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〈アディショナルタイム〉共生と寛容のスポーツ、それがラグビー 家族でW杯を楽しもう

谷野哲郎  

 ワールドカップ(W杯)での日本代表の躍進も手伝い、ラグビーが盛り上がっていますね。野球やサッカーと比べると、日本人にはなじみの薄いスポーツですが、家族一緒に日本代表を応援した人も多いのではないでしょうか。ラグビーは成り立ちから調べてみると、「共生」や「寛容」といった子育てに役立つ特性が見えてきます。
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 取材して思うのは、ラグビーは多様な価値観に対して「寛容」だということです。日本代表に外国出身者が多いのは、居住年数などの一定の条件を満たせば、国籍を問わずに代表選手としてプレーできるからなのですが、このような規定は他のスポーツにはあまり見られません。そしてもう一つ、観客席の応援にも特徴が見られるのです。

 W杯のスタンドをよく見てください。ラグビーでは一部を除いて、サッカーや野球のように敵味方にくっきり分かれて応援しないのです。どちらのファンも一緒のスタンドで観戦する。すぐ隣に敵のチームを応援する人がいて、相手チームの良いプレーにも拍手を送る。共生と寛容がそこにあります。

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 ラグビーは発祥からして、おおらかでした。この競技は1823年、イングランド北西部にあるラグビー校のエリス少年が、フットボールの試合中にボールを持って走ってしまったことが始まりとされます。

 このあまりにも有名な話は、50年ほど後に同校OBが聞いた話として伝えたものなので、実は真偽がわからないそうです。いずれにしても、ルールを破って手でボールを持って走った選手を怒らずに受け入れるとは、何と懐の深いことか。ラグビーは多様な価値観を受け入れ、楽しむ精神から生まれたといって良いでしょう。

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 はるか以前、原初のラグビーは生活に根差した祝祭でした。親子や隣近所で楽しむ行事でした。

 英国の歴史学者トニー・コリンズが書いた「ラグビーの世界史 楕円(だえん)球をめぐる二百年」(白水社)には、ラグビーの起源として中世イングランドのアシュボーンと呼ばれた農村で行われた祝祭が記されています。

 「民俗フットボール」と呼ばれているそのゲームは、サッカーやラグビーなど全てのフットボールの原型になったとされています。川で隔てられた2つの地区が競うのですが、ときに数百人が参加して、街路、野原、川などで何時間もゲームを繰り広げました。3マイル(約5キロ)離れたそれぞれの水車小屋跡がゴールでした。

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 ルールは至って簡単。どんな形であれ、ボールを水車小屋跡に持ち込み、置いてある石をボールで3度たたいたチームが勝者となったといいます。今とは全く違う形ですが、最後は何となくトライをイメージできるのが面白いですね。

 その日は村人全員が仕事を休み、ボールを追い掛けました。年に1度の豊作を祈って行われたお祭りでした。助け合いを必要とする地域社会で発生した祝祭だからこそ、親子で、隣近所で楽しんだイベントだからこそ、共生と寛容の精神が生まれたのだと私には思えてなりません。

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 残念なことに、その後の長いラグビーの歴史の中には寛容とは程遠いものがあります。さまざまな組織が対立したり、南アフリカでは人種隔離政策の一環でラグビーは白人だけのスポーツとされた時代もありました。ですが、先人たちは間違いを乗り越え、今に至るラグビー文化をつくってきたのです。

 誇りや規律も重んじるラグビーは、名門校の教育に重用されてきました。「紳士のスポーツ」とも言われるのはそのためですね。今回のW杯でも選手は紳士でした。アルゼンチン-トンガ戦の試合後、アルゼンチンファンの子どもたちに写真をお願いされたトンガ選手が笑顔で応じたことがありました。ゲームが終われば勝ち負け(の側)はない。「ノーサイド」の精神はこんなところにも表れています。

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 紳士といえば、豆知識を一つ。ラグビーでは試合後に行われる交歓会の席上、右手で飲み物のグラスを持ってはいけない暗黙のルールがあります。右手は握手をするために空けておくのがマナーだからです。相手をリスペクトする姿勢は子どもにぜひ教えたいものです。

 ボールを手で運んでもOK、他の国の選手も代表になれるし、敵にも敬意を払う。許し、受け入れ、認め合うのがラグビーといったら言い過ぎでしょうか。熱戦が続くW杯は11月2日まで行われます。強敵が相手でもあきらめない日本代表を応援しながら、また敵味方が隣り合って楽しむファンを見ながら、子どもと一緒に感想を話し合う。そんな機会にしてみてはいかがでしょうか。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。