「重い障害があっても学校に通う権利を」医療的ケア児の通学支援はまだまだ困難 自治体は国に財政支援を要望

五十住和樹 (2022年11月18日付 東京新聞朝刊)

看護師らに付き添われて下校の車を降りる鈴木優希さん=横浜市で

 人工呼吸器などを日常的に使用する医療的ケア児(医ケア児)の通学支援に取り組む自治体が、少しずつ増え始めた。国や自治体が医ケア児や家族を支援する責務を明記した支援法が施行されて1年余り。支援を望む人は多いが、コロナ禍で看護師を確保しづらい状況が続くなど難題も多い。自治体からは国による財政支援や人材育成が必要との声が出ている。 

横浜では約7割が保護者の車で登下校

 「おかえり。今日はどうだった?」。10月中旬、横浜市の自宅前で、ストレッチャーに乗ってワゴン車から降りる鈴木優希さん(16)を、母親の妙佳子(たかこ)さん(46)が出迎えた。優希さんは人工呼吸器や胃ろうを装着した医ケア児で、特別支援学校に通う高校1年生。現在は登校と下校で週2日ずつ計4回、市のモデル事業として通学支援を受けている。

 市内の福祉事業所のワゴン車に看護師が同乗し、片道約15分の登下校を見守る。支援がない時は妙佳子さんが車で送り迎えしているが、通学支援を受ける日は空き時間ができるという。「いってらっしゃいと送り出されて学校に向かう息子が誇らしい」と妙佳子さんは話す。

 実施までに入念な準備を重ねた。同乗する看護師と学校、保護者の間で体調管理などの引き継ぎを毎回行い、連絡を密にした。体調急変や事故など不測の事態に備え、オリジナルのマニュアルも作成。関わってきた障害児の在宅支援をする認定NPO法人フローレンス(東京)の担当者は「医ケア児1人に4人の看護師が交代でつく。情報共有にも力を入れた」と言う。

 看護師の平田葉子さん(29)は2021年9月から、優希さんの自宅を訪問し、ケアと発達支援を担当してきた。乗車時は身体に酸素がいきわたっているかをみるモニターや呼吸器の状態を常にチェック。「学校に行くことが彼の成長につながる」とやりがいを話す。

 横浜市は「保護者のニーズが高い」と2019年からモデル事業を始め、毎年通学支援の車を増やしてきた。本年度は20台分、約1億3000万円の予算を計上。それでも、個別のケアが必要でスクールバスに乗れない小学生から高校生の医ケア児54人のうち、約7割に当たる39人は保護者の自家用車で登下校する。

需要は高いが…看護師の確保が難しい

 医ケア児支援に自治体の責務を課した法律が昨年9月に施行されたことも、自治体の背を押しているようだ。名古屋市は今年4月から、市立学校の医ケア児を対象に、登下校時に看護師が同乗した介護タクシーを出す通学支援事業を始めた。年間で24日の利用が可能だが、使えるのは保護者の体調不良などの緊急時に限られる。

 法施行前から取り組む自治体では、滋賀県が2020年度から通学支援を開始。目的は毎日送迎する保護者の負担軽減で、片道1回として利用は年間10回までだ。2018年に制度を始めた東京都は、昨年3月時点で72台、約130人の登下校を支援。都の非常勤看護師が事業者の車に乗る形が大半といい、予算額は他をしのぐ約13億5000万円に上るが、それでも20人を超す待機者がいるという。

 看護師を派遣する事業者からは「通学支援だけで事業が成り立つような報酬の設定が必要」との声が上がる。コロナ禍で看護師の確保は厳しさを増す。医ケア児を送迎できる車の手配も難しい。横浜市の担当課長の藤原啓子さんは「通学の支援を求める医ケア児は全国にいる。財政支援や人材育成も含め、国が持続可能な制度設計をする必要がある」と話す。

 冒頭の鈴木妙佳子さんは願う。「どんな重い障害があっても、学校に通う権利を保障してほしい」

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