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〈坂本美雨さんの子育て日記〉18・諦めも成長…だけど

  (2018年2月18日付 東京新聞朝刊)

坂本美雨さんの子育て日記

写真 かわいがっているアミユミ(Puffy人形)に、私が子どもの頃に作ってもらったお洋服を着せて

かわいがっているアミユミ(Puffy人形)に、私が子どもの頃に作ってもらったお洋服を着せて

落ちちゃったゼリー

 よく2人で行く定食屋さんで、いつもの店員さんが娘に小さなゼリーを2つくれた。みかん味と、りんご味。ご飯を食べ始めたばかりだったので、今すぐ食べたがったらどうしよう、と思ったけれど、彼女は律義にご飯が終わるまで手をつけずにいた。

 鮭(さけ)定食を食べ終わり、ゼリー食べていいよ、と私が言うと、彼女は好きなりんご味のほうを開けた。一口サイズのゼリーは弾力が強かったようで、彼女が丸いカップに口をつけてもうまく吸い込めず、力を入れた弾みにつるんと手から落ちて、薄緑色のゼリーは床をすべっていった。

 あぁーー、と慌てたのは私のほう。泣かれるのを瞬時に想定して全力で慰めようと構えた瞬間、当の娘は「あれ、おちちゃったよ」と、残念とも恥ずかしいともつかない表情をした。あの顔はなんだろうと考えてみると、例えば、電車に駆け込もうとしたら目の前で扉が閉まった、というような、小さい諦めの顔だ。そして彼女は気持ちを切り替えて、みかん味のほうを食べ、私は胸をなでおろした。

もっと怒っていいんだよ

 でもなぜか、胸がチクチクとした。似たようなことがたまにある。同世代の子どもたちが集まって、おやつタイムになると、チョコレートや卵入りのお菓子など、卵と乳アレルギーの娘がまだ食べられないものが出てきたりする。ごめんね、もうちょっとお姉ちゃんになったらね、と代わりのおやつを差し出すのだけど、彼女だってみんなが喜んでいるものをその雰囲気の中で食べたいに違いない。でもそういう時、大抵、彼女はスッと受け入れて、それ以上欲しいとは言わない。そんな姿も、胸が痛む。

 年を重ねて、だんだんと諦めを知るのは素晴らしい側面もある。執着から解かれること、手放さなくちゃいけないものを手放せることは、本当にすがすがしい。しかたがないことを受け入れ、気持ちを切り替えて前を向けるならば、それは美しい諦め。でも、しかたがない物事をしかたがないと、まだ知らないのが子ども。たとえ知っていてもあらがうのが子ども、だと思っていた。

 2歳6カ月、こんなにいろんなことを理解して悟っていると思わなかった。もっと怒ったり、誰かのせいにしてみたり、ひたすら悲しんだり、ジタバタしてもいいんだよ、と思う。もちろん、かぁちゃんは困るけど。でも、していいんだよ。子どもなんだから。 (ミュージシャン)