思春期に大切なのは「子どもの話を親が聞ききる」こと シェルターで見えてくる深い傷

(2019年11月21日付 東京新聞朝刊)
 親などから心身に暴力を受けた子どもの傷は深刻です。不幸にして家庭で安全に暮らせなくなってしまった子どもたちを受け入れ、回復を支えている施設が「子どもシェルター」です。開設から15年経つ「カリヨン子どもの家」を運営するカリヨン子どもセンター理事長の坪井節子さん(66)に子どもたちの訴えから見えてくることを聞きました。
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虐待を受けた子どもたちのシェルターを作った弁護士の坪井節子さん=東京都文京区で

特集・変わりたいあなたのために

逃げてくる子どもは「教育熱心な家庭」が多い

―家庭で安全に暮らせないと助けを求めてきた子どもたちを受け入れています。

 虐待が起こりやすいのは、貧困や親に余裕のないひとり親家庭だと思われがちです。でも、私たちが運営する子どもシェルター「カリヨン子どもの家」に逃げてくる子どもたちは、両親の社会的地位が高く、教育熱心というケースが多い。一生懸命頑張っても、「ダメだダメだって言われる」「親に褒められたことがない」って言うんです。

 長い長い精神的な虐待に耐えて傷だらけになり、自傷行為や記憶喪失、解離性障害などの問題を抱える子もたくさんいます。でも、体への暴力のように傷跡などが目に見えないから児童相談所には保護されないことが多い。「もう、この子をひとりぼっちにしない」。カリヨンではそんな思いで、スタッフや担当弁護士、児童福祉司、医師などがまずは子どもの苦しい気持ちをじっくり聞いていきます。

 家庭的な暮らしの中で、心や体を休めてもらい、たくさんの大人がスクラムを組んで関わることで、親子関係を修復して親元に帰る子もいます。家庭で暮らせない15歳以上の子のための自立援助ホームに移って、進学や就職の準備をする子もいます。

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カリヨン子どもの家のボーイズのリビング(カリヨン子どもセンター提供)

親子の幸せのカギ 「対等なパートナーシップ」

―親も子どもを傷つけたいとは思っていないのでは。

 親御さんたちは「子どもをいい学校に入れたい」「幸せにしてやりたい」と思っています。それが子どもの虐待になっているなんて思いもしない。話をすると「子どもがそんなにつらい思いをしていたなんて知らなかった」という人が多いです。何ができる、できないじゃなくて、そこに子どもがいてくれること自体が幸せなんだという原点に戻らなくては。

―子どもが回復していくために必要なことは。

 シェルターに来た子の中には「ここに来て、初めて人として話を聞いてもらえた」と話す子もいます。思春期の子どもとの向き合い方で必要なのは、「子どもの話を親が聞ききる」ことだと思います。子どもが何を考えているのか、何をしたいのか、きちんと聞いた上で親の意見を言い、一番いいと思う道を一緒に選んでいく。子どもと大人の対等なパートナーシップを築くことが大事です。私もかつては、「大人が上にいて、子どもを教育して、しつけて一人前にするものだ」と思い込んでいた親でした。でも今は、「対等なパートナーシップ」こそが、親も子どもも幸せになれるキーワードだと思っています。

 子どもをたたいちゃった、激しい言葉をぶつけちゃった…。それを「まずかった」と思わず、「当たり前」と思ったら危ない。子どもとの関係を見直してほしい。子どもの話を聞ききっていますか? 

子どもシェルターとは

虐待を受けるなどして家庭から避難してきた10代後半向けの民間施設。カリヨン子どもセンター(東京都江戸川区)のシェルターは定員男女各6人で滞在期間は平均2カ月。常駐職員が食事を提供し、専門職が心身の回復を支える。首都圏では子どもセンターてんぽ(横浜市)、子どもセンター帆希(ほまれ、千葉市)もある。

11月は児童虐待防止推進月間。虐待を防ぐため、親子を支えたり助言したりする人々から、子育てに奮闘する親たちへのメッセージを〈特集 変わりたいあなたのために〉として随時掲載します。
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