「こどものまち」へようこそ 主役は僕たち、私たち! 働いて遊んで楽しく成長

 「こどものまち」を知っていますか? 子どもたちが、自ら運営する仮想のまちで働き、遊びながら社会の仕組みを学ぶプログラムで、1979年の国際児童年にドイツ・ミュンヘンで行われた「ミニ・ミュンヘン」が発祥とされています。首都圏では東京、横浜、千葉などで開かれており、子どもたちにとって「社会の仕組みを知るきっかけになる」「多角的に物事を見られるようになる」という効果があるようです。

川崎市で開かれた「ミニカワサキ」

アルバイトで「お金」を稼ぎ、続々に「起業」 

 「子ども服売ってます」「市長選の投票は3時までです」「スタンプラリーはいかがですか」

 10月7、8の両日、川崎市内で初めての「ミニカワサキ」が開かれました。市内在住の小学生28人が運営スタッフとして1カ月半かけて準備。2日間でのべ350人が参加しました。

小さな子(手前右)もカフェの店員に

 子どもたちは受付で参加費500円を払って市民証を受け取り、まずはアルバイトをしてお金を稼ぎます。おしごとセンターで「リースショップ」「ゴミステーション」など好きな仕事を選び、30分働くと独自紙幣の「50ミニK」がもらえます。これを使ってカフェで飲食物を買ったり、タクシーに乗ったり、工作のワークショップに参加したり。スタッフ以外の子どもたちも「ペタペタ(シール)やさん」「しゃてきや」などを続々と起業しました。

独自紙幣「ミニK」をデザインしたのも子どもたち

 市長選挙も行われ、3人の候補の演説を聞き、本物の記載台と投票箱を使って投票。2日目は、市長、副市長、議長に選ばれた3人が中心となり、頑張ったお店の表彰制度を設けるなど、住んで楽しいまちづくりにアイデアを出し合いました。

本物の記載台と投票箱を使って市長選挙

きっかけは「自己肯定感が低い子ども」への危機感

 「ミニカワサキ」の実行委員長は、まちづくりコンサルタントで一児の父でもある安藤哲也さん(35)。学校や塾の先生以外の大人との接点がなく、自己肯定感が低いとされる子どもたちの現状に危機感を抱いていました。3月末、横浜市内で開かれた「ミニヨコハマシティ」を見学に行き、同じような思いを持った川崎市内の母親たちと出会います。「自分たちの住む川崎でもやってみたい」。それぞれが知り合いに声をかけ、主婦、学生、看護師、一級建築士など多彩な顔ぶれで6月半ばに実行委員会を立ち上げました。コンセプトは「本気で遊ぶ、本気で支える、本気で信じる」。会場費や設営費などの運営費の一部はクラウドファンディングでまかないました。

「子どもたちを信じることが大事」と実行委員長の安藤哲也さん

 8月下旬から開催前日までの計4回、こども実行委員(運営スタッフ)で会議を開き、こどものまちの仕組みを学んで自分たちでやりたいことを決めました。募集は高校生まででしたが、集まった28人は全員が小学生だったため、大人からは「低学年の子にグループワークは難しいのでは」「『まち』という漠然としたテーマが理解できるか」と不安の声も上がったといいます。

大人は口出し禁止 一歩引いて議論を見守ろう

 でも、「どんなまちが好き?」「まちにはどんなものがある?」といったワークショップ形式の会議で、次々と意見を出し、高学年の子が低学年の子をフォローする姿に大人たちは「子どもは想像以上にいろんなことができる」「一歩引いて待ってあげればいいんだ」ということに気付いていきました。ミニヨコハマシティを経験した小中高校生10数人も応援に駆けつけ、後輩たちをサポートしました。

 「大人は口出し禁止」という、こどものまちに共通する大原則に基づき、「距離感に悩みながらも子どもを信じる大切さを学び、大人も一緒に育つことができた」。安藤さんは来年以降への手応えも感じています。

首都圏各地で増えてます!多様な「こどものまち」

 川崎以外にも各地で取り組まれているこどものまち。参加する子どもが受け付けで市民証をもらい、仕事をして独自通貨のお金を稼いで遊んだり食べたり、という基本的な仕組みは同じです。続けていくうちに、オリジナルキャラクターが誕生したり、職業案内所にインターネットが導入されたりと、子どもたちの発案で新たな取り組みが生まれているところもあります。

今年3月、ミニヨコハマシティの射的屋で遊ぶ子どもたち

 首都圏の主なこどものまちを紹介します。

  • ミニさくら…千葉県佐倉市の中志津中央商店街を会場に、2002年から毎年春休みの3~4日間開かれている。日本版「こどものまち」の先駆け。参加対象は幼児~18歳。子どもの健全育成に関心のある市民らでつくるNPOが主催。
  • ミニいちかわ…千葉県市川市内の2カ所で2003年から毎年秋に計4日間開催。4~18歳の子どもたち延べ約4000人が参加する「あそびのまち」。同市内のNPO法人が主催、子どもの参画やコミュニケーション力を育む事を目的に、約550人のボランティアが協力する。
  • ミニたまゆり…川崎市の田園調布学園大の教職員、学生が、地域住民とともに企画し2005年にスタート。参加対象は5~15歳。遊園地やケーブルテレビ局など地元企業の協力を得て、子どもたちの「職業選択」の幅が広がっている。
  • ピノキオプロジェクト…千葉県柏市のつくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅前で、2007年から毎年秋に開催。参加対象は小学生。地元のまちづくり団体や商業施設でつくる実行委員会が主催するが、実際の運営はプロジェクトで育った高校生や大学生らによるボランティアが担う。
  • ミニヨコハマシティ…こどものまちを横浜市内で実践しようと、まちづくり研究者や市職員、学生らが集まり設立したNPOが、都筑区で2007年から毎年3月に開催。参加対象は幼児~19歳。各地に取り組みを広げようと、運営マニュアルや段ボールの店舗組み立てキットなどをセットにした「まちのモト」トランクを開発、ノウハウも伝えている。

子どもが得るものは?「街の一員としての自覚が生まれます」

 ミニヨコハマシティに立ち上げ当初から関わるNPO法人ミニシティ・プラス事務局長の岩室晶子さんは、「何年か続けている子どもたちは、臨機応変に忙しそうなブースを手伝うなどいろいろな角度から物事を見られるようになる」と言います。

「大人が思い付かない職業が生まれることも」とミニヨコハマシティの岩室晶子さん

 「街中の看板の美しさ、見やすさに目が行くようになった」「お店は売る人と買う人がいてこそ成り立つことが分かった」といった感想も聞かれるそうで、街の一員としての自覚が生まれる効果も感じているとのこと。自分たちの街でも開きたい大人たちには「実際のこどものまちを見学して、イメージを膨らませてみて。ミニヨコハマシティにボランティアとして参加もできます」と呼び掛けています。