幼保無償化…「質の向上」の視点はどこへ?
保育システム研究所 吉田正幸代表インタビュー
-無償化方針の評価は。
「視点が未来を支える子どもたちではなく、納税者にある印象だ。親の経済的な負担は軽減されるが、子どもにとって最も大切な質の向上について具体的な政策がない。子どもにしわ寄せがいきかねない」
-どんなしわ寄せが考えられるか。
「『タダ』になると保護者のモラルが低下し、子どもを長時間預けたり、多少質が悪くても何も言わない人が増えると思う」
-保育園や幼稚園側への影響は。
「長時間、預けられる子どもが増えれば、それだけ施設職員の負担は重くなり、人も増やす必要が出てくる。今でも人材不足なのに、どうなるのか。また、無償化自体は施設の収入に影響はないが、(消費税増税でも賄えずに)財源が足りなくなって、施設の運営費を削られたりしたら本末転倒になる」
-改善すべき点は。
「幼稚園の場合、実質的に2年しか通えない地域がある。3歳児の受け入れをどうするのか。そもそも幼児教育の質の向上という意味では、国で統一したカリキュラムを策定したり、第三者機関による施設の評価が必要となる」
-保護者からも質の向上を求める声が出ている。
「すべての幼児に質の高い教育を提供し、生涯にわたる学習や人間形成の基盤をつくるというのが幼児教育の目的。それに少子化対策としての保育という政策目的が違うものを合わせたので、おかしくなった」
よしだ・まさゆき
1957年、福岡市生まれ。大阪大卒。保育システム研究所代表。神奈川県、京都市、東京都品川、千代田両区などで、子育て支援策に対して意見を述べる有識者会議の副会長や委員を務めている。
2019年10月から3~5歳を無償化、認可外保育は月3万7000円まで補助
政府は5月31日、3~5歳児の幼児教育・保育無償化に関し、焦点だった認可外保育施設をすべて対象にして、月3万7000円を上限に補助することを決めた。所得制限は設けない。主要な財源を消費税増税による増収分で賄うため、10%への引き上げ予定の2019年10月に全面実施する。これにより、無償化方針の全容が固まったが、関係者からは待機児童対策や保育の質の向上を優先すべきだとする声も上がる。
「待機児童対策や質の向上を優先すべき」
政府は経済財政運営の指針として6月に打ち出す「骨太方針」に、今回の決定を盛り込む。認可外は、東京都認証保育所など自治体独自の保育施設やベビーホテル、ベビーシッターなども広く対象にする。
保育料が高額でも、上限額までしか補助しない。上限額を下回る場合は実費を支給する。認可施設は、自治体ごとに世帯所得に応じた保育料が設定され、利用者ごとに負担額は違うが、高額所得世帯も含めすべて無料にする。
幼稚園は月額2万5700円を上限に助成する。預かり保育は、保育の必要性の認定を受けた場合に限り、月額1万1000円程度を上限に支給する。
一方、0~2歳児は、住民税非課税世帯に限り、認可施設は無料、認可外保育施設は月4万2000円を上限に補助する。
「保育園を考える親の会」の普光院(ふこういん)亜紀代表は「当事者は今も、待機児童対策や質の向上を優先すべきだと訴えている」と指摘。認可外施設全般が対象になったことには「利用者にとっては一見公平だが、子どもにとって質の面では不安。認可、認可外とも質を担保したところに補助すべきではないか」と話した。
<解説>待機児童家庭は恩恵まったくなし
政府が決めた幼児教育・保育の無償化は、認可外施設も対象に含めたことで、子育て世帯の負担軽減につながる。その一方で待機児童のいる家庭は制度の外に置かれ、恩恵を一切受けられない。
「保活」の競争が激しい都市部を中心に、多くの保護者は無償化内容の検討が始まる前から「待機児童の解消を優先してほしい」と訴え続けてきた。落胆の声が広がるのは確実だ。施設に預けることができた家庭と、希望しても入れない待機児童がいる家庭の格差は一段と広がる。
認可外施設についても課題はある。今後、施設の増加が予想されるため、どう保育の質を確保していくのか、国や都道府県などには重い責任が課される。認可外施設はもともと、認可施設よりも国の設置基準が緩く、保育士が不足していたり「詰め込み」状態になっている施設もある。無償化の実施で保育の質の向上が置き去りになるのではないか、そんな不安の声も聞こえてくる。
無償化を実現するために必要な予算は、現時点ではっきりしない。1兆円程度になるとの指摘もあるなか、どのように確保するのか見通しもついていない。無償化を優先するために、新たな認可施設の設置が遅れ、待機児童の解消が遠のくなら本末転倒だ。
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就学前の子どもには、特に質のいい教育環境を整えることが重要だ考えるので、この記事に賛同します。この時期に、認知スキルだけでなく、非認知スキルを育てることが、自立した健康な大人を育て、国の経済を結局は健全にすると、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大学経済学部特別教授の論文が話題になりました。
無償化自体は素晴らしいことですが、保育の質の低下は国の将来が不安です。
認可、無認可の枠で区切るのではなく、「子ども目線での質の良し悪し」を基準に、無償化を進めていくのは、手間がかかるかもしれませんが、園の質を保つ上でも、親が選ぶ基準を保つ上でも指針となって、いいと思います。
記事でも問題視されている通り、現場の保育の質の低下は年々深刻だと感じます。保育士同士のSNSグループや職場では、職員の意識の違いや古い保育士の横暴など各園で様々な問題が聞かれます。仕事内容と時間がうまくとれず、職員会議や園内研修など行っている所は少ないようです。
問題の背景には、保育士や幼稚園教諭が減っていること。妊娠、不妊治療に対して園がフォローできず、実力のある人材は続けられない。職員同士のチームプレー意識が低い。先生の社会経験に偏りがあり、視野が狭い。子どもに対しての知識、愛情に欠ける保育士が現場に多い。など、各園で解決すべきことがたくさんあるなか、忙しいさによって後回しになっています。ただ、子どもを預かることだけが目的となっている風潮ですが、最も大事なことは、子どもたちが心身ともに健やかに育つことだと思います。そのためには、親の悩みを共に考え寄り添うことも大切ですし、子どもたちになにを経験させ心を動かす体験ができるかを考え実行する必要があります。
幼保無償化を機に、保育レベルを上げようと頑張る園もたくさんあります。日本全国の保育士、幼稚園教諭が一丸となって、保育の質の向上に努められるよう願っています。
41歳 幼稚園教諭