強制PTAを変えるには 品川区立小で「泣きながらやった」広報委員長も 古参メンバーがウェブ導入を拒み…

 PTAは、強制ではなく保護者が参加したいと思える団体へと改革が進む一方で、古いままのところも少なくない。東京都品川区の自営業の30代男性は「くじ引き」で広報委員長に選ばれた。「ボランティアとは言いがたい仕事量をなんとかしたい」と、広報紙のオンライン化を提案したが、古参メンバーの反感を買い、諦めた。「前例踏襲」主義の組織を変えるには―。

「誰も苦しまないPTAにしたかった」と話す男性

楽しいボランティアを想像していたが… 

 長女が区立小学校に通う男性は「親として学校を支えたい」と、PTAに参加してきた。保育園の時に、保護者が有志でバザーやピクニックを企画して楽しかった思い出もあり、小学校のPTAにも希望を持っていた。

 昨年、委員の選出で「来年は受験生なので、今年やらせてください」と必死に訴える保護者を見かけた。「早めに経験しておかないといけないのか」と感じ、今年4月、クラスの広報委員に立候補した。

入学時に配られたPTA案内のプリントには「保護者全員にご加入いただき」と事実上の強制加入

 全委員が集まる会合の日。家族の用事で欠席したが、役員から電話で知らされた。「くじ引きで委員長に選ばれました」。そのときは、広報委員長がどんな役割なのか、ピンとこなかった。

 前年度の委員長に聞くと、教職員紹介や行事の思い出を振り返る冊子作りが委員会の仕事。委員長は、紙面の構成や学校へ写真掲載の許可取り、印刷業者への発注など、取材以外の編集にかかる業務を全て担っていた。

 冊子は1学期16ページ、2~3学期は8ページずつ。広告印刷の仕事をしたことのある男性には、このページ数がどれだけ大変か想像できた。歴代の委員長に話を聞くと、「こんなに悪いことがあったのだから、この先きっといいことがあるはず」と言い聞かせて耐えた人や「今までの委員長がやってきたのに、私だけできないのはおかしいのかと泣きながらやった」という人もいた。

 「PTAはボランティアなのに、こんな苦しい作業を毎年、委員長1人に押しつけるのはおかしい」。

捨てていた広報紙なのに「なくさないで」

 外注を考え、3社と打ち合わせしたが、予算や依頼内容からいずれも断られた。紙の冊子ではなく、オンライン化すればノウハウのある男性なら2時間でできる。委員にネット記事の作成を1本ずつ割り振ることもできるようになる。だが、広報委員25人のうち、賛成は半数ほどだった。

 男性は、他委員会のメンバーにも提案するため、広報紙の業務が委員長に偏っていることや、オンライン化のメリット・デメリット、他校のオンライン化の事例などを調べて資料にまとめた。役員や他委員会から、事前に寄せられた質問の回答集も準備した。

 こうした資料作りは、子ども2人を寝かしつけた後、夜な夜な取りかかった。長女は、連日の寝不足に気づいたのか「私がこの学校に入っちゃったからだよね、ごめんね」と謝ったという。

 5月の委員会で提案すると、長くPTA役員を務める他委員会のメンバーは「初めは今までと同じ活動をしてみて改善点を見つけ、次に委員会で提案して話し合い、変更するという段階を踏む必要があると思う」「冊子ができない理由を探しているようだ」などと、厳しく批判した。

 反対派の保護者からは「紙の冊子だったので目を通したけれど、わざわざパソコンを開いてまで見ない」「正直、子どもの写真が載っていないのなら捨てていた。捨てる必要がないのなら、後で暇な時に見ようと思って、見ずに終わりそう」という声まで挙がった。

 サンプルとしてウェブサイトを試作してみるも、役員からたくさんの注文がきた。一件一件質問に答えていたが、「越えられない壁だ」と嫌気が差した男性は、PTAを辞めることにした。

教育委員会から各学校に任意と周知へ

 同時に、組織の中から改革できないのなら、外部から声を掛けてもらえないかと、男性は区教育委員会に陳情を出した。

 陳情書では、加入自由の任意団体にもかかわらず、入学時に加入の意思を聞かれる機会はなく「保護者全員にご加入いただき、ご協力いただいております」と書かれたプリントが校長名で配られている「事実上の強制加入」という実態を説明。会費は、給食費と同じ口座から一括引き落としされていることなどを挙げ、区教委から学校へ改善を呼びかけるよう求めた。

陳情を審議する教育委員会

 6月、陳情について話し合われた教育委員会では、各委員から「広報委員会は本当に大変で、私も2年かけて広報紙を廃止した経験がある」「変化させずにやり過ごした方が楽な中、内部からの改革は本当に大変」「教育委員会も学校もサポートすべきだ」などと前向きな意見が出たが、「法令上、教育委員会の立場からは対応しがたい」として全員一致の不採択となった。

