大人の目から離れたい 普通高校に通う医療的ケア児の思い 特別支援学校では保護者付き添いなしの試みも

神谷円香 (2019年7月30日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 人工呼吸器を着けて暮らす東京都世田谷区の高橋祥太さん(15)が4月から、都立芦花高校(同区)で学んでいる。たんの吸引や胃ろうなどの援助行為「医療的ケア」を必要とする子どもは少なくない。特別支援学校ではなく、一般の高校で学ぶ夢を実現した高橋さんだが、今は介助職員が付き添ったり、母親が待機したりしなくてもいい「自由」な学校生活を望む。だが自立を願う高校生に応える態勢には程遠い。
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教室へ向かう高橋祥太さん(手前)に、介助職員の岩井隆浩さんが付いていく=東京都世田谷区で

介助職員、少しうっとうしい

 高橋さんが授業を終えると、介助職員の岩井隆浩さんが電動車いすに取り付けた机代わりの板などを手早く外す。すると高橋さんは車いすで移動。次の授業がある教室に到着すると、岩井さんが再び板を戻しキーボードを置き、パソコン画面の向きも調整した。

 岩井さんは高橋さんの入学にあたり、都が採用した非常勤職員。岩井さんは思春期の子どもたちの心身の発達を支援する「日本家族計画協会」が認定する「思春期保健相談士」の資格も生かし、高橋さんと他の生徒たちの関係づくりにも心を砕く。だが、高橋さんは四六時中、人がそばにいるのが少しうっとうしい。人工呼吸器の停止など「万一」に備え校内待機する母親も「来なくて良いのに」と思ってしまう。常に介助を要する体と、大人の目を離れて自由になりたい思いの間で、思春期の高橋さんの心は揺れ動く。

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高橋さん㊨の教科書を片付ける介助職員の岩井さん

中学校は特別支援学校を選んだけれど

 高橋さんは、先天性ミオパチーという体の筋肉が弱い病気で、自力呼吸が難しく、生後8カ月で人工呼吸器を装着した。歩くのも、ノートより重い物を持つのも難しいが、小学校はエレベーターのある区立小に通った。高学年になると、手動の車いすを友達が押してくれた。

 中学校は特別支援学校の都立光明学園を自分で選んだ。陸上部に入り、電動車いすを走らせて競う「スラローム」などを楽しんだ。ただクラスは少人数で会話が難しい生徒も多く、物足りなさもあった。

授業を終え同級生と歩く高橋さん㊨。母親や介助職員はできるだけ離れて見守っている

学校「生徒の安全を守る責任ある」

 「高校はまた普通の学校に行きたい」。いくつかの私立高校の学校説明会に参加したが、校舎の設備などを理由に複数の学校から「うちでは無理」と拒まれ、打ちのめされた。「見返してやる」。都立高校に狙いを絞り、一般入試で自宅から近い芦花高校に合格した。

 同校は高橋さんのため、持ち運び式スロープを用意し、トイレに介助用のベッドも設けた。「担任や介助職員らが月1回は集まり、改善が必要なところは検討している」と4月に着任した海発真一校長は話す。

 一方で、「校内を一人で自由に動きたい」という高橋さんの要望には、「気持ちは分かるが、学校には生徒の安全を守る責任もある」として、介助職員の付き添いや保護者の校内待機は必要との立場だ。

 それでも高橋さんは「家族はもしもの時に来てもらえれば良い。緊急時は誰でも人工呼吸器の操作をしていいと思う」と訴える。

まだ進んでいない 普通学校への看護師配置

 医療的ケアを受ける子どもの学校生活をどう支えるべきか。文部科学省は3月、全国の教育委員会に「将来の自立や社会参加に必要な力を培う」との視点に立った対応を求めた。

 都内では3月末、人工呼吸器を着けた子どもらがいる保護者が「東京都医ケア児者親の会」を設立。9家庭が参加し、学校への親の付き添いのあり方などについて意見を交わしている。

 都教委は2018年度から、都立光明学園で非常勤の看護師を増員。保護者の付き添いなしで過ごすモデル事業を実施している。担当者は「保護者の待機や他人の介助を少なくしていくことは子どもが自立して生きるために必要」としているが、看護師を配置している普通学校は少ない。

医療的ケアを要する子どもの在籍校

 医療的ケアが日常的に必要な子どもは文部科学省の調査で2017年5月現在、特別支援学校の幼稚部―高等部在籍者が8218人で、うち家庭などへの訪問教育を除く通学生は6061人。公立小中学校在籍者は858人。一般の高校の在籍者は昨年から調査を始め、集計がまとまっていない。

【2019年8月1日 追記】岩井隆浩さんが高橋祥太さんの支援をする上で「思春期保健相談士」としての知識や技能も生かしていることを追記しました。

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