ぎず、自然体で両立してほしい」と期待した。

「女性のためではなく、組織のパフォーマンスを高めるため」 

◇三菱UFJリサーチ&コンサルティング尾島有美さんの話

 庁内全体で女性活躍の機運を高めるには、一人一人がなぜ今、女性活躍が必要なのかを理解することが重要。組織のパフォーマンスを高めるための取り組みであり「女性のため」ではないが、誤解が多い。

 女性の積極登用は逆差別に映るかもしれないが、雇用機会均等法では、過去の雇用の取り扱いで生じた差を解消するための取り組みは法違反ではないとしている。

 特に子育てなど時間制約がある職員のマネジメントが重要。簡単な仕事を与えるだけなど、過度な配慮は働く意欲を失わせてしまう。短時間勤務の職員のキャリアをどう支援し育成するか管理職研修でしっかり伝える必要がある。

 合わせて欠かせないのが柔軟な働き方。テレワークを全員が利用し使いやすくなるよう業務改善すれば、誰もが働きやすい職場となる。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月1日

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