小中学校の「私費」負担、払うの当たり前? 体操着から栽培セットまで…年10数万円

(2020年2月20日付 東京新聞朝刊)
◇削減に取り組む事務職員・柳沢さんに聞く
 入学シーズンを控え、子どものランドセルや制服を購入した家庭もあるだろう。入学後は給食費や修学旅行費をはじめ、ドリルや単元テスト、連絡袋の費用まで、公立小中学校でも意外と負担が積み重なる。埼玉県川口市内の市立中学校の事務職員で、保護者負担の削減を実践してきた柳沢靖明さん(38)に保護者負担の現状と、負担を減らすためにできることを聞いた。

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公費ではなく、保護者から別途徴収

 公立小中学校の各教科の消耗品や教材など学校運営にかかる費用は公費と、保護者から別途徴収する「私費」で成り立っている。

 私費で賄っているものの例は制服や道具箱、アサガオなどの栽培キット、実験用教材、ドリル・ワークなど(上のイラスト参照)。ただ、公費と私費の線引きは財政事情などから、市町村や学校によって異なり、将来子どもの所有品になるものは私費となるケースが多い。文部科学省によると、公立小中学校に通う子どものいる保護者の年間負担額は小学生で1人約10万円、中学生で同約18万円に上る。

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書道セットも私費負担の対象

教室カーテンのクリーニング代まで

 柳沢さんは年3回、保護者向けに独自に発行する「事務室だより」で、公費や私費の使い道を報告。「保護者にも支払うお金の根拠に関心を持ってほしい」との思いからだ。

 勤務校では柳沢さんの赴任前、教室のカーテンのクリーニング代を私費でまかない、保護者から生徒1人につき年額約200円を徴収していた。だが、4年前からは洗濯機を公費で購入し、校内で洗濯している。1人1冊ずつ購入していた社会科資料集(地理、歴史、公民合わせて約2100円)は教室の大型モニターに別で用意した資料を映す方式に変え、不要になった。

 新年度からは、体育館専用シューズと上履きの2種類が必要だったのを上履きに一本化。こうした取り組みを重ね、私費を年1万円以上減らすことができた。

疑問や提案、学校評価アンケートで

 負担を減らすために保護者にできることとして、「年1回の学校評価アンケートの自由記述欄などに疑問や提案を書くのも一手」と柳沢さん。勤務校でも昨年、アンケートで柔道着の再利用の提案があり、卒業生に不要な場合は寄付を募ることなどを検討中という。

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学校事務職員の柳沢靖明さん

 ほかにも、卒業する学年の保護者がイベントなどを企画する「卒業対策委員」になった場合には、保護者から徴収する私費をなるべく減らし、お金を集めなくてもできるイベントを考えたり、学校に記念品を贈る慣習を見直したりすることもできる。

 「贈ることの多い運動場用のテントなどは、割り当てが少ないとはいえ公費で購入するのが筋」と柳沢さん。「払うのが当たり前と思っている私費も、変えられるケースがある。学校や地域の異なる保護者同士で情報交換をすると、軽減策が見つかるかもしれない」

数百円でも家計圧迫する家庭がある

 柳沢さんが負担金について考え始めたのは職員に採用され2~3年目。一定の所得に満たない家庭に支援金を支給する「就学援助」の申請で、100万円前後の所得の4人家族の父親がおり、衝撃を受けた。

 厚生労働省によると、2015年の子どもの貧困率(平均的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合)は13.9%、ひとり親世帯では半数を超える。一方、就学援助は自治体に格差があり、私費負担を賄うには不十分なケースもある。

 柳沢さんは「学校側は『数百円だから』と気軽に私費に頼りがちだが、経済状況によっては家計を圧迫する」と指摘。「義務教育は無償という憲法の理念からすれば、公立小中学校は本来、公費で運営されるべきだ」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年2月20日

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  • 匿名 says:

    部活は強制ではないのだから、入部しなければ良いだけでは?
    「最低限の支援」であり、そこに娯楽費は含まれない。

      
  • 匿名 says:

