おしりを鍛えて疲れない体になろう 鉄人・鳥谷敬さんが解説 歩き方が大切です〈アディショナルタイム〉

谷野哲郎
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鳥谷敬さん

コラム「アディショナルタイム」

 阪神、ロッテで活躍した元プロ野球選手・鳥谷敬さん(41)が自身のトレーニング法を記した『疲れない体と不屈のメンタル』(PHP研究所)を発売しました。鳥谷さんといえば、プロ野球歴代2位の1939試合連続出場を誇る鉄人。今回はそんな鳥谷さんに本の内容に沿って、親世代、子世代、どちらにも役立つ体づくりのヒントを聞きました。キーポイントは「おしり」。鳥谷流のトレーニングで子どもに自慢できるシャープな体をつくってみませんか。

体は、おしりでつくられる

 鳥谷さんは2004年に阪神に入団して以来、21年にロッテで引退するまで、18年間プレーしました。けがに強く、「鉄人」と呼ばれたほど、試合を休まなかったのですが、現役時代に最も気にしていたのが、体のバランスだったそうです。

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阪神時代の鳥谷さん

 「プロ野球って年間143試合あるのですが、それだけやっていると、必ずどこかバランスが悪くなって、けがをしやすくなるんです。グラウンドに立ち続けるためにはどうしたらいいのだろうって、いつも考えていました」

 観察して推測し、自分で答えを導き出す理論派で知られる鳥谷さん。たどり着いた答えが「おしりを鍛えること」でした。

-なぜ、おしりだったんですか?

 「選手は疲れてくると、太ももやハムストリングス(太ももの裏)などを肉離れしやすくなるのですが、あるとき、おしりの肉離れって聞いたことがないなと気付いたんです。全身の筋肉の70%くらいは下半身に集中しているのですが、中でも一番大きな筋肉であるおしりに着目してから、体づくりが変わったんです」

-もう少し詳しく教えてください。

 「そうですね。例えば、ムチをイメージしてください。手で持っている太い部分がおしり。ここを支点として動かせば、ムチの先は自然にピュッとしなりますよね。それと同じです。臀部(でんぶ)の筋肉を鍛えれば、足の先まで力が伝わりやすくなって、疲れないで同じパフォーマンスを出せる。結果、ひざや足首の負担を減らすことができたんです」

-疲れないことは体づくりに重要なのですか?

 「はい。だから、バランスを気にします。自分が体のメンテナンスをするとき、一番やっていたのは軽いジョギングとか走ることでした。そうして『こちら側のももの筋肉が張るのは、ここが疲れているからだ』と、体のあちこちを確かめていくのです。そのとき、おしりを中心に動けたら、すごく体がうまく使えることがわかったんです」

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自著「疲れない体と不屈のメンタル」について話す鳥谷さん=江東区豊洲のPHP研究所で

-だから、現役時代からバランスの良いシャープな体形だったのですね。

 「知ってますか? 足が速い人ってみんな同じような体形をしているんです。阪神の赤星(憲広)さんとか、巨人の鈴木(尚広)さんとか、糸井(嘉男)くんとか、体の大小はありますが、みんな筋肉の付き方が同じなんです。でも、赤星さんが特別な走塁練習をしているのを見たことがなくて…。ということは、日常生活でしっかりとした歩き方をして、しっかりとした筋肉を付けているから、足が速いんだと思ったんです」

-おしりを鍛えると、われわれもシャープな体になれますか?

 「もちろんです。おしりを使った歩き方を普段からやっていけば、お腹もポッコリすることはないですし、日常生活をしているだけでしっかり(脂肪を)燃焼してくれるようになります。皆さん、ボディービルダーみたいな体を目指しているのではなく、細マッチョのようなシャープな体になりたいと思っているはず。自分と同じ30~40代の親世代の方にフィットする考え方だと思いますよ」

足が先に出ないように歩く

 ゴムチューブを使ったり、バランスボールを使ったり、著書には鳥谷さんがお勧めするトレーニング法が何種類も書かれていますが、おしりを使った、とっておきのトレーニング法を教えてくれました。

 やり方はとても簡単です。垂直に立った状態で、すっと前に重心を傾けて歩くだけ。すると、自然に足が前に出てきます。これがおしりを鍛える歩き方なのだそうです。

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 「普通に歩いたら、ほとんどの人が体より先に足が出るんですね。でも、それでは、必ず太ももで動かさないといけなくなり、疲れるんです。例えば、階段をイメージしてください。上るときに、皆さん、足から上ると思いますが、そうではなく、前に重心を掛けてください。勝手に足が上がっていきますから」

