性教育を日常に取り入れる絵本 産婦人科医・遠見才希子さんがシリーズ3冊に込めた思い

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「物語を通して性について知ってもらえる絵本を目指した」と話す遠見さん=神奈川県藤沢市で

 医学部の学生時代から性教育の講演を続けてきた産婦人科医の遠見才希子(37)さんによる性教育の絵本シリーズがこの春、童心社から出版される。遠見さんは「性教育はみんなの健康と幸せの実現のためのもの。絵本が、性教育にポジティブに取り組むきっかけになれば」と話す。

性教育の国際的な基準 5~12歳の内容

 シリーズは、お互いの体や気持ちを尊重する大切さを伝える「うみとりくのからだのはなし」、妊娠から出産までをたどる「あかちゃんがうまれるまで」、思春期の心と体の変化などを描く「おとなになるっていうこと」の3作品。性教育の国際的な基準「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」でレベル1(5~8歳)、レベル2(9~12歳)に当たる内容をぎゅっと詰め込んだ。

図解 ユネスコ「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の年齢別学習目標と主な内容

触られるのが嫌でも、言えない子もいる

 「うみとりくのからだのはなし」は双子の「うみ」と「りく」が主人公。「そっくりだけど同じではなく、実は全然違う双子にすることで、自分の体は自分だけのもの、かけがえのないものだと伝えたかった」と遠見さんは狙いを話す。

 ぎゅーっとすることは好き、でもされたくないときもある。お父さんの肩車は大好きでも家の外ではされたくない。くすぐられるのは足だけならいい…。2人の心の機微や揺れが丁寧に描かれ、自分のどんな気持ちも大切にしていいよ、とそっと後押しする。「親は愛情表現のつもりでも、親からのキスや体へのタッチが本当は嫌で、でも嫌とは言えない子もいるかもしれない。 そうやって、自分のプライベートパーツが大切にされないことを積み重ねながら大人になってほしくない」との思いを込めたという。

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「うみとりくのからだのはなし」(作・遠見才希子、絵・佐々木一澄、童心社)の一場面

 プライベートパーツをさわられそうになったら?との問いかけに、慎重な性格のりくが「こわくていやだっていえないかも」と膝を抱えて縮こまる場面がある。遠見さんがこだわったのはそこに添えた「『いやだ』っていえなくても にげられなくても ぜんぜん わるくないんだよ」との言葉。「性暴力の被害にあうと動けなくなることもある。『なんで逃げなかったの』と被害を受けた子を責めることは二次被害につながる。自衛を求めるよりも、加害を減らさなければならないという視点を大切にしたかった」

妊娠や出産は、さまざまなケースがある

 「あかちゃんがうまれるまで」は、「ぼく」の視点で母親の妊娠から出産までを見つめる。子宮内での赤ちゃんの成長を追いつつ、母親がつわりで仕事を休んだり、バスで席を譲られたり、妊娠中の女性と社会との関わりもさりげなく織り込まれている。

絵本の一場面

「あかちゃんがうまれるまで」(作・遠見才希子、絵・相野谷由起、童心社)より

 「あかちゃんってどうやってできるの?」というぼくの質問への答えとして、男女の体の仕組みや性交をイラストで登場させた。「子どもがセックスについて初めて知るとき、科学的で人権を大切にしたポジティブなものであってほしい」との思いからで、性交のイラストでは、男女が対等であると感じられるよう配慮した。セックスについてぼくに説明する医師の言葉が温かい。「せいこうは からだも こころも おとなになった ひとどうしが おたがいを たいせつに しあいながら することなんだ」

 出産といえば赤ちゃんが産道を通って膣から生まれる経膣分娩を想像しがちだが、母親は緊急帝王切開で出産する。不妊や体外受精についても触れ、妊娠や出産にさまざまなケースがあることを紹介している。

絵本の一場面

「あかちゃんがうまれるまで」(作・遠見才希子、絵・相野谷由起、童心社)より

ひとりひとりが、性の多様性の中にいる

 「おとなになるっていうこと」は主人公の男の子が、サッカーの合宿に向かう姉の荷物にある生理用品に興味を持つことから始まる。男の子は月経や射精について知るうちに「どんなおとなになっていくんだろう」と期待をふくらませる。

絵本の一場面

「おとなになるっていうこと」(作・遠見才希子、絵・和歌山静子、童心社)より

 そこに登場するのが母親の幼なじみ「かおるさん」。性別に違和感があり、男性の体に生まれたが女性として生きると決めたことを子どもたちに打ち明ける。母親とかおるさんがほほえむイラストに、2人のきずなの深さがにじむ。「いつでもはなしをきくからね」「いつでもみかたでいるからね」と男の子と姉に語りかける2人。男の子は「みんな違う。誰かと比べなくていい」とうれしくなる。

 思春期の体の変化を扱った本に性の多様性も盛り込んだのは、だれもが性の多様性のなかにいて「ひとりひとりが違う」と知ってほしいから。遠見さんはさまざまなセクシュアリティの人々に意見を聞き、「せかいじゅうにいろんなひとがいて みんないっしょにいきてるんだよ」とのせりふを取り入れたという。

絵本の一場面

「おとなになるっていうこと」(作・遠見才希子、絵・和歌山静子、童心社)より

性教育に向き合わなきゃ!と気負わずに 

 子どもが物語の主人公になって主体的に考えられる性教育の絵本を作りたいと、遠見さんが出版社の問い合わせフォームに企画を提案したのは3年前。自身の出産も挟みながら、編集者と議論を重ねて出版にこぎ着けた。「これが正解、ベストというわけではないが、たくさんの人の力を合わせて、心をこめて作り上げられた。性教育に向き合わなきゃ!と気負わず、日常の中で気軽に読んでもらえたら」と話す。

 童心社「うみとりくのからだのはなし」(絵 佐々木一澄、税込み1430円)は発売中。「あかちゃんがうまれるまで」(絵 相野谷由起、税込み1650円)、「おとなになるっていうこと」(絵 和歌山静子、税込み1650円)は4月初旬発売予定。

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