意思に反して声や体が… トゥレット症とチック症の苦しみを知ってほしい 当事者が情報発信しています

河野紀子 (2023年11月29日付 東京新聞朝刊)
 「あっ」「うっ」などと声を出す、まばたきや首振りを繰り返す-。主に幼児期に症状が現れ、自分の意思に反して声が出たり体が動いたりする「チック症」。多くは自然になくなるが、長期的に続く場合は「トゥレット症」と診断される。認知度が低く、周囲の無理解や偏見から日常生活に支障が出ることも。正しく理解してもらおうと、当事者団体がインターネットなどで積極的に情報を発信している。

表 音声チックと運動チックの主な症状

子どものチック症は5~10人に1人

 チック症は、急に声を出すといった「音声チック」と、肩をすくめるといった「運動チック」がある。音声と運動の両方にまたがるさまざまな症状が1年以上続く場合は、トゥレット症と診断される。

 奈良県立医科大精神医学講座教授の岡田俊さん(51)によると、チック症は、子どもの5~10人に1人に一時的にみられるありふれた症状だ。

 一方、トゥレット症の場合は、症状が良くなったり悪くなったりしながら長期的に続く。大人になって収まる人が多いとされるが、より症状が強まる人もいる。トゥレット症になるのは、1000人あたり3~8人と推計される。

 トゥレット症の原因は、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の作用が強く出やすい体質であると考えられているが、詳しいことは分かっていない。

「ストレス」は誤解 治療は薬で

 治療は薬物療法が中心だ。統合失調症の薬はドーパミンの働きを整える作用があり、トゥレット症にも効果があると分かっている。症状が出る前に前兆がある場合、対抗するような動きをすることで、症状を緩和する行動療法もある。例えば、声が出そうならゆっくりと呼吸する、手が動きそうなら逆の手で押さえる、跳び上がりそうなら足を浮かせるといった方法だ。

 症状を自分で止められる、心理的ストレスが原因…。そんな誤解がトゥレット症に関しては多い。「本人と家族が病気を正しく理解して向き合い方を学ぶことはとても重要」と岡田さん。治療しても、症状が残ることが多く、周囲に病気への理解と必要な支援を求めることも大切だという。

 正しく理解してもらうため、当事者も動き出した。神奈川県の谷謙太朗さん(44)は2019年、「トゥレット当事者会」を設立。ホームページやYouTubeなどで病気の詳しい情報を発信している。

12月16日に東京都内で当事者会

 谷さん自身もトゥレット症に悩んできた一人だ。「なるべく迷惑にならないよう気を付けていても、症状が出て変な目でジロジロ見られたり、わざとやっているのかと怒られたりするのはつらい。病気が原因と多くの人に知ってもらえたら」と話す。

 当事者や保護者がつながるため、SNSのFacebookなどでコミュニティーをつくり、実際に会う交流会も全国各地で開く。コロナ禍でオンライン開催が続いたが、少しずつ対面を再開。12月16日には東京で開く。参加無料。トゥレット当事者会のホームページから申し込む。

トゥレット症を公表しているウーバー配達員・棈松さん 事前説明と笑顔で高評価

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ウーバーイーツの配達員として働く棈松怜音さん。配達では笑顔を心掛けている=名古屋市内で

小学校で発症 汚言症も

 名古屋市の棈松怜音(あべまつれおん)さん(29)は、小学校低学年のときに発症した。まばたきや首振りなどの症状に悩まされた。

 中学生のころから、どんどん悪化。「死ね、死ね」「うるさい」など、言ってはいけない言葉が出てしまう汚言(おげん)症も。いまも15秒に1回ほどの頻度で症状が出る。

 特に静かな場所は苦手だ。電車の中や飲食店など人が多い場所では、「静かにして」と注意されることも。「迷惑そうににらまれる、症状をまねして笑われることはしょっちゅうある」と話す。

配達の前にメールで説明

 運転に支障はないため、4年前からバイクに乗り、ウーバーイーツ配達員として働く。「病気があり身体の動きや声が出てしまう事がありますが許していただけると幸いです」。配達が決まると、届ける相手に事前に送るメールで説明している。当初は伝えておらず、けげんな顔をされることがあったためだ。配達では常に笑顔を心掛け、受け取った人からは高評価が付くようになった。

 トゥレット症の患者の中には、症状に悩み外出をためらう人もいる。棈松さんはメディアの取材を受け、自身のSNSで動画を公開。依頼を受けて小学校で出前授業もしている。「チック症、トゥレット症という病気があること、苦しむ当事者がいることを知ってほしい」と力を込める。

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