「口演童話」の名人芸、半世紀ぶりに復活 出村孝雄さんの優しい語り 童話動画サイト「ペケロンパ」でどうぞ

子育て世代がつながる
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出村孝雄さんと小学生のころの亜佐子さん

 半世紀近く前にカセットテープに録音されていた童話作家による読み聞かせが、今の親子も楽しめる動画作品として生まれ変わった。読み聞かせの声の主は、故・出村孝雄さん=2001年、93歳で死去=。孫の出村亜佐子さん(47)が代表を務める東京のWeb制作会社「Bit Beans(ビットビーンズ)」が5月、出村さんの語りと、イラスト動画を組み合わせた作品を集めたWebサイト「子どもと暮らそう ペケロンパ」を公開した。亜佐子さんは「新型コロナウイルスの感染防止のために外に出にくい小さな子どもがいる家庭や、施設などで活用してほしい」と願っている。
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「子どもと暮らそう ペケロンパ」のサイトから

「では、お話をしましょうね」イラスト動画つき

 「では、お話をしましょうね。山の上に動物の幼稚園がたちましたよ」

 出村さんの作品の一つ「てんぐ風」は、幼稚園に通う動物たちと、そこに強風を吹かせる山のてんぐとの物語。クマの子やトラの子が力ずくでは止められなかったてんぐの行動を、優しくアプローチしたウサギの子が上手に解決していく。出村さんは登場するキャラクターをときにユーモラスに演じ分ける。サイトでは、お話に合わせたイラスト動画を見ながら15分ほどの物語を楽しむことができる。

ラジオで活躍 1972年に語りのカセット発売

 出村さんは1908年に知多半島の篠島で生まれた。愛知県第一師範学校を卒業後、教員となり、仕事の傍ら、創作した童話を子どもに語り聞かせる「口演童話」を始めた。口演童話は「日本のアンデルセン」と呼ばれた久留島武彦氏(1874~1960年)らが、明治の中ごろに提唱した素話の話芸だ。生きていく上で大切な心構えを物語で伝える、という教育的要素が強く、学校などで演じられた。出村さんも久留島氏の影響を受け、小学校を飛び込みで訪れるなど、自作を子どもたちに語り聞かせる活動をしていたという。

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名古屋市内の幼稚園で子どもたちの前で「口演童話」を披露する出村孝雄さん(1996年撮影)

 戦後になると、日本初の民間放送局として1951年に開局した中部日本放送(現CBC)のラジオ番組「お話横丁」にも出演し、多くの子どもたちにお話を届けた。その後、1972年には語りを収めた「はなしのおもちゃばこ」というカセット集も同社の子会社から発売された。

孫の亜佐子さん 息子が生まれ、思い出した声

 亜佐子さんも就学前の時期、出村さんの語りを聞きながら育った。「例えば『ももたろう』も同じ内容であることはなくて、5分の日もあれば30分の日も。目の前に登場人物が現れるような臨場感があって、同じお話でもそのときどきにバリエーションを加えながら話すのが祖父のお話だった」と振り返る。「祖父が作った物語は、悪い者はこらしめられ、改心した人にはいいことがある。予定調和ではあるけれど、おおらかで優しい心をお話にのせて届けていたと感じます」

出村孝雄さんと、孫の出村亜佐子さん

 成長とともに祖父の物語への興味は薄れていたが、あらためて祖父の本や語りのことを思い起こしたのは、15年前に息子が生まれたのがきっかけだ。本を取り寄せて息子にも読み聞かせながら、「価値観が複雑になっている時代に、正義のありようなどをまっすぐに伝える物語が新鮮に感じられた」という。

コロナ禍の今だからこそ、祖父のお話を届けたい

 コロナ禍により不安が高まった今年4月、亜佐子さんは「なんとなく人に対して攻撃的になってしまいがちな今、世の中にもう一度祖父のお話を届けたい」と思い立った。社内でこの話をすると、社員から「自分たちが制作したものでだれかを元気づけられるなら」と賛同する声が多く出た。

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 亜佐子さんは10年ほど前に「はなしのおもちゃばこ」の音源をデジタル化していた。この音源を使い、同社のデザイナーやイラストレーターの絵とともに伝える作品を作ることになった。CBCラジオも趣旨に賛同し、音源の使用を許可した。手始めに「さるまねのサルキチ」「金のすず」など7作品を作り上げ、3週間ほどで公開を始めた。

 出村さん自身の語りが残っている作品は12本。これらを含めて約30の読み聞かせ作品があり、今後順次公開していく予定だ。俳優の温水洋一さんや山本圭祐さんなどが音声を担当した作品もある。

子どもが引き込まれているのが、音声でわかる

 出村さんが会長を務めた名古屋童話協会のメンバー安井伸二さん(72)は、「出村先生は子どもたちの前で語るときは背広にネクタイ姿で立っていた。品があって、格調高い語りだった」と振り返る。「懐かしい語りをもう一度、知ってもらえるのはとてもうれしい」と「ペケロンパ」の開設を喜ぶ。

 出村さんが幼稚園で作品を語ったときの音声を聞くと、子どもたちが、笑ったり、かけ声をかけたりと物語に引き込まれている様子が伝わってくる。亜佐子さんは、「動画を見て楽しんでもらうことはもちろんですが、物語を語り聞かせることで子どもを笑顔にすることは、大人の幸せでもある、ということをあらためて感じてもらいたい」と話している。

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