 事務局は、9月の校長連絡会で、PTAは任意加入であることや、保護者を取り巻く環境は変わってきていることから情報収集に努め、保護者や地域とよりよい関係を築くよう周知したという。

古参メンバーの抵抗はPTAあるある

 PTA問題に詳しいライターの大塚玲子さんは、「かなり手を尽くされたと思う。保護者や校長との巡り合わせで、たまたま変えられなかっただけで、提案は無駄だったとは思わないでほしい。低学年の親が聞いていて、何年後かに取り組んでくれることもある」と話す。

大塚玲子さん著「さよなら、理不尽PTA!」(辰巳出版)

 その上で、アンケートを提案する。全会員にオンライン化の是非を聞くと、会議の場では存在感が大きい古参メンバーの意見が少数派だったということもある。ただ、そのアンケートすら、反対されて実施できないケースもあるという。

 広報紙にかかるお金の視点から、「PTA予算を見直してみませんか」と提案する切り口もある。おそらく予算の中で、突出する経費は広報紙。アンケートで予算削減の希望を聞く中で、オンライン化すればこれくらい安く済ませられると投げかける方法もある。

 大塚さんのもとには、「無駄だと思う活動をやめるよう提案したが、却下された」という保護者の声が数多く届く。「前例踏襲」になりやすい背景には、役員が1年から数年ごとに代わるため、「新しいやり方にたどり着けないまま、とりあえず前年のように」活動することを繰り返しがちな現状がある。そして、だんだんと何のためにその活動を行っているのかを見失うため、目的の再考と活動の絞り込みを勧める。

 大塚さんは著書の中で「理不尽なPTA」になっていないか、チェック項目を10個掲げている。

 

非会員でも学校に健全化の提案を 

 「抵抗勢力」がいる中、千葉県松戸市の小学校でPTA改革を進めた元会長の竹内幸枝さんは、「中から変えていくには仲間をつくりながらなので、1年では難しい」と話す。竹内さんは、男性の学校の広報紙について「学校行事の報告は、PTAではなく学校の仕事ではないか。誰に向けての広報紙なのか、委員同士で考えた方がいい」と指摘する。

 竹内さんは、ポイント制廃止の提案と同時にアンケートを取った。ポイント制とは、PTA活動をしてポイントをためないと、6年生で卒業記念品の選定や謝恩会の企画などを担う「卒業対策委員会」をやることになるという暗黙のルールのこと。結果、6割以上が反対だった。「ポイントをためるために努力してきたのにずるい」という意見もあったが、多くは「ポイント制がきっかけでPTA活動をしたら、案外楽しかったから」という前向きな声だった。

 ポイント制をなくすことに「あなたは私を否定しているのよ!」と怒る役員もいたが、「ポイント制をきっかけとしなくても、参加したいと思える組織に変えていきましょう」と呼びかけ、説明会を重ねて廃止した。議論の足掛かりとして、回答には必ず理由を書き添えてもらうなど、設問の工夫が重要という。

 広報紙のオンライン化も、男性の学校のように「紙で見たい」「ネットリテラシーが低い人が扱うことになる」と反対意見が出た。紙が欲しい人はプリントアウトすればいいし、任意参加なので、ネットリテラシーが高くやりたい人が配信すればいい。初年度は、紙での発信も残したが、希望者は5、6人にとどまり、次第にいなくなった。

 竹内さんは現在、長男の高校のPTAには入らず、校長先生宛てに「学校に提出した生徒と保護者の情報をPTAに渡すと、個人情報保護法違反になるのでやめてほしい」と手紙を出した。「そうすると、PTAは必然的に入会届を作って入会の意思を聞かないと、会員情報が把握できなくなる」と竹内さん。いち保護者としてPTA健全化を進めている。

編集後記

 大塚さんや竹内さんによると、男性の学校は、(1)事実上の強制加入(2)学校に提出した口座からの会費引き落とし(3)くじ引きでの委員選出ーなど、「ブラックPTAの典型」だそう。男性はPTAを退会したが、コミュニティスクールのボランティアとして、絵本読み聞かせや畑の管理など、学校支援にたずさわっている。「のびのびとした平和な活動で、PTAにかかわっていた地獄のような日々はなんだったのだろう」と話す。仕事と両立できる範囲で、楽しんで学校を支えたいという純粋な思いがつぶされるPTAとは、一体誰のための活動なのだろう。

コメント

  • PTAはやりたい人だけでやれば良い。やりたくない人を巻き込むことがトラブルに繋がる。 「すくすく」の他の記事でも示されているが、使途不明金の発生などは論外として、上記の類いのトラブルはどこでも起
    元教員(高校) --- --- 
  • 女性の社会進出、夫婦共働きという時代に取り残された組織。
     --- ---