 鳥谷さんが例に挙げたのは、球界のレジェンド・イチローさんでした。「見たことありませんか? イチローさんも走るときに同じやり方をしているんです。足が速い人って、上体が先にあって、足が遅れてくるんです」

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体を一直線にして、きれいなフォームで走る現役時代のイチローさん

 注意する点は、肩、背中、腰、ひざ、足首のラインを一直線にすること。これならおしりの反発で動けるので、歩くスピードも速く、疲れにくくなり、一石二鳥だそうです。

 歩くという動作は、足を前に踏み出すことから始まる。そう理解している人が多いと思いますが、鳥谷さんによると、「それでは体が後ろに残ることになります。そうではなく、おしりの筋肉を意識して、体を先に出せばいいんです」。

大きな筋肉を使うと疲れない

 「難しく考える必要はない」と鳥谷さんは続けます。

 「そもそも、人はみんな、小さい頃はそうやって歩いていたんですよ。子どもが何かにつかまって、歩き始めたとき、よく、つまずいて前に転びますよね。あれは上体を前に傾けて、重心運動で歩いているからです。小さい頃は自然にできていたのに、体を鍛えるにつれて失っていくものもあるんです。だから、この歩き方は、鍛えるのではなく、元々持っているものを取り戻すと言った方が正しいかもしれませんね」

 理にかなった説明の数々に、インタビュー中は「確かに」「なるほど」と何度も感心してしまいました。

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胸を意識して送球する鳥谷さん

 鳥谷さんは少年野球に励む子どもたちにも貴重なアドバイスをしてくれました。

 「下半身はおしりを中心に動かす。これは力が一番入りやすいからですが、何より疲れないで練習できることがいい。少ない力で同じパフォーマンスができれば、けがをしなくなりますから。これは野球をやる子どもたちにぜひ気付いてほしいことです」

 「ちなみに、投げるときも同じで、胸から投げていかなければいけないんですよ。胸の大きな筋肉を使って、腕を遅らせてムチのようにしならせる。腕だけの力で投げようとすると、肩やひじに負担がかかってけがをする原因になります。大きな筋肉を使って、疲れない体をつくるのは最も重要な要素だと思っています」

 いかがでしたか。親世代は子どもに自慢できるシャープな体づくりを、野球少年はけがをしにくい体づくりが期待できそうですね。次回はメンタル面の調整法について。「他人の評価がどうしても気になる」「試合やテストの前に緊張してしまう」などの悩みを鳥谷さんがアスリートの視点で解決します。お楽しみに。

鳥谷敬(とりたに・たかし)

 1981年、東京都生まれ。2004年に早大からドラフト自由枠で阪神に入団。20年からはロッテでプレーし、21年限りで現役引退した。阪神時代の1939試合連続出場はプロ野球歴代2位(667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録)。13年WBC日本代表。ベストナイン6回、ゴールデングラブ賞5回受賞。通算成績は2243試合で打率2割7分8厘(2099安打)、138本塁打、830打点。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。
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  • ぴょん太 says:

    前のめりの歩き方。ちょっと難しい。動画であるかな?大腿四頭筋を鍛えろ!と言う方がスクワットをすることで効果が出る.と、おっしゃっていたけれど、お尻、腰、腿は重要だという事がわかった。

    ぴょん太 女性 70代以上
  • 夕夏 says:

    私にとっては阪神=トリさんやったから、この記事はめっちゃうれしい。甲子園で颯爽とプレーするトリさんをもう一度見たい。

    夕夏 女性 30代
  • あゆみ says:

    鳥谷さんのかっこいい声が頭の中によみがえってくるようなインタビューで、うれしく思いました。教えてもらった歩き方を試しました。今のところ、おしりがきついですけど、続けてシェイプアップしたいと思います🙂🙂🙂

    あゆみ 女性 40代
  • つばき says:

    トリさんの記事。楽しそう。早く次の記事を読ませて。🙂🙂🙂

    つばき 女性 30代
  • ミト says:

    鳥谷さんの記事を見つけて、思わず「えっ、ウソ?」って思ってうれしくなってしまいました。読んでみると、とてもフランクで理論的な鳥谷さんの言葉がたくさんあって、じっくり読んでしまいました。メンタル編も期待しています。

    ミト 女性 30代

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