日本が遅れているSRHRとは 女性が出産や性生活を自己決定する権利 安全な中絶・避妊方法が必要です

(2021年8月23日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

イラスト SRHRとは 女性が決める権利

 【ニュースがわかるAtoZ】出産や性生活について、慣習や国の人口政策などを押しつけられず、女性が自分で決める権利を意味する「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(SRHR)」。日本でジェンダーの不平等が指摘される中、1990年代に認知されたこの国際的な理念があらためて注目されている。

「女性の自己決定を尊重する」概念

 SRHRが世界で大きく取り上げられたのは、1994年にエジプト・カイロで国連が主催した国際人口開発会議だ。

 途上国の人口爆発を抑制するために、女性が強制的に避妊手術を受けさせられたり、宗教的な理由で中絶が禁じられたりしている状況下、女性の自己決定を尊重し、地位向上を確立する概念として打ち出された。

図解 SRHRとは

 S(セクシュアル)を入れることに反対する国があり、採択された行動計画には「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(RHR)」と記された。安全で満足のいく性生活を営みながら、産むか産まないか、いつ、何人の子を産むかを決める権利で、実現に必要な手段や情報が行き渡るよう、各国が努力すると定められた。翌年に中国・北京で開かれた世界女性会議で、SRHRは「女性の人権の一部」とあらためて確認された。

◇SRHRに関する主なできごと
1989年 〈日本〉合計特殊出生率が1.57に。少子化対策が注目される
1994年 〈世界〉国際人口開発会議が開催。SRHRが関心を集めるきっかけに
1996年 〈日本〉優生保護法が廃止され母体保護法に。中絶や不妊手術の理由から優生思想を削除
2000年 〈日本〉男女共同参画基本計画が策定。SRHRを「女性の人権の重要な一つ」と明記
2003年 〈日本〉東京都議が特別支援学校の性教育を非難。性教育がタブー視される風潮が高まる
2015年 〈世界〉持続可能な開発目標(SDGs)が採択。目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にSRHR
2020年 〈日本〉緊急避妊薬を処方箋なしで購入できるよう求める署名が10万筆集まる
写真

厚生労働省で署名を提出する産婦人科医ら=2020年

社会がジェンダー平等でなければ

 啓発に取り組む国際非政府組織(NGO)ジョイセフの浅村里紗事務局長補は「SRHRには避妊や中絶へのアクセス、母子保健、エイズウイルス(HIV)などの性感染症(STD)、性暴力、ジェンダーによる差別など多くの課題がある」と指摘する。「不利な立場に置かれている女性や少女など、すべての人たちにとって『自分で選択できること』が解決への糸口になる」と力を込める。

図解 SRHR実現のために必要なこと

図解 ジェンダー平等な社会とSDGs

 SRHRの実現のためには、性や生殖について十分な知識を持つための「包括的な性教育」や、産めない・産みたくないときに避妊や中絶手段を「選べる環境」、貧困を理由とした性産業への従事を防ぐための「男女賃金格差是正」などが欠かせない。つまり、社会がジェンダー平等でなければならない。

イラスト SRHRの実現を妨げるもの

 一方、国内ではハンセン病患者や障害者が、国によって断種(不妊手術)や中絶を強いられた歴史がある。性的少数者への差別や偏見も根強く、女性に限らず、すべての個人のSRHRの実現が求められている。

日本の時代遅れな「避妊・中絶」 SRHRが進まないため各地で悲劇が…

 日本では「男女共同参画基本計画」(2000年)でSRHRを「女性の人権の重要な一つ」と定め、具体的には産む・産まないを選ぶ自由や安全で満足のいく性生活を課題に挙げた。

 だが、第二次計画では「中絶の自由を認めるものではない」と盛り込まれ、第五次(2020年)までの見直しで、力点は女性の健康や妊娠・出産支援に移った。明治学院大の柘植あづみ教授(医療人類学)は「SRHRの発想が具体的な施策につなげられていない」と批判する。

図解 さまざまな課題

 SRHRが進まないことによる悲劇は各地で起きている。

 2020年6月に愛知県内の公園トイレで子どもを出産、死亡させ、逮捕された専門学校生=出産当時(20)=は、公判で赤ちゃんの父親から中絶同意書のサインがもらえず、誰にも相談せずに出産したと明かした。

 柘植教授は「女性が悪い、でなく、なぜ避妊や中絶できなかったか、社会の問題として考えるべきだ」と提起する。

図解 時代に合わない中絶方法と環境

 母体保護法14条は「医師は、本人および配偶者の同意を得て人工妊娠中絶ができる」と規定する。配偶者が不明な場合などは「本人の同意だけで足りる」とするが、柘植教授は「体や心に大きな負担がかかるのは女性。DVのケースも考えられる」として、配偶者同意規定自体を廃止すべきだと指摘する。

 避妊や中絶手段も世界に後れをとる。体への負担が少なく、70カ国以上で認められ、世界保健機関(WHO)が推奨する経口中絶薬は国内で承認されていない。避妊に失敗した際などに望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬の使用には、いまだに医師の診察が必要だ。

図解 避妊手段の例

 産婦人科医の遠見才希子さんは「意図しない妊娠のリスクを抱える全ての女性は、緊急避妊薬へアクセスする権利がある。安全な中絶や避妊へのアクセスは、健康を守るために不可欠であることを社会全体で認識してほしい」と訴える。

グラフ 中絶数の推移

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コメント

  • 匿名 より:

    「ジェンダー平等」という表現は、よろしくないと思います。ジェンダーは解体するもの、なくすものであって、目指すべきは「男女平等」なのではないでしょうか。

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