    公立・私立学校の制服は、PTA主催での制服譲り合いをやるべきと思います。中学校や高校は3年間しか使いませんし、何よりもお金がかかるそうですから。

      
  • 匿名 says:

    ここには、部活の個人負担が入っていません。ユニフォーム、個人持ちの道具(グローブ、ラケット、楽器等)部費、合宿費、遠征費、寄付等です。記事の物は、学校の事務方が一括してやっておられるようですが、部活については、顧問が行っているところが多く、監査体制も脆弱。まあ、どんぶり勘定のようなもの。先日、ある学校の顧問が旅費の不正受給、業者からの見積りの不正をして、リベートを取り、150万円の着服は判明、懲戒免職になりましたが、とにかく部活は不透明なところが多過ぎ、不正がやりやすいブラックボックス状態、きちんんとと調査して、膿を出して透明化するべき。

      
  • 匿名 says:

    柳澤さん、素晴らしいお仕事をしていらっしゃいますね。感動しています。同感です。きちんと現場でできることを工夫して実行していらっしゃるところが素晴らしいと思います。
    私は、子供たちが学校に通っていた何十年も前から、不必要な私費による出費を当たり前とする学校に対して、折に触れては発言したり仲間内でなげいたりしていましたが、現実を変える力が不足していました。特に、算数セット、柔道着、体育館シューズなどおかしいと思っておりました。当時は、たとえ経済的に余裕があって払えたとしても、勿体ないではないかという思いが強かったです。
    現在は経済的ハンディがある中学生高校生の学習支援に携わっていていっそうこの問題に敏感になりました。部活の試合の交通費が出せないといって困っていたり、ディズニーランドへの遠足代どうしようという訴えを中学生から聞くことがままあります。どうもこういうことに対しての鈍感さが学校現場にあると感じていたので事務職の方のこういう動きが注目されることはとても大切だと思いました。
    記事にしていただいてありがとうございます。

      
  • 匿名 says:

    そもそも10万も集めていることに驚きです。自分自身の勤務先の公立小学校は、そんなに集めていません。一年生はランドセルなどかかりますが、ランドセルだけを推奨してはいません。体操服も幼稚園の時の色と同じなので、着られなくなったら買おうね、1番かかる6年生も修学旅行2万、卒業アルバムが1万、あとは、年間で1万円程度。他学年は、同じように年間で1万円程度です。給食費は、毎月4400円。入会している方は、PTA会費、月250円です。

      
  • 匿名 says:

    一同業者(小学校勤務)の感想。

    学校においては年度始めに予算が与えられ、大まかな年間執行計画を立てる。それと同時期に、各学年が使用する教材・教具に関する会議を開く。
    この会議では採択の是非の他、支出の公私区分についても検討が加えられた後、学校長が決定する。「受益者負担」の考え方が広く行き渡っていて、記事にあるように児童・生徒が持ち帰るような教材は、保護者負担とするケースが多い。理科の豆電球セット等がこれに該当する。

    公費で支出できるものは公費で、という考え方には賛同するし、私自身も可能な限り配慮を続けてきた。
    ただし記事の事例においては、私費を削減すること自体が目的化している側面があると思う。公費負担にしても子どもが享受できる内容が全く変わらなければ問題は無いだろう。
    しかし教師が思い描く形での授業が不可能となったり、子どもの知的好奇心をくすぐるような教材を手元から奪う可能性があるという視点が欠落しているのではないか。

    たしかに教師が採択したい教材を調達できなくても授業はできる。ただし授業者のモチベーション維持も含めて、質がきちんと確保できるかという検討はされているのか。
    また社会科の資料集や地図帳等は、子どもに地域社会や世界、歴史や世の中の動きに関心をもつきっかけを与える場合が多い。私費削減と引き換えに、子どもたちが思い立ったときに資料を閲覧できないのは長い目で見れば損失の方が多いのではないか。

    最後に指摘しておきたいのは、学校毎に公私区分が大きく違っていること自体がおかしいということだ。
    本来は自治体単位で統一的な方針があるべきではないか。学校によって保護者から徴収したりしなかったりするのは間違っているはずだからだ。

      

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